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: 14. : 二冊目 : 12.   目次

13.

ハーストからメモ。スキリマンについてもっと語れとのおおせ。HHは疑いもなく知っているのだから、私としては避けるような問題もない。

では事実を。彼は五十代初めの男性、不愛想なほう、相当な生のままの知性。私のようなりベラル派としては、本質的にドイツ人、と想像したくなるような種類の、原子物理学 者。タイプは、無念、国際派。五年ほど前、スキリマンはAECでかなりの要職に就いていた。この組織のための、彼の最も顕著な仕事は、特定の構造の氷の洞窟で行なわれる核実験の非探知性を提示する理論の開発だった。これは当時の核「停止」の間のことであった。実験は行なわれ――そしてソ連、中国、フランス、イスラエル、さらに(不面目にも)アルゼンチンにまで探知された。スキリマンの氷の洞窟は、実は、遮蔽するどころかむしろ増幅するような効果があることが判明した。この失敗こそ、最近の最も悲惨な一連の実験を促進する因となったものであり、スキリマンは職を失うことになった。

彼はすぐに再就職した――ハーストがR&Dの長であるのと同一の団体に。ヴァチカンでのものと同じくちいに厳格な保安体制にもかかわらず、上層部にキャンプ・アルキメデスでの活動の本質に関する噂が流布しはじめていた。スキリマンは、より精密な説明を要求し、拒絶され、要求し、etC。遂に、彼をわれわれのささやかな残虐行為の当事者とすることが、但し彼自身がここに居を定めるのに同意するという条件つきで、とりまとめられた。彼が着いた時、パリジンに耐えて生残っていたのはミードと私自身だけであっ た。ひとたびこの薬の本質を理解し、その有効性を確信すると、彼は自分にも注入せよと主張した。



T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日