next up previous contents
: 22. : 二冊目 : 20.   目次

21.

彼はどういう姿をしているのか?

華奢になるべく自然が意図した人間である彼は、不本意ながら太っている。手足が貧弱でなければ、蜘蛛になぞらえるのが適切かもしれないー膨れた腹に最小限の四肢。禿げていて、燦めく頭蓋を横切ってまばらな側面の髪の長い房を硫くという、効なき虚栄を培っている。分厚い眼鏡はしみのある青い眼を増幅する。痕跡的な耳たぷ、しばしば私は気がついてみるとこれをじっと眺めている、ひとつにはそれが彼を悩ますのがわかっているからだ。全体的な非実体感、まるで肉はそっくりそのままバターであってその内部のメタリック・スキリマンに何の害も与えることなくそぎとれるかのよう。大層ひどい体臭(同じバターが腐んだというところ)。ひどい喫煙咳。あごの下側にただひとつ永久的な丘疹、これを本人は「ほくろ」と呼ぶ。



T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日