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67.

博物館は開館し、そして閉館した。十二分の証しがあって、私の目的は達成された。

集積された加数から最初に総和を得たのはスキリマンだった。彼は、殺人犯/たちが思いやり深くも新聞のために提供した両ヴェイジー殺害の写真の前で、急に咳の発作を起した。呼吸を回復すると、彼は怒って私にくってかかった――「いつから知っていたんだ、サケッティ?」

「どれも厳密に分類された情報ではなかったんですよ、博士、みんな新聞から出たものなんです」もちろん、スキパンスキーを通じて、スキリマンが新聞の読者ではないということは確かめてあった。

今では、大半のクワットたちにも事情が呑みこめはじめていた。ひそひそ話をしながら私たちのまわりに集ってきた。ハーストは、災いの前兆に直面して、なすすべもなく、解説者を求めてあたりを見まわしていた。

スキリマンは目にみえて気の転倒を緩和し、礼儀正しさの方向へ舵をとっていた。「これらの切抜の最初のものの日付がいつなのか、伺えませんかな?」

「アドリエンヌ・レーヴェルキューンの〈スペーシャル・フーガ〉の初演は八月三〇日です。けれども、彼女の件はかなり問題のあるものです。私がこれの出展に踏切ったのは、アスペンが非常に近いからで、また彼女がきっとレスビアンだからです」

「そういうことか!」と彼は、再びたまらず怒りだして言った。「なんと私は阿呆だったのか」

「あなたもですか?」と私は誠心よりたずねた。これを彼は愉快には受けとらなかった。彼がほんのわずかでも自分の肉体と懇意にしていたなら、きっと私を殴っていたはずだ。

「きみたち二人は何について話しているのかね?」とハーストが、クワットたちの間を掻き分けて進みながらたずねた。「これは何なのだ? なぜ、きみたちはみんな、こんな……ニュースの切抜の束をめぐって昂奮しているんだ? あれは恐るべき殺人だったよ、私もそれは認めるが、いまにきっと、警察が犯人を捕まえるはずだ。そうだろう? きみたちは犯人が誰なのか、見当をつけたのかね?」

「あなたが犯人なんですよ、HH。ぼくがこの何か月もの間、説明しようとしてきたようにね。ジョージ・ワグナーの殺害の犯人、モルデカイの、ミードの、そしてまもなく――ぼくの、ね」

「ばかな、ルイス!」彼は精神的支援を求めてスキリマンのほうに振向いた。「彼は気が狂ったんだ、みんな、末期に向うと発狂するようだ」

「その場合には、早急に世界が彼に追いついているでしょうね」と、クワットたちのうちで大胆なほうの一人、ワトソンが口を挾んだ。「なぜなら、呪われた全世界がなにはともあれ、全国があなたのパリジンに感染してしまっているのは、確実なことのように思えますんでね」

「不可能だ!」とハーストはなおも揺るぎない確信をもって宣告した。「絶対に不可能だ。われわれのセキュリティ体制は……」そして今、それはさしものハーストにも思い及んだ。「彼女が?」

「いかにも」と私はいった。「エイミー・バスクですよ。ええ、疑間の余地なく彼女です」

彼は神経質に笑った。「まさか、老獪ジークフリートが? きみは誰かが彼女の蕾を散らせたなどというつもりじゃないだろうね? 笑わせないでくれよ!」

「彼女の蕾でないとして」とスキリマンがいった、「それだと、どうやらジークフリート要塞線は包囲されて背面から攻撃されたということになりそうですな」

ハーストの皺のネットワークが締まって当惑の篩に変った。それから、理解と同時に、嫌悪が来た。「しかし、いったい誰が……私は真面目に言っているんだぞ!」

私は肩をすくめた。「われわれの誰でも可能性はありましたよ、と思いますがね。全員が彼女のオフィスで個人授業を受けましたからね、ぼくじゃなかったのは請け合えますよ。いちばん可能性のあるのは、モルデカイでしょうね。おぼえていらっしゃるかどうか、彼の短中篇のヒロインはあの名医にもとづくものでしたよ。また、あの小説の中に、ヒロインのルクレチアがオカマを掘られていることを仄めかす箇所がひとつだけありましてね、とはいってもこの点の疑惑が、まあ、後から眺めてのものにすぎないってことは認めますけれど」

「そうか、あの畜生め! 私はあの黒んぼおかま野郎を実の息子のように信頼していたのに!」


T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日