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ノイズ

 Noise (Journal of Finance, July, 1986)

  フィッシャー・ブラック  山形浩生

要約:
世界と私たちの世界観にノイズが与える影響は大きい。小さな事象が大量にあるという意味でのノイズは、しばしば少数の大きな事象よりも、要因としてずっと強力なものとなる。ノイズは金融市場でのトレードを可能にするし、したがって金融資産の価格が観察できるようにしてくれる。ノイズは市場を少し非効率にするが、しばしばその非効率性を人々が利用するのを阻止する。産業部門ごとの将来の嗜好や技術についての不確実性という形のノイズは、景気循環を作り出し、政府介入を通じた改善をきわめて困難にする。合理的なルールに必ずしも従わない期待という形のノイズは、現状のインフレを引き起こす。少なくとも金本位制や固定為替レートがなければそうなる。他の取引価格との対比における相対価格についてのノイズは、為替レートやインフレ率の変化が取引や投資フローや経済活動に変化を引き起こすのだというまちがった考えを私たちに抱かせる。もっとも一般的な話として、ノイズは金融市場や経済市場が働く仕組みについての、実務的および学術的な理論の検証をきわめて困難にする。だから私たちは概ね、手探りで動くしかない。


目次


はじめに

 この論文では「ノイズ」を複数の意味で使います。

 金融市場についての私の基本的なモデルでは、ノイズは情報と対比されています。人々はときには、通常のやり方で情報に基づきトレードを行います。そうしたトレードから利益を期待するのは正しいことです。その一方で人々はノイズに基づいて、それが情報であるかのようにトレードすることもあります。ノイズトレードで利益をあげるつもりなら、それはまちがっています。でもノイズトレードは流動的な市場の存在に不可欠なものです。

 人々の世界観についての私のモデルでは、ノイズは人々の観察を不完全にします。株式やポートフォリオの期待収益をわからなくしてしまうんです。金融政策がインフレや失業に与える影響もわからなくします。何よりも、事態を改善するために何ができるかをわからなくしてしまいます。

 私のインフレモデルでは、ノイズは期待の恣意的な要素で、期待と整合する恣意的なインフレ水準をもたらします。私の景気循環や失業のモデルでは、ノイズはまだやってきていない情報です。各部門内での将来の需給条件についての不確実性にすぎません。その情報が到着したとき、嗜好と技術の間によい一致が見られる部門の数が、経済活動の指標となります。私の国際経済のモデルでは、相対価格の変化がノイズとなるため、需要供給の条件が物価水準や為替レートとほぼ無関係だというのが見えにくくなります。相対価格変化がなければ、購買力平価 (PPP) のあるバージョンがほとんどの場合には成り立つということがわかるはずです。

 私はこうしたモデルを均衡モデルとして考えています。合理的均衡モデルではありません。それはノイズの役割のせいもあるし、また個人の効用を私が風変わりなものに依存させているせいもあります。が、それでも均衡モデルにはちがいないんです。もともとこれらはすべて、資本資産価格モデル (CAPM) の背後にある論理を、株式市場以外の市場や、伝統的な最適化の発想にあてはまらない行動にも適用しようとする活動の一環として導出したものです。

 これらのモデルはかなりちがう分野のものです。ファイナンス、計量経済学、マクロ経済学です。「ノイズ」という言葉が説明に入っている以外に、これらに何か共通点はあるでしょうか? 思うに共通の要素は、世界で起こることを説明するために、相互に関係のない分散化された一連の原因要素を重視している点だと思います。株価が理論値から外れるようにする、単一の要素というのはありません。それどころか少数の要因ですらない。それを無視したら計量経済学の研究があさっての方向に向かってしまうというような、単一の要素もありません。そして国内あるいは国際的な景気変動を説明する、単一または複数の説明要因もないのです。

 他の人の業績は大いに活用してきましたが、この分野の研究者のほとんどは、私の結論がまちがっているか、検証不能か、既存の証拠で裏付けられないと考えるのはわかっています。私の見方と他の人々の見方とを切り分けられるような、伝統的な実証検定はまったく思いつきません。最終的に他の人々の懐疑論に対する私の対応は予測をすることです。いつの日か、この結論は広く受け入れられるようになるでしょう。ノイズトレーダーの影響ははっきりしてきます。伝統的な金融政策や財政政策は役に立たないものと見なされるようになります。為替レートの変化は、航空券の実質価格変動くらいの注目しか集めなくなることでしょう。

 おそらく最も重要な点として、研究というのは、ごくたまにしか信頼できて意味のある結論には到達できないプロセスと思われるようになるでしょう。これはあらゆる段階に忍び込むノイズのせいなのです。

 私の結論が受け入れられなければ、それはノイズのせいだということにしておきましょう。

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I. ファイナンス

 ノイズは金融市場を可能にしますが、同時にそれを不完全にします1

 ノイズトレードがなければ、個別資産の保有はほとんどなくなるでしょう2。人々は直接的にせよ間接的にせよ個別資産を持つでしょうが、それをトレードすることはほとんどないはずです。広い市場リスクへのエクスポージャーを変えようとして取引する人々は、ミューチュアルファンドやポートフォリオ、インデックス先物、インデックスオプションなどをトレードするでしょう。個別企業の株式とトレードする理由などほとんどないはずです3。使うための現金が欲しい人や、受け取った現金を投資したい人々は、短期証券でのポジションを増減させたり、マネーマーケットミューチュアルファンドや、不動産などの資産が担保となっているローンでポジションを変えることになります。

