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alc2007年5月号
マガジンアルク 2007/05

『山形浩生の:世界を見るレッスン』 連載 14 回

ガーナ独立五十周年記念

月刊『マガジン・アルク』 2007/05号

要約:ガーナを見ると、ついついアジア諸国と比べてしまうもんで、あそこもだめ、ここもダメと思いがち。でもアフリカの中では結構よくやっているし、一次産品脱却もはかり、対外債務も減らし、インフレも抑え、それなりに成長もしている。いまは生意気に建築ラッシュでこの先かつてのマニラみたいに渋滞に悩みそうだけれど、よく見ると希望は多少はあるのかもしれない。


 日本では当然ながら何一つ報道されなかったけれど、今年はガーナ独立50周年。ガーナを皮切りにアフリカの旧植民地は次々に独立をとげ、1950年代のどこかはアフリカの年とか呼ばれていた、というのを昔は小学校で教わったっけ。

 ちょうど記念式典の一週間前にガーナにいたけれど(おかげでホテルがとれなくて大変)、テレビではガーナの歴史番組花盛り。そしてあちこちで当然ながら、独立50年をふりかえるような雑誌や論文もたくさん出されていた。それらを見ていると、多少この国――そしてアフリカ全体――に対する印象も変わっては来たのだった。

 ぼくたちはついつい、日本や、そうでなくても近隣のアジア諸国を基準に物事を考えてしまう。それに比べたら、ガーナは全然ダメだ。地方都市ではすぐに水が出なくなるし、電気や道路もガタガタだし、産業も教育もまだまだ。いつまでたっても進歩しないねえ、と現地でぼくや同僚たちは、日々愚痴をたれつつ働いている。

 でも、それは日本やアジアなんかと比べるのが悪い。なんだかんだいいつつ、ガーナはそれなりに進歩をとげている。継続的に経済成長も続けてきている。黄金やカカオ豆に頼り過ぎているといわれる経済も、昨年はカカオ価格が低迷したのにあまり打撃を受けなかった。カカオの加工製品の売上がのびたからだそうな。単一作物輸出から、加工販売へとできるところからジワジワ工業化も進めている。対外債務漬けだと罵倒されてきた財政も、積極的に完済をはかっていつの間にか債務返済負担は大幅に減り、改めて見直すと、そんなに悪い状況ではないぞ。

 かつて初代大統領ンクルマは急速な工業化を図ろうとして、保護貿易に無茶なインフラ整備や工場設置をやたらに進め、結果として経済の疲弊と政治的な不穏を招いた、というのが一般的な見方だ。ガーナに続いて独立した他のアフリカ諸国も似たような状態となり、一部では内乱やエイズその他もあって、ブラックアフリカはもうどうしようもないんじゃないか、という雰囲気があった。あと、成功モデルがなかったというのも大きい。アジアは、日本やNIES諸国の発展があった。ああすれば発展するのか、というお手本があった。アフリカはそれがない。でも、結局のところ、単に時間がかかったというだけでもう少しすれば状況は一変するかもしれない

 いま、ガーナの首都アクラはかなりの建設ラッシュになっていて、空港周辺をはじめあちこちでビル建設が行われている。ついでに来年はサッカーのアフリカカップが開催されるとかで、各地で巨大なスタジアム建設も(中国の援助で)行われている。なんかこの光景は、かつてバンコクやマニラで見かけたものの再現のようではある。こうした建物建設が進むと、インフラ整備がそれに追いつかなくなって、まず町中が慢性的な渋滞におそわれるようになり、阿鼻叫喚。でも一方で全体は成功が成功を呼ぶいいサイクルに入ってきて発展はとげる。不動産価格高騰、そして何度かバブル破裂もあるだろう。そこらへんで本格的な都市改善をする。道もつけなおし、オープンスペースもとって、各種住宅開発も――それがうまく行くと、あと10年くらいでアクラは、そしてガーナ全体が、いまと見違えるような状態となる可能性だって、ないわけじゃない。そして他のアフリカ諸国もようやく半世紀の停滞を経てそれに続いてくれる可能性だって――

 なんてことを各種データや資料を見つつ思うのだけれど、どうなりますやら。が、まずは千里の道もなんとやら。きみたち、電気くらいきちんとひきなさい。話はそれからです。



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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