next up previous contents
: 15. : 二冊目 : 13.   目次

14.

この点にそぐわしいと思われる、歴史上の興味深い事実。

十九世紀の科学者、オーリアス-テュレイヌは、軟性下疳と梅毒は同一の病気であり、「梅毒接種」の技術によって抵抗力がつき、治療の期間も短くなり、再感染や再発からも安全になる、という仮説を展開した。一八七八年、オーリアスーテュレイヌが死んだ時、彼の遺体は、彼みずからが自身に用いた「梅毒接種」の処置による傷でおおわれていることが発見された――すなわち、梅毒の膿を自分自身の肉体の切開いた箇所に導入していたのである。



T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日