next up previous contents
: 19. : 二冊目 : 17.   目次

18.

スキリマンの人となりについて。

彼は名声をそねむ。彼は、世間で知った特定の人物について、その業績や能力を自分が嫉んでいることを明々白々にせずには、語ることができない。ノーベル賞の受賞者は彼を激昂させる。彼は、自分の分野での専門的な論文を、それが他人の発想になるものかと思うと、殆ど読むことに耐えられない。正当な評価によって賞賛することを余儀なくされればされるほど、それだけ彼は(内心)歯ぎしりする。薬が彼に影響を及ぼしはじめている今(ほぼ六週間になる)、彼の意気が昂まりつつあるのが感じられる。彼の歓びは、先に登った者たちが登撃の最高地点に残していった目印を越えていく、登山者のそれだ。殆ど、彼が名前を照合しているさまが思い浮びそうなほどだ「あれがヴァン・アレン!」とか、「いまハイゼンベルクを越えたぞ」



T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日