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: 60. : 二冊目 : 58.   目次

59.

私は未恢復だ。対決の時に無力であったことで、今、自分を責める。沈黙は、いつも神には実によく資したものながら、畢寛、わが籠手にしてわが盾では、なかったのだ。それが痛い。

だが、どんな返答をすればよかったというのか? スキリマンは、そうかもしれないとわれわれみんなが恐れていることを、思い切って言ったのであり、キリストでさえも、最終的には、〈誘惑者〉に対して、これをいうより以上の論法を持たなかったのだ、去れ!

ああ、サケッティ、なんとおまえは常にそこに帰りつくことか。〈キリストの摸倣〉に。


T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日