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60.

私は低い、低い。

病の水が土手のまわりに寄せてくる。もう砂嚢はない。私は、わが家の屋根の上から、洪水を待つ無人の街路を眺める。

(お助けください、ああ紳様。水は私の魂にも入りこんできているのですから。私は深い泥沼に溺れ、そこにはまったく立っていられないのです――私は深い水中に入りこんで、そこでは洪水が私の上に溢れるのです。)

私はいま一度みつめる、医務室で、水のグラスを。今では始終、鎮痛ピルに頼りきりだ。

誰も私を訪ねてこない。


T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日