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alc2009年11月号
マガジンアルク 2009/11

『山形浩生の:世界を見るレッスン』 連載 43 回

懐かしや、ドバイはバブルの宴の後

月刊『マガジン・アルク』 2009/11号

要約:ドバイはバブルがはじけて結構すごい感じ。バブルというのは、のどもと過ぎれば熱さを忘れるで、担当者が入れ替わる10-20年ごとに起こるんだという説があって、それは確かに当たってるんじゃないかな。


 いまのドバイを見ると、ホントに懐かしい宴のあとという感じだ。ああそうだ、こういう見事なバブルは、やはりあるところにはあるんだねえ。

 不動産業界では、バブルは一〇年から二〇年ごとにやってくるといわれる。人は、一回やけどをすれば、次からは気をつけるようになる。でも、本や報告書をいくら読んでも、やけどの痛みを学ぶことはできないから、というのがその理由だ。

 バブルでは毎回、何かもっともらしい新技術(IT でも新エネルギーでも)や新成長地域(アジアでも中国インドでも)がきっかけとなる。いくつかちょっとした成功話をベースに、急激に期待が盛り上がる。拙訳のアカロフ&シラー『アニマルスピリット』では、それを「物語」と呼んでいる。何かもっともらしいお話があると世界全体が強気になり、根拠レスな投資が正当化され、大規模な開発計画がぶちあげられるようになる。それまでならありえんような都合のいい投資スキームが考案される。リミテッド・パートナーシップとか、証券化とか。銀行は、ここぞとばかり要らないものにまで融資をするようになり、たまに生じる不安の声は「いや経済のファンダメンタルズは盤石」「今回の上げ潮は実需ベース」という関係者の大合唱にかき消される。でもじわじわと倒産やデフォルトが増えてきて、あるとき少し目立つマイナス要因の統計が出たところで一斉に資金が逃げ出し……

 そこから先は、もうここ一年ほどの動きを見れば何が起きるかはみなさんご承知のとおり。昨日まで、無理にでも貸そうとしていた銀行さんが、今日には渋チン顔で回収にやってくる。そして実はそうやって無理に回収するから、貸付先は資金繰りがつかず倒産し、まったく健全だった融資がそのせいで一気に不良債権となり、それでさらに銀行自身の帳簿が悪化してさらに貸し渋りが進み、という銀行が自分で自分のくびを締める状況が続いて、経済がいっこうに回らなくなる。

 そしてその後十年くらい、銀行の担当者はそのやけどの痛みを忘れず、堅い融資しかしないんだけれど、でもその担当者が退職してしまうと、やけどしたことのない新人が入ってきて、これがまたかつてのサイクルを始める、というわけ。かれらはもちろん、昔のやけどの話は知っている。でも、次のバブルを始める際には、もちろん自分はそんなヘマはしないと心から思っている。こんどの波は本物だ、と。

 ぼくは年寄りなので、かつて一九八〇年代後半の本物のイケイケバブルも体験はしている――ただしそれであまりいい思いを出来なかった側としてだけれど。一部の羽振りのよい連中を見て、ぼくはずいぶんねたましい思いをしたものだ。いまぼくの文章がちょっとひねたものになっているのは、当時の恨みが残っているから――というのはたぶんウソで、逆にこういうひねた性格だからあまりいい思いができなかった、というのが正解なんだろう。そして、いい目を見なかったとはいえ、就職に苦労しなかった等の点ではぼくもその恩恵に十分にあずかっているのだ。

 でもその後、そのバブルの崩壊を見て、さらに光通信バブルとその崩壊、IT バブルとその崩壊、アジアの奇跡とその後の通貨危機、そして今回のサブプライム危機という具合に、二十年ほどで幾度となくサイクルが繰り返されるている。以前よりなんだか周期がずいぶん縮まった感じだ。するとひょっとしたら、深い深いといわれている今回の危機も数年で実は復活して、またぞろ別のバブルがどこかで起こるのかも。それがイスラム金融危機になるのか(ぼくはいずれ起こると思う)、環境排出権バブルになるのか(これもあると思う)はわからないけど。そしてそのたびに、第二、第三のドバイがどこかに生まれ……



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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