 個別企業について情報や洞察を持つ人物はトレードしようと思いますが、そのトレードの相手方になってくれるのは、個別企業についての情報や洞察を持つ別の人物だけだということに気がつきます。その相手方が持っている情報を考慮した場合、そのトレードはそれでも実施する価値があるのでしょうか? その二人のトレーダー両方の情報を持つ人物の観点からすると、どちらかがまちがいを冒しているはずです4。まちがいを冒しているほうが取引をやめたら、情報に基づくトレードは起きません。

 言い換えると、トレーダーがちがう信念を持っていて、だれの信念も他のどの人物の信念と比べて優劣はないような世界において、情報トレーディングはあるがノイズトレーディングはないというモデルを構築するのは筋が通らないと思います。信念のちがいは最終的には情報のちがいから生じるものであるはずだからです5。特別な情報を持つトレーダーは、他のトレーダーが独自の特別な情報を持っているのを知っているから、自動的にトレードに走るようなことはしません。

 でも個別銘柄のトレードがあまりなければ、ミューチュアルファンドやポートフォリオやインデックス先物やインデックスオプションのトレードもあり得ません。それらの価格づけが現実的に不可能になるからです。金融市場の構造すべては、個別企業の株式についてのかなり流動的な市場を前提としているのです。

 ノイズトレーディングが、ここに欠けている不可欠な要素を提供してくれます。ノイズトレーディングは、ノイズを情報であるかのように使ってトレードします。ノイズに基づいてトレードする人物は、客観的にはよせばいいのに、トレードをしたがります。自分がトレードに使っているノイズが情報だと思っているのかもしれません。あるいはトレードするのが好きなだけかもしれません6

 市場にノイズトレーダーがたくさんいれば、いまや情報を持つ人はトレードする価値が出ます。高価な情報を探して、それに基づいてトレードしても元が取れます。ほとんどの場合、集団としてのノイズトレーダーはトレードにより損をして、情報トレーダーは集団として見れば儲かります。

 ノイズトレードが増えれば、それだけ市場の流動性は高まります。これは、価格の観察を可能にするトレードの頻度が増えるということです。でもノイズトレードは実は価格にノイズを入れます。株価は、情報トレーダーがトレードに使う情報と、ノイズトレーダーがトレードに使うノイズの両方を反映することになります。

 ノイズトレードが増えると、情報トレードが儲かるようになりますが、それは価格のノイズがふえるからにすぎません。情報トレードの量が増えても、価格の効率性が高まるわけではないのです。参入する情報トレーダーが増えるだけでなく、既存の情報トレーダーたちは大きなポジションを取り、情報にお金をかけるようになります。でも価格の効率性は下がります7。流動的な市場に必要なものが、価格の効率性を下げるのです。

 情報トレーダーたちはノイズを排除できるほど大きなポジションは取りません。一つには、彼らの情報は優位性は与えてくれますが、利潤を確約するものではないからです。大きなポジションを取るとリスクも増えます。だからトレーダーが取るポジションには限界があります。一つには、情報トレーダーたちは自分がトレードに使っているのがノイズではなく情報なのだとは決して確信できません。手持ちの情報がすでに価格に織り込み済みだったら? そんな情報に基づいたトレードはノイズに基づいたトレードと同じです8。実際のポートフォリオ収益率は、市場収益率などの要因について調整した後ですら、期待収益のきわめてノイジーな推計なので、情報トレーダーに優位性があると示すのはむずかしいことです。同じ理由から、ノイズトレーダーが損をしていると示すのも困難です。だれが情報トレーダーでだれがノイズトレーダーかについては常にあいまいな部分が残ります。

 ノイズトレーダーたちが株価に入れるノイズは累積的なものとなります。これは酔っ払いがますます出発点から遠ざかるのと同じことです。でもこれを相殺するものとして、情報トレーダーたちが行う研究や行動があります。株価が価値から乖離すれば、それだけ情報トレーダーは強気になります。参入する人々が増え、取るポジションも大きなモノになります。吸収合併、LBOなどのリストラも行うかもしれません。

 だから株価は次第にその価値に向かって戻ってくる傾向が出ます9。この動きは常にきわめてゆっくりしたものなので、見てもわからないほどです。もしそれが高速なら、テクニカルトレーダーがそれに気がついて加速させるでしょう。充分にゆっくりしていれば、テクニカルトレーダーはそれに気がつかないか、見ているものについて自信が持てず、あまり大きなポジションを取ろうとしないでしょう10

 それでも、株価が価値から大きく乖離すれば、それだけ速く元に戻ろうとします。これは、価値から離れる可能性の度合いを制約することになります。価値のあらゆる推計はノイジーですから、価格が価値からどのくらい離れているかは、決してわかりません。

