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: 76. : 二冊目 : 74.   目次

75.

記憶にはまた、そのミュージックがある(そうであって当然だ、なにしろミューズたちの母だったのだから)聞かれたものも、また聞かれなかったものも。聞かれなかったもののほうが甘美だ。私は暗いベッドに横たわって囁く――

光輝が宙から墜ちてくる

女王ら若く清らに死んだ

塵がヘレンの眼を閉じた

私は病気だ、死ぬはずだ

 

   主よ我等にお慈悲を!



T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日