next up previous contents
: 12. : 二冊目 : 10.   目次

11.

事実とは何か? 私は本心から問う。もし(10)が事実なら、それは誰もが、聖ドニが梅毒患者の守護聖人であることを認めるから――コンセンサスによる事実だ。林檎が地面に落ちる、これはまあ、実験で実証できるかもしれない――実証による事実である。しかしハーストが私から得ようとしているのは、このどちらの種類の事実でもないだろうと思う。それがコンセンサスによる事実なら、私が関与しようとしまいと大した違いはないわ けだし、事実が実証的なもので、しかも稀少な新たなものであれば、たった一つでも発見できれば探究に生涯を費すような労苦も正当なものとなろう。(けれども、私の生涯ではない)

しからば、われわれに残されているものは何か? 詩だ内面の事実だ私の事実だ。そして、それこそまさに私が提出してきた事実ではないか。善意で。くそまじめに.さて、何をご所望ですかな? 嘘? 半ば詩にして半ば真実?



T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日