 しかしながら、効率市場というのを、価格が価値の倍数2以内、つまり価値の半分よりは大きく2倍よりは小さい状態と定義してみましょう11。この倍数2という数字はもちろん適当です。が、直感的にはこんなものだろうと思います。価値の不確実性の源と、価格を価値に引き戻そうとする力の強さを考えればこのくらいでしょう。この定義からすると、たぶんほとんどの市場は、ほとんどの場合に効率的だと思います。「ほとんど」というのは少なくとも90%ということです。

 価値は観察できないので、情報の中身がまったくない事象でも、価格に影響することは可能です。たとえばS&P500指数に株が一つ追加されたら、一部の投資家はその株を買います。その購入によって、しばらくは価格が押し上げられます。情報トレードがそれを引き下げますが、でもそれには時間がかかります12

 同様に、2種類の一般株を持つ企業が片方の株を増やすと、増えたほうの株の価格は、増えていない方の株に比べて下がります13

 価格も価値も、非ゼロ平均を持つ幾何学的ランダムウォークプロセスに大まかに似ています。価格と価値の変化率の平均は時間とともに変わります。価値プロセスの平均が変わるのは、嗜好と技術と富が変わるからです。価値が上がれば下がるかもしれないし、価値が減れば上がるかもしれない。価格プロセスの平均が変わるのは、価格と価値の関係が変わるから (そして価値プロセスの平均が変わるから) です。価格は価値の方向に動く傾向を見せます。

 価格の短期的な変動率は、価値の短期的な変動率より大きくなります。この文脈だとノイズは情報とは独立しているので、ノイズが引き起こす価格の変化率の分散が、情報の引き起こす価格の変化率の分散と同じになるなら、日々の価格変化率の分散は、日々の価値変化率の分散のほぼ2倍になります。でももっと長期で見れば、分散は収束するでしょう。価格は価値に回帰する傾向があるので、数年後の価格の分散は、数年後の価値の分散の2倍よりはずっと小さくなるはずです。

 変動性は時間とともに変わります。企業の価値の変動性は、その企業やそのレバレッジについての情報がやってくる速度なんかに影響されます。企業の価値の変動性に影響する要因はすべて変わります。価格の変動性は、こうしたすべての理由やそれ以外の理由でも変わります。ノイズトレーディングの量や性質を変えるものはすべて、価格の変動性を変えます。

 ノイズトレーダーは、影響力を持つためにはトレードしなければなりません。情報トレーダーは、他の情報トレーダーよりもノイズトレーダーと取引する場合が多いため、ノイズトレーディングを減らすと、情報トレードも減ります。だから価格は、市場が閉まっているときには、開いているときほどには動きません14。ここで関係している価格は、ほとんどのノイズトレーダーがトレードをしている市場です。

 ノイズトレーダーは、値段の高い株よりは値段の低い株を好むかもしれません。もしそうなら、株式分割をすればその株の流動性も日々の変動性も上がるはずです。低価格の株は、高価格の株よりも値づけの効率性が下がります15

 株価はこの価値のノイジーな推定となります。企業収益 (に適切なPERを掛けたもの) は、その企業の株の価値についての別の推定になります16。この推計もノイジーなものになります。ノイズトレーダーたちがトレードにあたり、必ずしも企業の収益を見るとは限らないので、収益率からの推定は、株価からの好いてには含まれない情報を与えてくれます17

 企業収益に基づく価値の推計には実に大量のノイズが含まれているので、ポートフォリオ管理にPERを使う簡単な方法はありません。低PERの株が他の株に比べて期待収益が高い場合でも、低PER株が類似の他の株よりも低い収益率になる期間はあるし、その期間が何年も続くことだってあり得ます。

 言い換えると、ノイズは儲かるトレードを行う機会を作り出してくれますが、同時にトレードで儲けるのを困難にしてしまうのです。

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II. 計量経済学

 なぜ人々はノイズに基づいてトレードするんでしょうか?

 理由の一つは、それが好きだからというものです。もう一つの理由は、まわりにノイズが大きすぎるので、自分がノイズに基づいてトレードしているとは知らないということです。自分では情報に基づいてトレードしているつもりなんです18

 こうした理由のどれも、人々が富の期待効用を最大化するためにしか物事をやらない世界には、当てはまりません。また人々が常に世の中にある情報すべてを活用する世界にも当てはまりません。トレーディングが効用関数に直接入るようにすると (これは人々はトレードが好きなのだと言うのを言い換えているだけです)、どこで止めるべきかはなかなか判断がつきません。どんなものでも効用関数にぶちこめるなら、人々が期待効用を最大化するように行動するという発想は、その中身の相当部分を失いかねません。

 だから、あれこれ効用関数に取り込むのは慎重になる必要があります。本当に説得力ある証拠が存在する場合にとどめるべきです。私はこれがそういう場合だと考えます。

 そうしたもう一つの事例は、企業の配当支払です。いまの税法からして、非系統的な株の買い戻しのほうが配当支払よりもよいのは明らかに思えます。人々が税引き後の富の効用だけを最大化したいなら、企業が決まった配当を払うべき理由はありません。そして配当を支払うときには株主 (少なくとも個人株主) には、追加の税金という不快な思いをさせてごめんなさいと言うべきです19

