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53.

太鼓腹のスパイダーマンと一戦、これでおそらく私は打負かされたのではあるまいか。

スキパンスキーが部屋に来て、こうたずねた(とうとう好奇心のほうが上回って)なぜそうまでドン・キホーテのように、兵役忌避者として投獄されていると言い張るのか、簡単に(年齢、体重、また妻帯という状況も考慮に入れた上で)こっそりと軍隊から逃げ出 せるだろうに。機会を与えられてこの話題に到達しない人間には会ったことがない。(聖人たることの些細な不便1まったく不本意ながら、〈告発者〉となって、会う相手の誰にも疾しさを呼び起してしまうことだ。)

スキリマンが〈岩眼〉と〈忠僕〉にエスコートされてご入来。「お邪魔でなければいいんだが?」と愛想よく問う。 「いいえ、ちっとも」と私は答えた。「どうぞお楽に」

スキパンスキーが立ちあがった。「失礼しました。まさか、あなたがこんなに――」

「かけたまえ、チータ」とスキリマンは有無をいわせぬ口調でいった。「私が来たのはきみを連れ去るためではなくて、きみやきみの新しい友人とおしゃべりするためだ。シンポジウムというわけだ。われわれの遊び場の管理人、ハースト氏は、私がもっとこちらと附合うべきだ、彼にオブザーヴァとしての特殊な才能を発揮するチャンスが与えられねばならん、と唱えとったよ。私は、どちらかというと彼をないがしろにしてきたのではないか、サケッティ氏に十全の信を置いていなかったのではないかと恐れる、というのも――きみが、チータ、私に気づかせてくれたように――彼は危険でなくもないんでね」

私は肩をすくめた。「カエサルからお誉めにあずかり……」

スキパンスキーはなおも優柔不断に席の上に腰を浮かせていた。「ええ、その、いずれにしましても、あなたにぼくが必要になるとは――」

「奇妙なことだが、必要なんだよ。だから、かけたまえ」

スキパンスキーは腰をおろした。二名の衛守は扉の両側に対称形に身を配した。スキリマンは私の向いの席に着き、資格に疑義のある魂がその間に。

「お話のつづきですが?」



T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日