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: 74. : 二冊目 : 72.   目次

73.

わが光は消衰――私は長い待機を開始する。

忠僕は不慣れな仕事で気むずかしくなって きている。新たな要求で彼の好意に負担をかけるのは気が進まない。

点字はどうか? 

だが手は震える。

まだ記憶の視力はある――スイスの高原(本当に、山々よりも素晴しい)での散歩、アンドレアと一緒に磯で貝殻やおはじき用の小石をさがしてまわったあの日、彼女の微笑、眼の下の血管の好ましくない紫色、そして日常世界のテーブル上に積上げられた光輝く静物のすべて。



T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日