 配当が、企業の財務諸表や公式発表以上の情報を伝えるのだという考え方は、いささか無理の大きすぎる空想です20。特に奇妙なのは、一部の企業は配当を払っているのに、定期的に一般株の追加発行を行って、配当で支払っている金額よりも多くの資金を調達するということです。こうした企業の場合、配当が株式の追加発行という厳しい手順を経るように強制しているのだとは言えません。配当を払わなくてもそうした企業は一般株を発行することになるからです21

 おそらく、投資家は配当のことを直接気にするのだと想定せざるを得ないと思います。配当を効用関数に含めなくてはなりません。

 期待効用に基づいて考え続けられるということ自体、喜ぶべきことなのかもしれません。いまや人々が期待効用の教えにはしたがわないという証拠が大量に生まれています。特に重視すべきなのは、人々は損失を回避するためにある種のギャンブルを行うが、利得の見通しがあるときには同じギャンブルを拒否する、という発見です。これはリスク忌避と整合するものでしょうか?22

 通常の期待効用の教義に違反するように見える意志決定ルールを使う大きな理由はノイズだと私は考えます。この世にはノイズが多すぎるので、人々は大ざっぱな行動方針を採用します。この行動方針をお互いに共有しあい、そしてそのルールが単純すぎると見抜くほどノイジーな証拠解釈の経験を積んだ人はきわめて少ないのです。やがて、おそらくはメディアや証拠解釈の科学的な学派を通じ、こうした行動方針はもっと高度になり、期待効用モデルの有効性も高まるのでしょう。

 でもきわめて高い訓練を受けた人々ですら、ある種のまちがいを一貫して繰り返すようです。たとえばデータを見るとき、二つのできごとがいっしょに起きると、片方がもう片方の原因だと思ってしまう強い傾向があります。もっと強い傾向は、最初に起こったものが次に起きたものを引き起こすと思ってしまうことです。きわめて単純な場合には、こうした傾向に抵抗するのは簡単です。でも計量経済学研究がもっと複雑になると、どうもそれがこっそり戻ってくるようです。ときには、回帰分析研究から少しでも結論なんか引き出していいのかどうか疑問に思うほどです。

 世の中にはノイズが多すぎるので、一部のものはそもそも観察できないのです。

 たとえば、市場の期待収益率はわかりません。

 どう見ても、期待収益率は次第に変わるようで、しかもその変化がなめらかに起こると考えるべき理由は特にありません。期待収益率の推計値として、過去の平均収益率は使えますが、きわめてノイジーです23

 同様に、需要供給曲線の傾きは、あまりに推計がむずかしいので基本的に観測不可能です。どんな推計も、頭の中から適当にひねり出すのと大差ないようです。大きな問題の一つは、計量経済分析にどれだけ変数をたくさん入れても、常に潜在的に重要な変数がぬけている可能性があるということです。そしてそれがぬけている理由は、その変数自体も観測不能だからなのです24

 たとえば、どんな需要曲線を推計するときにも、富が重要な変数となることが多いのです。でもい富自体は観測不能です。それどどう定義すべきかもはっきりしません。取引されている資産の市場価値はその一部ではありますが。取引されない資産、とくに人的資本の価値のほうがほとんどの個人の場合には大きい。個人にとっての人的資本の価値を観測する方法は存在しないし、個人の人的資本を積み上げて、経済全体の人的資本を算出するにはどうすればいいか、まったくはっきりしません。

 もし人的資本の価値を観測できたら、株式市場の変動と同じように変動するんじゃないでしょうか。それどころか、人的資本の価値変動は、株式市場の価格変動ときわめて相関が高いだろうと思います。とはいえ、人的資本の価値変動の規模は、おそらくは株式市場の変動規模よりは小さいとは思いますが25

 実は観測不可能なものを挙げるよりは観測可能なものを挙げるほうが簡単です。というのもあまりに多くのものが観測不可能だからです。金利は観測可能です。CPI先物のトレードが充分にあれば、実質金利も観測可能です。でもいまのところCPI先物のトレード先物にはノイズとレーダーが充分にいないので、まともな市場になっていません。

 株価と株の収益率は観測可能です。株の過去の変動性も観測可能で、日次の収益率を使えば株価収益率の現在の変動性観察に近いところまではこられます。また各種の株の収益率の相関の観察にも近づけます。

 経済の変数はファイナンスの変数よりは観察しづらいのが通例です。財やサービスの価格は観察しづらい。というのもそれはファイナンスの変数よりも、場所や取引条件にずっと依存するからです。量も観察しづらい。それは取引されるものが時間や場所によってちがうからです。

 だから経済変数を使う計量経済分析は、二つの理由で解釈がむずかしくなります。一つは、変数が観測できる場合ですら、回帰係数が因果関係について教えてくれるものがほとんどないこと。もう一つは、変数は多くの計測誤差を伴うし、その計測誤差が変数の真の値に関係しているからです。

 最も観測しやすい経済変数はマネーストックでしょう。ただし、その定義について合意できればですが。たぶん経済理論家にとってマネーストックがえらく魅力的な理由の一つは、それが観測しやすいということなんだと思います。でも私が見たところ、この最も観測しやすい経済変数は、経済の働きにおいてまったく重要な役割を果たしていません。お金は重要ですが、マネーストックは重要ではないのです。

