朝日新聞書評しなかった本 2004/7-9
- 安田『人脈作りの科学』
- 唖然とするほど酷い本。支離滅裂、いきなり変な式が出てきて、でもそれぞれの変数が何をあらわすかも、式として何を言いたいかも説明なし(そのくせ変数の添え字だけ説明してあるという、あんたバカ?)。学問的に言えていること、仮説として思っていることもきちんと仕分けなし。前の職場でこのひとが恋愛がらみで刃傷沙汰を演じたと聞いたけど、その理由がわかったよ。コミュニケーションがまったくなってなくて、態度がはっきりしないもんだから事態がエスカレートしたんでしょ。読んでてこんなに苛立った本は最近ないぞ。
- 今井『自己責任』
- イラク邦人人質の一人による高校生の作文に、たぶん週刊誌のだれかが思いっきりてこ入れしたアンバランスな代物。現場の話がちっともないし、日本に帰ってきたらいじめられて苦労しましたという話が延々書いてあるだけ。またほぼ同時期に出た『ぼくがイラクに行った理由』とも重なりが多いくせに書き方が異様にちがう。
- 高遠『戦争と平和』
- 同じくイラク邦人人質の一人による、これまた無内容な一冊。半分以上はかつてのウェブ日記の再録。
- 吉田『アマチュアはイラクに入るな』
- いやもうタイトルの通り。プロのNGOはちゃんと準備して経験と訓練つんでやってんのよ、というあたりまえの話をきっちり書いてくれて、文句なしなんだが、ちょっと時間の都合でレビューにいたらず。残念。
- 大出 『知識革命の系譜学』
- いろんな知識の系譜をざーっと俯瞰的にまとめました、という本なんだけど、それでどうしたの、というのが一向に見られない。こんな学説、あんな学説云々で、そのまま終わってる。これを読んでワタシにどうしろと言うのかしら、という感じの本。
- 喜多村 『古本迷宮』
- 古本屋さんのエピソード集。まあほほえましいんだけれど、それ以上のものじゃない。そしてブックオフ批判の愚痴とかがうっとうしい。ブックオフは古い初版本とかは平気で処分しちゃうので許せん、文化の破壊だ、とか愚痴るんだけれど、あんたらがきちんと活動してそういう本をきちんと流通させないからブックオフに流れちゃうんだってことを考えたことあるの?(ないはず)。
- 八木『〈癒し〉としての差別』
- 差別すると気持ちがいいという視点がだいじだ、と言う本……がいつのまにか、自分が解放同盟だかなんだかでいかに権力闘争に負けたかという恨み節になっていって、何の本じゃこれは、という感じ。
- 秋山『知性の織りなす数学美』
- 秋山仁の自伝っぽい話。おもしろいにはおもしろいんだが、雑談調のおもしろさを超えることがないし、いまいち発見がなくておもしろくなかった。
- 瀬名『ロボット・オペラ』
- うーん。ぶあつくて、ロボットに関するオリジナルアンソロジーとしてはとってもよくできているし、きちんとした説明も好もしい。去年ならレビュー対象なんだが、いまは委員が増えているので、なかなかレビューがまわってこないのだ。残念。
- アハーン『P.S.アイラヴユー』
- まちがえて取った一冊。つまらーん! 愛に傷つき、それでも愛を信じ……もういいよ。なんとか訳者で売ろうという魂胆もまあ卑しい感じだし。
- カーズワイル『形見函と王妃の時計』
- 別の人がとっていたんだけれど、放出されたのでもらったが時間なさ過ぎ。これはやりたかったなあ。
- 久保『入国警備官物語』
- バングラ人が偽造パスポートで日本に入ってきたのを追いかける入国警備官の話。エピソードや細部は興味津々だけど、下手な小説仕立てにしたのが裏目に出ている。実名を出せないのに配慮したんだと思うけれど、それが全体に嘘くさくなっていてアレだ。きちんとノンフィクションにしてくれれば三倍くらいおもしろかったと思う。
- 小松『公益入門』
- 成長を犠牲にして平等、私益を犠牲にして公共のために尽くすのがいい、という本。つまり滅私奉公、悪平等形社会主義のススメ。書いている本人がそれをまるで理解せず、自分がきわめて立派なことを語っているつもりなのが一層あわれをさそう。ホント、いい人なんだと思うよ、この人は。でもそれじゃダメなんだ。
- 山本『投資情報のカラクリ』
- うーん。いや激烈におもしろい本なのだ。でも書評しようとすると「がっはっは、おもしれーぞ、もっとやれ!」と言うしかない感じ。ホントは青木昌彦か松原隆一郎にとらせようと思っていたんだが、釣れなかった。
- 内藤廣『建築的思考のゆくえ』
- なんかこう、新しいだけの建築じゃなくてもっと時間意識をもった建築を、といった話(それ自体は結構なことだと思う)を建築家ならではの気取った文章でつづる本。特にほめたいと思わなかった。
- 西山『都市平安京』
- うーん。社会生活っぽい資料をもとに平安京の分析を、というので大室幹雄を期待していたら、まああんなのがほいほい出てくるわけないよねえ。
- 真田『ルイス・キャロル解読』
- 数学者が、キャロルの論理パズルをあれこれ解題してるんだけど……既存のうまい訳があるものをいちいち下手な直訳にして解説しなおすという、二度手間三度手間の変な本。年寄りのてすさびって感じたけど、だれか止めろよ。
- ウルフ『ケルベロス第五の首』
- うーん、これは最初青柳さんに取られて、その次でまわってきたんだけど、これをどう誉めるかというのが悩んだところで、どう説明してもわかんない人には絶対わかんないのだよ、これは。だまして読ませて、わけわからなくて恨まれるのもいやだし……ということでパス。
- ボック『商業化する大学』
- 大学が商業化していて、いいこともあれば悪いこともある、という本。概観としてはいいんじゃないかな。でも一般人に読ませてどうこういう気もしなかったもので。
- 安村『美術館商売』
- 美術館は、文化とか何とか言ってお高くとまってるだけじゃなくて、ちゃんと人々に届くようなマーケティングと営業をしなきゃいけないよ、というあたりまえすぎるくらい当たり前のことをきちんと述べた本。その過程の苦労話などもとっても楽しい。時間がなくて放出したけど、ちゃんと別の人が拾って書いてくれてよかったよかった。
- スピヴァック『ある学問の死』
- 死んだのは比較文学なんだそうで、今後はもっとコロニアリズムとかジェンダーとか社会問題にからんだ学問をやることでブンガクは延命できる、てな話なんだけど、いいよ延命しなくて。死んでくれ。ブンガクなんか社会的には無駄な活動なんだし、それを超えて社会に奉仕しようとかいう発想はたぶんブンガクをダメにすると思うよ。そして社会に対する係わりで考えたいなら、ノンフィクションとか映画とか、そこらへんとの関係を見なきゃ話にならないと思うぜ。
- カウフマン『ソロス』
- ソロスのヨイショ伝記。ごちそうさま。
- 山本『心脳問題』
- 心と脳が別だ、というのを最初のところで当然のこととしているために、いちばん肝心の問題にタッチできずにあいまいな議論が展開しているだけの本で、最後はお約束のラッダイト。苦労や痛みを避けずにリアルな生を!(本人たちはそういう主張じゃないって言うんだけど、ぼくはちがうとは思えない)
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YAMAGATA Hiroo (hiyori13@alum.mit.edu)