next up previous contents
: 85. : 二冊目 : 83.   目次

84.

しばしば鎮痛剤の注射のあと、心が仮象のヴェールの彼方を見通せるように思える、エピファニー的な瞬間がある、そのあと現実世界に戻って、遠い彼方から持ち帰った金塊を見てみると、愚者の黄金だと知れる。誰がからかわれているのか問いたもうなからかわれているのは私なのだ。

無念心が、いまなお、化学薬品の桶にほかならず、その真埋の瞬間が、その酸化の率の作用にすぎぬとは。



T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日