 それでも、マネーストックはあらゆる経済活動指標と相関しています。というのも取引に使われるお金の量は、取引の量と関係しているからです。この相関は別に、政府がマネーストックをコントロールできるとか、マネーストックの変化が経済活動に影響するとかいうことを意味するものではありません26

 ファイナンスの実証研究は、経済学の実証研究よりやりやすい。それは証券価格のデータが経済学で使えるデータより一般に質が高いからです。でも証券価格の研究結果を解釈しようとする場合にすら、大きな落とし穴があります。

 たとえば、最近の実証研究の多くは「事象研究」という形を取っています。これは企業に影響する発表に対する株価の反応を見るものです27。株価にノイズがないのであれば、これは事象が企業にどう影響するかを解明するとても信頼できる手法となります。でも実は、株価の反応は、その事象が企業にどう影響するかについて投資家がどう考えるかを教えてくれるだけです。そして投資家の考えには、ノイズと情報の両方が含まれているのです。

 さらに、もし投資家がある企業の属性 (たとえば配当) について、その属性が企業価値にどう影響するかとは関係なく、直接気にかけているのであれば、事象研究はそうした事象が価値に与える影響といっしょに、そうした選好も拾ってしまいます。企業が配当を増やしたら、限界的な投資家が課税される世界では、将来配当の現在価値が下がります。それでも投資家は配当が好きなので、株価は上がるかもしれないのです。

 この問題への解決策はあるでしょうか? 単独の単純な解決策はないと思います。経済変数やファイナンス変数の相関は、確かに価値についてある程度の情報は与えてくれます。経済学やファイナンスにおける実験研究にも価値はあります。「様式化された事実」の分析も役に立つことが多い。風変わりな事象が特別な洞察を与えてくれることもあります。でも結局のところ、理論が受けいられるのは、それが伝統的な実証検定で裏付けられるからではありません。それは研究者たちがお互いに、その理論が正しくて有意義だと言い聞かせあうからなのです28

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III. マクロ経済学

 景気循環が予想外の一般物価水準変動や、政府支出水準の変化で引き起こされるなら、その種の不確実性はノイズとは言えないでしょう。単純すぎるからです。単純すぎるから、この種の不確実性は景気循環に大きな役割を果たさないと思います。経済の中の各種市場を含むモデルで、一般物価水準や政府支出水準の変化が、大きな景気循環を引き起こすほど巨大だったり予想外だったりするものは見たことがありません29

 その一方で、景気循環が部門をまたがる嗜好や技術のパターンすべてにおける予想外の変化で引き起こされるなら、その不確実性をノイズと呼んでもいいでしょう。私はこうしたシフトが経済全体にとって重要だと考えます。というのもそれが意味ある形では相殺されないからです。嗜好と技術との間で一致が見られる部門の数は、時間とともに大きく変わります。

 それが高いときには景気拡大です。低ければ不景気です30

 変化が相殺されない理由の一つは、それが部門間で独立ではないからです。石油を必要とする財やサービスの生産費用が高いと、関連部門の多くで生産費用は高くなります。別荘の需要が高いと、同時に多くの関連サービスも高くなります。部門を下位の部門に分割すれば、それだけ下位部門同士の相関は強まります。

 単純な経済から複雑な現代経済への移行に伴う多様性と専門特化の増大が、景気循環を大きくするか小さくするかははっきりしません。複雑な経済の多様性は、一つの作物の不作や需要ショックだけではさほど悲惨な影響は出ないことになります。その一方で、複雑な経済での専門特化は、嗜好と技術の間にミスマッチがあると、そのミスマッチを修正するために部門間で技能や機械を動かすのが高くつくということです。

 この説明では、お金や価格はまったく登場しません。すべては実質です31 。私の念頭にある話の一例として、私がお人形の生産を拡大し、あなたが絵本の生産を拡大したとします。もしあなたが実はお人形を欲しくて、私が絵本を欲しいのであれば、好況が生まれます。どっちも頑張って働き、生産物を交換して、お人形と絵本のどちらも高い消費が生まれます。でも実はあなたのほしいのがアクションおもちゃで私のほしいのが科学書なら、不景気です。おもちゃと本の相対価格は以前と同じかもしれませんが、どちらもそれほどがんばって働きはしません。生産物を交換できるものをそんなに高く価値評価しないからです。

 これは一例でしかありません。変化は機械の使用でも人の使用でも起こり得ますし、その根底にある不確実性は何をほしがるかだけでなく、何を作れるかについてのものにもなれます。

 各種部門内や部門をまたがる形での嗜好や技術の予想外の変化というのは、私たちが金融市場を論じるときに情報と呼んでいるものです。経済市場では、こうしたシフトをノイズと呼ぶ方が適切に見えます。伝統的なマクロ経済モデルが注目する、総量のシフトと対比させるためです。言い換えると、景気循環の原因は、計測してコントロールできる少数の大きなものではなく、計測しづらいし、基本的にはコントロール不可能な無数の小さなことなのです。

 ノイズや不確実性が経済市場に影響するのは、部門の内部でも部門をまたがる形でも、物理リソースや人的リソースをシフトすると費用がかかるからです。嗜好と技術がわかってから技能や資本を費用なしでシフトできるなら、できることと欲しいもののミスマッチは起きません。

