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72.

きのう一日中、ハーストには手が届かなかった。今は朝――なおも彼は私と話をするのを拒んでいる。

テレビにはまだ何ひとつ(ホワイトハウスでの動きも、ウォール街での変動も、真相に迫っていきそうな噂も)公表の準備が整えられつつある徴候はみられない。政府は、ニュースが遅らせるわけにはいかないことを認識し ていないのか? 一般市民の30パーセントに被害が及べば、産業社会はもうまったく、整合的に運営していくことができなくなってしまうのだ。

そして、それが最大の危険では、まずあるまい。突如として解放されたこれほどまでの方向性なき知性の、まったく分裂的な力を考えてもみるがいい。すでに各種機関は亀裂をみせはじめている。たとえば、わが国の大学制度が存続していくかどうか、疑問に思う。 (それとも、これは希望的観測だろうか?) 宗教はすでにあらゆる方向に逸脱しつつある(例、ジャックス)。カソリック教は、少なくともその聖職階層は、独身主義のおかげで維持していけるはずである。

しかし、それ以外のどこでも、感染しそうなのは、まさしく、その安定に不可欠な人々なのだ――コミュニケーション産業、郊外に住む管埋者層、法曹界、政界、医師、教育界。

ああ、めざましい大崩壊となることだろう!


T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日