next up previous contents
: 72. : 二冊目 : 70.   目次

71.

医務室へ戻る問合いが縮ってきている。心は、一方、わが道を行く。

「私は何について話していたのか? ああ、そうだ――」

私は、誰がこれほどまでに起りそうもないロマンスを創始したのか、思いめぐらせて楽しんでいるまた、なぜか、と。モルデカイだろうか? そして、それは純粋に個人的な恨みから出たもの、アメリカの〈グレート・ホワイト・ビッチ〉に尻を向ける最後のチャンスというわけだったのか? 或は、バスクがどう反応するかについての何らかの直観があって、彼の復讐はもっと普遍的なものだったのか?

そして (La) バスク自身は――なぜ汚らしい小さなスピロヘータを招き入れるのだろう? 彼女のどこかの部分(たとえば、尻)が、あの歳月の間、ただひたすら、何かでっかい黒い雄が侵入してくる日をぶらぶら待っていたというのか? それとも、もっと先見の明があったのか? モルデカイは、ただ必要な道具、切望される病気と彼女の血との仲介役にすぎなかったのか? きっと彼女の屈服には何らかのファウスト信奉者的要素があったのだろう。だとしても、プロメテウス的な贈物を持ってキャンプ・アルキメデスを脱出することまで、計画の一部だったのだろうか? パンドラが見知らぬ男の匣を受けとったのは、男が去った途端にそれを開けることができるためにすぎなかったのか?

来週またこの番組にダイヤルを。



T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日