 実体リソースをシフトする費用は明らかに大きなものだから、こうした費用が景気循環に影響することは考えられます。インフレ調整条項を契約に入れたり、マネーストックや物価水準変化を公表したりする費用は低いようなので、こうした費用が景気循環に大きく影響するとは考えにくい。

 政府は各種の産業部門で実際に働いている人に比べ、部門内および部門をまたがる将来の需給の詳細について、特に優れた情報を持っていることはないはずです。だから経済の不景気を避けるために政府ができることはないに等しい。こうした未知の将来の詳細は、そこに関わる労働者や経営者にとってはノイズであり、公務員たちには二重の意味でノイズです。個別産業について統計を集める公務員でもそれは同様です。

 私の景気循環理論が正しいかどうか明らかにしてくれそうな、伝統的な計量経済検定はまったく思いつきません。でも私のモデルが予測するのは、実質賃金が他の経済活動指標とともに変動するというものです。嗜好と技術の一致が多くの部門で見られたら、所得は上がり、賃金は上がり、産出は上がり、失業は下がります。だから実質賃金は景気変動と連動します。これは長期的にはもちろん成り立ちます。たとえば1920年代と1930年代の比較や、1930年代と1940年代の比較を見ればわかります。でもこれは短期でも成り立つようです。特に残業とレイオフを考慮すればなおさらです32

 この図式にインフレとお金はどう収まるのでしょうか?

 私はアメリカのような国では金融政策はほぼ完全に受動的なものだと信じます33。お金は物価や所得が上がれば増えます。そうしたときにはお金の需要が増えるからです。私は、お金の変化が物価や所得の変化をもたらす均衡モデルを構築できていません。でも物価や所得の変化がお金の変化をもたらす均衡モデルなら、何の苦もなく構築できます34

 お金の変化はしばしば所得の変化に先立ちます。でもこれは別に意外ではありません。お金の需要は当期所得だけでなく、期待所得にも影響を受けるからです。富 (市場価格で計測) の変化も所得変化に先立ちます。

 伝統的なお話だと、公開市場操作は知覚される富を変え、それが既存資産の需要を変え、それが物価水準変化につながるということになります。でも富を市場価格で計測すれば、公開市場操作は富にまったく影響を与えません。単にある富の形態を別の形態で置きかえるだけです。公開市場操作が金利を変え、それが経済にさらなる影響を与えるのだ、という人もいます。でもこれは均衡モデルでは起こり得ません。物価水準とインフレ率が変わらない場合、金利のちがいが資本の限界生産の一部要素に等しくなるような、各時点での均衡は存在しません。物価水準とインフレ率の変化を許したら、多数の均衡点が出てきますが、どの均衡点が選ばれるかを教えてくれるルールはありません。お金の変化がある均衡から別の均衡へのシフトをどのように引き起こすかという、論理的なお話は存在しないのです。

 金融政策でないなら、何がインフレ率を変えるのか?

 私は、物価水準とインフレ率は文字通り決定不能だと思っています。それは人々がそうだと思えばどんな水準にもなるのです。それは期待で決まりますが、期待は合理的なルールには従いません。人々が、マネーストックのある変化がインフレ率変化を引き起こすと信じれば、それが実現することは充分にあり得ます。というのも期待は彼らの長期契約に組み込まれるからです。

 同じ主張をする別の方法を挙げましょう。ある部門で、投入と算出の価格はおおむね所与とされます。何をどれだけ作るかという意思決定は、こうした価格を所与として行われます。だから各部門は投入と算出のインフレ率が所与だと想定するわけです。私のモデルでは、これはお金の供給者としての政府部門も同じです。ある期待インフレ率で均衡状態にあるなら (黄金価格も為替レートも固定される必要はありません)、そしてみんなが低い期待インフレ率にシフトするなら、新しい均衡が (ごくわずかな変更だけで) 得られます。

 この見方を述べる一つの方法は、インフレ率の変化を引き起こすのがノイズだと言うことです。

 金本位制で、一般物価水準が望みの経路をたどるよう黄金価格を徐々に調整して、政府が常に黄金をその時点での固定価格で売買して在庫をあまり変動させないようにすれば、インフレはランダムではなくコントロールできます35。でもこの種のものに限らず、金本位制を採択することは当分なさそうです。

 あるいは小国が大国との為替レートを変えて自国の物価水準が望みの経路をたどるようにして、その政府はその時点で固定された為替レートで外国為替を売買するようにしてあまり外貨在庫が変動しないようにすれば、その国のインフレはランダムではなくコントロールできます。これは資産と安定した徴税能力を持つどんな国でもできることです。その国はいつも資産を売って外貨を買えるし、それで手に入れた外貨を使ってその資産を (ほぼ) 買い戻せるからです。

 でも物価水準をコントロールして何が嬉しいのかははっきりしません。景気循環がインフレ率に影響されるものではなく実質要因で引き起こされるなら、インフレを抑制すべき理由の多くは消えうせます。

