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: 五月十二日 : 一冊目 : 一冊目   目次

五月十一日

私の係の青年看守でモルモン教徒のRMがやっと配給の紙を持ってきた。最初に頼んでから三か月めだ。不可解なり、この心境の変化。アンドレアが彼に賄賂を使えるようになったのか。リゴル・モーティスはそれを否定する。さもありなん。二人で政治談議。RMが洩らしたヒントから、どうやらマクナマラ大統領が"戦術" 核兵器の使用に踏み切ったらしいと推察できた。たぷん、だからこの紙の恩はアンドレアではなくてマクナマラにあるわけだ。シャーマン将軍、お気の毒なシャーマン将軍が適切な攻撃手段を封じられていることに、RMはここ何週間も不平をこぼしていたのだから。きょうのようにRMが上機嫌の時は、あのぞっとする微笑、完全なしゃれこうべの歯の上に固く引かれた薄い唇に、ほんのかすかなユーモアのつもりらしきものがちらつく。なぜ私の知っているモルモン教徒はみんなあの同じふんづまりの微笑をするのだろう? しものしつけが並はずれて厳しいのか?

これは私の日誌だ。ここでは遠慮なしでいられる、遠慮なくいおう。私はこれ以上はないというほどみじめだ。



T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日