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: 六月八日 : 六月七日 : 六月七日   目次

追記――

要約すると? 地球儀を要約するくらいにやすやすと。

罪悪感はたしかにある。モルデカイの転落の動因となってしまったことについて。だからといって、われわれのほんの些細な行為がどこまで波及するのかと驚嘆することの妨げになるというわけではない。浮世を離れた修道僧は、危険が及ぶのは自分だけだと考えて過ちを娯しむ。ところが一世紀後に、彼の異端の説がいくつもの国家を揺がすことになるかもしれないのだ。たぶん保守主義者が正しく、たぶん自由思想は危険なものなのだろう。

だが、内なる本性の悪、ルイ二世がそれに異議を唱える! いかにしようと、彼を完全に黙らせることはできない。ときおり、彼の声が声高にしゃべるのを防ぐのに、あらんかぎりの意志の力を要する。彼は常に私の心の中にひそんで、理牲の王座を纂奪しようと待ちかまえているのだ。

しかし罪悪感は私の感じることのほんの一部にすぎない。まだしも、驚嘆や畏れのほう がずっと多い。何か、空の観察者に似ている。新たな惑星が視野にすっと入ってきたとき。あけの明星。ルシフェル、暗黒のプリンス。誘惑者。



T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日