 すると私が見るところ、物価水準や金融政策にはおおむね影響を受けない、国際的な実質均衡があるはずです。ただし、金融市場が不安定だったり国の負債が課税資産に比べて大きい国は別ですが。この実質均衡は世界的な景気循環と国別の景気循環を伴ます。それは嗜好と技術がどこまで一致するかで左右されます。

 この実質均衡はまた、各種の財やサービスの相対価格変化を伴います。これは場所がちがえば「同じ」財やサービスの相対価格がちがってくるという事態にもなります。場所がちがうというのは、すぐ角を曲がったところでも、地球の裏側でもかまいません。情報と輸送はとても高価なので (特に情報)、ちがった場所の類似の財やサービスの価格を同じ水準に引き戻すアービトラージ形態はあり得ません。

 さらに、実質機能は、各種の国同士での貿易流が絶えず変わり続けるということです。ある二国間の貿易が、短期だろうと長期だろうと均衡すべき理由はありません。そして貿易不均衡は、厚生面の影響をまったく持たないのです36

 実質均衡は時間とともに連続的に変化はしますが、各時点では固定されているので、ある時点でのある明いてくの国内通貨価格が高いということは、その時点におけるあらゆるアイテムの国内通貨価格が高いということになります。価格を変化させるには多少の遅れは出るし、価格変化を掲示したり報告したりするにもいろいろ遅れはありますが、それは均衡に大きく影響するものではありません。

 もしある時点での経済について、二つのちがう国内物価水準で観察することができたとしたら、実質均衡は物価水準や為替レートにはほとんど関係ないことがわかるはずです。この状況を「購買力平価」と呼べるでしょう。実際に経済を観察するには、それが時間とともに推移する中で見るしかないので、購買力平価が成立することを確認はできません。相対価格の変化が起きているのは見えますし、経済活動の水準変動も見えますし、その一方で為替レートやマネーストックが変わっているのも見えます。私たちは、為替レートやお金が相対価格変動と景気変動を引き起こしているのだと考えてしまいます37

 でもそれは、データの中のノイズが私たちの視野を曇らせているからでしかないのです。

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参考文献

  1.  Admati, Anat R. “A Noisy Rational Expectations Equilibrium for Multi-Asset Securities Markets.” Econometrica 53 (May 1985), 629-657.

  2.  Aizenman, Joshua. “Testing Deviations from Purchasing Power Parity (PPP).” National Bureau of Economic Research Working Paper No. 1475, October, 1984.

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  1.  この論文で展開するノイズトレードと金融市場でのその役割の概念はジェイムズ・ストーンとの会話を通じて発達したものだ。↩︎

  2.  Jaffe and Winkler 31 は、投機市場を安定なものにするトレーダーは自分のリスク水準を調整するか、自分の予測能力を誤解しているか、あるリスク水準に対する期待収益最大化以外の理由でトレードする人物だというモデルを持っている。Figlewski 23 は予測能力のちがう2種類のトレーダーがいるモデルを持っている。いずれのトレーダーも相手のトレーダーが持つ情報を考慮しないので、どちらもある程度はノイズに基づいてトレードしていることになる。↩︎

  3.  Rubinstein 54, Milgrom and Stokey 50, Hakansson, Kunkel, and Ohlson 30 は、状態選好世界で情報の差が価格に影響しつつも人々にトレードを引き起こさないことを示している。Grossman and Stiglitz 28 は、合理的な投資家が市場ポートフォリオをトレードすると均衡がないかもしれないことを示している。Grossman 27 は個別資産のトレードがある世界でも同じ事を示している。Diamond and Verrecchia 21 はノイズの存在下での合理的期待均衡を定義しなおし、自分たちの均衡が存在するための条件を示す。Tirole 61のモデルでは、「投機」は一貫性のない計画に依存するので、合理的な期待により除外されることになる。Kyle 36, 37, 38 と Grinblatt and Ross 26 は、トレーダーに市場支配力があるときのまったくちがう均衡モデルを検討している。Kyle は明示的に、両方の種類の均衡におけるノイズトレーダーの数を変えたときの影響を検討している。↩︎

  4.  これはこのトレーダーたちが充分に分散化したポートフォリオから出発すると想定している。 Admati 1では、トレーダーたちは最適未満の資産ポートフォリオから出発する。↩︎

  5.  Varian 64 は「意見」と「情報」を区別する。彼は、意見のちがいだけがトレードを生み出すと述べる。彼が使っているようなモデルでは、私は意見のちがいは存在しないと思う。↩︎

  6.  Laffont 39では、トレーダーが高価な情報を集めるのは、それがトレード以外の直接的な効用を持っているからだ。いったんそれを得たら、彼らはそれに基づいたトレードを行う。だが人々が効率的なポートフォリオから出発すれば、無料の情報がやってきても人々はトレードしたがらないかもしれない。投機市場の存在を説明するには、トレードそのものの直接的な効用を導入する必要があるかもしれない。↩︎

  7.  この結果は、ノイズトレーダーたちが、ノイズを情報だと思ってトレードするモデルに固有なものだ。Kyle’s 36, 37, 38 のモデルでは、ノイズとレーダーが増えると市場は効率性を増す。↩︎

