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96.

〈大団円の構成要素〉(続篇)

モルデカイが説明した、いかに、キャンプAでの最初の数か月間に、囚人たちが疑いを招くことなく秘かに意志を伝えあえる方式が考案されたか。彼らの「錬金術的」駄弁はすべて暗号だったのであり、コードとしてはエジプト語を凌ぐ複雑さ、そこに絡まってこみいらせたのは頻発される自由形式の奔放な思いつき要するに、空電となるもので、いよいよ結構なことに、NSAのコンピュータ群をまごつかせることになる。ひとたびこの言語が確立されると、幾つかの研究が試み られたが、最も有望だったのは、スキパンスキーらがわれわれのつい先頃のブレーンストーミングでその一端に触れたもの――脳波の機械的な複製と貯蔵、ケンブリッジでのフローリーの研究の線に沿ったものだった。われわれを阻んだ考察は、いかにして脳の内容を貯蔵庫からとりだすか? そのための理に叶った容器はただひとつ、他人の肉体であろう。

モルデカイと仲間たちはこの結論を引出した、そしてお次は――どんな方法を開発したとしても、それは一発で録音と再生を行なえりるももるものでなくてはならない、即ち、それは精神互換装置となる、と。彼らが、その間ずっと「マグナム・オパス」のペテンを保ち続けながら、そうした装置を最小限の実地の実験で開発できたこと、その無害性を証明するために招き入れられたエレクトロニクス技師たちに対して、目的とする用途を隠蔽しおおせるものに設計できたこと、そして、最初の実地操作であれほどまでの成功に持っていけたということ――これこそ、私がこれまでに見たパリジンの力の最も畏怖すべき証拠である。

(ささやかな事後のイロニーをひとつ。私は、互換装置の主要部分の配線図を、ポオの方式で、Mの机の上のごちゃまぜ仁なった書類の中に匿されているのを目にしていたのだ。ジョージ・ワグナーの〈歳出簿〉の中にあるのをみつけた「王様」と首の格子文様の絵だったのである。)



T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日