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米国電脳スラング講座

山形浩生

 おさえるべきポイントが二つあります。「どこ?」「なぜ?」電脳スラングはどこにあるか。そしてスラングはなぜ使われるか。

 まず「どこ」です。みなさん、知ってるつもりでわかってないでしょうが、アメリカは広い国です。狭い日本に住んでいると、ついNYからLAまで三時間程度のような錯覚に陥りますが、実際には半日以上かかります。なかなか気軽にツラつきあわせて与多話にふけるわけにはいかんのです。

 このため、電脳スラングは、ほぼすべてパソコン通信やインターネットなどのNet(ネットワーク)上で発生し、広まると思ってまちがいありません。同時に、電脳スラングの多くは話ことばよりは書きことばに基づいたものだ、ということになります。

 次に、「なぜ」スラングか。ことばは意思疎通のためにある、というナイーブな信仰は事態の半面に過ぎません。ことばは同時に、それを使う人と使わない人を区別し、徒党を組ませる力を持ちます。「INIT」とか「爆弾が出た」と口走る人は、マッキントッシュ勢。逆に「grepする」と口走るのはUNIX勢。逆に言えば、徒党あるところスラングあり、なのです。
 以上から、スラング理解にはNet上の徒党に着目すべきなのがご理解いただけるでしょう。
 Netを見るなら、よく使われる略語知識は必須です。

 さてアメリカのPC業界は、おおまかにIBM互換機(特にWindows)の世界とマッキントッシュの世界、そしてその他の世界に分かれます。その他に含まれるのは、アミーガ、OS/2、NeXTなどで、これらは絶滅すれすれなので(OS/2は最近余裕が出てきましたが)、IMHOかなり被害妄想じみたコミュニティを形成しています。

 FYI、中でも過激なのは、アミーガのユーザたちでしょう。変なことばかりできる面白いプラットホームで、あの「ウゴウゴルーガ」のCGはアミーガによるものです。かれらは、アミーガがいかに優れていて、マックやIBM互換機がいかにダメな機械かを力説するのに帯域幅を費やしています。
 OTOH、同じマイナーでもIRIS IndigoやIndyなどの場合、ユーザは時代が自分たちのほうに動いていると確信しているので、非常に鷹揚です。
 これらの各徒党内のスラングは、おもに技術用語の変形なので、深入りしません。面白いのはこれらの徒党が衝突するときの対外的な罵倒です。
 その昔、IBM互換機は数を頼みにマックを見下し(あんなのマイナーおもちゃだ!)、OTOH、マックは技術的優位(未来はGUI(グラフィカル・ユーザ・インターフェース)のものだ!)に安住し、MS-DOSがMessy-DOS(滅茶苦茶DOS)と罵倒されるケースはあったものの、比較的平和な住み分けが続いていました。
 しかし、互換機用GUI、Windows(特に3.0)の登場でマック・ユーザは危機感を抱き、Windowsを馬鹿にする表現Windozeを広めました。「眠くなっちゃうWindows」かな。Windowsは遅かった(今もそうですが)ので、これはなかなか的を射た悪口でした。その間に両者は着々と性能をあげ、やがてPCとは無縁のはずだったワークステーションやメインフレーム、特にUNIXの世界と衝突したのです。

 もちろんUNIX側では、こんなおもちゃがのさばるのを快く思わず、IBM互換機を「アーキテクチャがきたない」と罵倒したり、マッキントッシュをMacintoy、Macintrash(おもちゃマック、くずマック)と馬鹿にする風景がよく見られました。パソコン勢の方も負けずに、UNIXを「eunics」(発音は同じユーニックス。官宦のことです)とあざけって反撃します。
 特に初期には「うざったいGUIなんか使ってる連中は真のコンピュータ使いじゃない!」と、コマンドライン・システムに固執する人が多く、GUIはWIMP-systemと軽蔑されました。一応「Window, Icon, Menu, Pointerによるシステム」の略ですが、Wimpは弱虫のことなので「軟弱システム」ですね。UNIX用のGUIが一般化して、この一派も戦線縮小しましたが、消えてはいません。UNIX古参兵に多いようです。Unixist (UNIX主義者)とかUNIX weenie (UNIXバカ)と呼ばれて嫌われます。

 Net文化と、その他文化の衝突で生まれた表現が「Nerd (おたく)」です。悪い意味です。人を気易くNerdよばわりしないこと。非NerdからNerdと呼ばれるとNerdは激昂します。おたくにもいろいろあるように、NerdもMacNerdやAmigaNerd等なんでもござれ。FYI、日本語の「Otaku (おたく)」はすでに国際語で、Netでは解説なしで通用します。

 BTW、この世界にも方言があり、たとえばどういうわけかTEXを日本では「てふ」と読む人が多いのですが、アメリカでは「てっく」と読まれる場合が多く、「てふ」では通じません。「うんぬ」とか「うーむ」とか「うむう」とか苦悶する世界もありますが、これは別の機会に。

 では、実際に使う場合を考えましょう。言うべきことはただ二つ。「おれたちのはいい!」「やつらのはダメ!」

 たとえばアミーガ・ユーザなら、「Windows sucks! Amiga rules!」Suckintosh (くそマック)等の表現もあります。ただしタイミング次第では、派手な罵倒合戦の引き金になります。flameと呼ばれ、動詞で使われます。例:「冗談だったのに、flameしちゃってさあ」

 Net上ではたくさんのWIRED headやNet head(通信マニア)に会えます。またNetからソフトを入手する時はSafe Hex(ダウンロードしたソフトをウィルスチェック)しましょう。BTW、一般にSafe Sex とはコンドームを使ったSexのことです。使ってますか? FYI、マイクロソフト社の親分ビル・ゲイツはつい先日まで独身で、「なぜビル・ゲイツはもてないのか?」というなぞなぞを生みました。答えは当然「やつのナニがマイクロ・ソフトだから」です。ビル・ゲイツは嫌われているので、この種のネタは(TPO次第では)うけます。

 さ、これであなたもNewbie (新米) 扱いされずに済むでしょう。あとはあなたの腕次第。では、See you in Cyberspace!


偽江戸オヤジ風異国数字読み方高座

 数字の読み方? なに、そう構えなさんなって。アメリカさんの電脳文化は文字文化。読み方なんざ二の次、三の次、四の次。だれも「正しい」読み方なんぞ知りゃしないし、気にもしゃあせん。迷ってる間に、臆面もなく数字をズラズラ並べて読む、こんだけっすよ。

 もともと英語ってやつぁ、数字の読み方面にゃ芸がねェんでして。日本語は「いち、に、さん」の「ひい、ふう、みい」、風向き次第で「わん、つー、すりー」って具合。だもんで「にぃきゅっぱ」だ「いっちょんちょん」だ「ひとよひとよにひとみごろ」だと遊べやがんですが、そこは多民族国家のアメリカさん、なまじ遊ぶとすぐ話が通じなくなっちまうんですわ。数字を並べとくのが、無難、確実、お徳用ってな塩梅。

 唯一あんのは、ゼロをオーと読むくらいっすかね。点はまんまで「ポイント」か「ドット」。「ハンドレッド」「サウザンド」なんて連中は、ゼロがしこたま続きゃあ、たまにお座敷かかるかなってくらい。アルファベットがはさまってたら? まんま、まんま。「えー、びー、しー」に「わん、つー、すりー」。通じちまうのはもちろん、これが略式でもブロークンでもねェ、正式に一番近い代物だってのが、おっかねえっつーかあきれたっつーか。ま、世の中そんなもんかもしれませんやね(笑)。


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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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