  8.  Arrow 4 は現在の情報に対する過剰反応があらゆる証券と先物市場の特徴だと述べる。もしこれが事実なら、それはすでに割り引かれた情報に基づいたトレードで引き起こされているのかもしれない。↩︎

  9.  Merton 47 は長期的な価格は効率的だが短期的な価格は必ずしも効率的ではないモデルを述べている。↩︎

  10.  Summers 60 は市場が効率的かどうかを見分けるのが困難だと強調している。この困難は市場参加者にも研究者にも影響する。↩︎

  11.  これで私は Merton 49 と Shiller 57, 58の中間くらいになる。効率性からの逸脱は、私の世界ではマートンよりは大きいが、シラーの世界に比べるとずっと小さい。↩︎

  12.  この効果は Shleifer 59 および Gurel and Harris 29が独立に発見した。↩︎

  13.  Loderer and Zimmermann 43は、複数種類の株が一般的なスイスでの新規発行との関連でこの効果を発見した。↩︎

  14.  French and Roll 25 は、株の収益率は市場が閉じている時期全体でみたとき、市場が開いているときに比べて変動率がずっと低いことを示している。↩︎

  15.  Ohlson and Penman 53 によれば、株式分割でその収益率の変動性は分割前日に平均で30%ほど上がる。これはノイズトレーダーの比率が高いせいかもしれない。だが、分割前の日に取引の量はまったく増えていない。Amihud 3 は、この結果についてもう一つ考えられる説明は、株式分割に続いてビッドアスクスプレッドが広がるせいではないかと考えている。↩︎

  16.  企業収益と株価との関係についての議論としてはBlack 13を参照。↩︎

  17.  Basu 5 は、高いE/P比率を持つ株はE/P比率が低い株よりも期待収益率が高いという証拠をまとめている。これは企業の規模とリスクについて調整した後でも成り立つ。DeBondt and Thaler 20 は一時的に価格が異常になることがあるという証拠をさらに示し、そうした機会を作り出すノイズトレーダーに影響する心理要因を示している。↩︎

  18.  Kahneman and Tversky 32 はなぜ人々が一見すると不合理な理由で決断を下すかについて、もっと高度なモデルを持っている。彼らの理論はノイズトレーダーの動機を記述するのに役立つかもしれない。彼らの理論の経済学とファイナンスへの応用については Russell and Thaler 55参照。↩︎

  19.  Black 11で私は配当の謎について論じた。この謎の解決方法は、配当を直接効用関数に入れることだと私はいまや考えている。配当を効用関数に含める一つの方法としてはShefrin and Statman 56参照。配当の謎を解決し、それを資本構造の謎に関連づける別の方法としてはMyers 52参照。↩︎

  20.  配当に情報が含まれるという主張としてはMiller 51参照。↩︎

  21.  だが Kalay and Shimrat 33 は、一般株を発行するる企業は配当を減らす傾向にあると指摘する。↩︎

  22.  この現象はTversky and Kahneman 63で詳述されている。↩︎

  23.  Merton 48は、市場の期待収益率の推計がいかにむずかしいかを示している。↩︎

  24.  Leamer 40 と Black 16は伝統的な計量経済学分析の根本的な困難について論じている。↩︎

  25.  Fama and Schwert 22は人的資本と株式市場の関係を研究している。彼らは密接な関係は見いだしていない。↩︎

  26.  King and Plosser 35 は、経済活動がマネーストックに影響するのであって、その逆ではないという可能性を検討している。↩︎

  27.  普通の事象研究と、事象研究の適切な解釈をむずかしくする要因の議論については Kalay and Loewenstein 34参照。↩︎

  28.  この見方はMcCloskey 46から得たものだ。↩︎

  29.  景気循環理論の研究レビューとしてはZarnowitz 65を参照。大規模な景気変動を、一見すると些末な価格変動で説明しようとする試みはMankiw 45を参照。↩︎

  30.  この観点についてもっと詳しい議論としてはBlack 15, 16参照。↩︎

  31.  伝統的な景気循環研究で最も関係の深いのがLong and Plosser 44 およびLilien 41だ。Bernanke 6 は耐久財生産の変動について完全な実質値だけの議論を行っている。これは個別投資が取り消せないという意味で部門的となっている。Topel and Weiss 62 は各部門の雇用条件の不確実性を使って失業を説明しようとしている。この手法はたぶん、失業の周期的な変動の説明にも応用できると思う。↩︎

  32.  Bils 7 はこの分野の既往研究のレビューであり、実質賃金が確かに景気連動だという証拠を示している。↩︎

  33.  私の視点はBlack 8, 9, 10で詳述した。↩︎

  34.  お金と他の変数の相関について考えられる説明の分析としては Cornell 18参照。↩︎

  35.  この議論の古いバージョンはFisher 24参照。新しいバージョンと、黄金価格や物価水準を抑えつつ黄金在庫をだいたい一定に保つ可能性についてはBlack 14を参照。↩︎

  36.  これは国際経済学の一般的な結果だ。私の処理についてはBlack 12参照。↩︎

  37.  37 Davutyan and Pippenger 19 は、購買力平価の標準的な検定にあり得る欠陥をいくつか示唆している。さらに私たちのPPP検定は、輸送費を考慮しないと不適切だと Aizenman 2 は指摘する。輸送費はサービスや一部の財ではとても大きいこともある。↩︎

 

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