Valid XHTML 1.0! リーマンの、リーマンによる、リーマン(あるいはその予備軍)のための教養講座 連載第 2 回

会社ってなーんだ:その2――会社を「所有する」って?

(『Z-Kan』2000 年 冬 3 号)Z-Kan 3号

山形浩生



 さて、前回は、そもそもなぜ個人がうじゃうじゃ群れているだけではアレで、わざわざ会社なんてものをつくるのか、という話をした。それは、まず個人が無限に責任をとらなきゃいけないようだと、こわくてなかなか商売ができないので、会社っていう別立ての商売主体をつくって責任を限定するということと、さらには実際に業務をやるにあたっての分業、そしてそのためのコミュニケーションを効率よく行う、といったあたりがメインの理由になるんだろうね、というのがだいたいのあらすじ。

 さていまどき新聞を読んでいるめずらしい人(読まなくていいよ)、はときどき、所有と経営の分離、なんて話を目にしたことがあると思う。これまでは、会社が具体的に何か事業なり商売なりをするときのことを話してきたわけだ。これは経営ね。それと所有をわけることに、なにか意味があるんだろうか。今回はこういうお話。


 まず、所有、ということから考えなきゃいけないだろう。会社を所有するってどういうことだろうか。これにはいくつか水準がある。

 いちばん簡単なのは、とりあえず、たとえばその会社丸ごとをお金出してぽんと買ってしまってみよう。工場、オフィス、金融資産。各種の債権(お金なんかを貸していることね)、あるいは債務(借りているほうのお金)。会社のコンピュータ。書類、データ。そういうのを丸ごと買ったら、あなたはこの会社の所有者だっていうことになるだろう。これはまあいい。これがいちばん単純な「所有」だ。会社の資産をぜんぶ買う、ということ。

 ここでむずかしいのが、会社の価値ってどこにあるのか、ということだ。ふつうは、会社というのは、製造業っぽいモデルで考えることが多い。たとえば、自動車会社なら、まあ工場買って、いろんな在庫の車を買って、という具合にその会社にあるモノを一通り買うと、その会社のかなりの部分の買えそうな感じがしなくもない。そして、そのモノなら、簡単にお値段がつきそうだ。工場なら、これをいまつくるならいくらかかるだろう、と考えればいい。でも、それだってその工場が価値をじゅうぶんに発揮するには、工場のラインの動かし方とか、細かいノウハウとか、営業チャンネルとか、会社にとってすごく大事なソフトがある。それはどうしようか。ましてもっとソフトな会社だとどうだろう。たとえば日本生命をささえているのは、日成の営業おばちゃん部隊だ、といわれる。こういうのは、会社を買ったときに、会社っていう法的な人格に、このおばちゃんたちとの契約がくっついてくるんだけれど、それが具体的に数字で出てくることはあんまりない。さらにソフト会社やベンチャーでは? 本当に価値があるのは、人の頭の中にあるアイデアだけだ。そういうのはどうやって買う? だから「会社の資産を全部買う」というのも、一見したときほど簡単な話ではないのだ。でも、それはここではおいておこう。

 さて、ほかにどんな「所有」があるだろうか。まず、出資者になる手がある。そして、お金を貸す手(融資者になる手)がある。

 実際の会社をつくるときのことを考えると、小さければポケットマネーで全額出していろんな設備をそろえることも、不可能ではない。そして会社の売り上げの中からちょっとずつ投資していくことで会社をでかくすることはできる。でも、ちょっと大きくなると、そんな何もかも自分でそろえるわけにはいかない。いきなり巨大なお金が必要になってくる。そんなときには、他人にお金を出してもらうことが必要になる。出資者と、融資者というのは、この他人がお金を出す方法のちがいだ。

 融資、というのはお金を貸すこと。これはすぐわかるだろう。お金を相手に渡すけれど、でもそのとき、これに利息をつけて返しますよ、という約束をしてもらう。ただし、その利息つきで返すという約束さえ守ってもらえれば、そのお金でそいつが何をしようとこっちは気にしない。

 出資、というのは、そういう約束がついてこない。とにかくお金を出して、というわけ。ただし、もし事業をやって、税金払って、借金返して、それで利益が残ったら、それをあなたにあげるから、という条件がつく。さらにもう一つ、この会社が変なことやって利益を全部くいつぶすようなまねをしないように、経営に対する発言権がついてくる。たとえば会社は、黒字を出すと税金がかかる、といって、わざとコンピュータを買って赤字決算にする、なんてことがよくある。出資者は、そんなことしないで税金払ってもいいからぼくたちにお金をおよこし、とそれを止める権利を持っているわけ。

 出資した人は、いったい自分たちのところにいくらお金が戻ってくるのか、さっぱりわからない。業績が悪ければ、利益はぜんぜん残らないかもしれない。でも、業績がいいときには、ものすごい巨額の利益が自分たちのふところに入ってくる可能性もある。そして、出資した人は、経営に対する発言権を通じて、それを左右できる力を持っている。  そして、その出資を一人の人がどーんと出すんじゃなくて、こまぎれにしていろんな人に出してもらうのが、株ってやつ。もうけがいっぱい出たら、配当がもらえる。でも、業績が悪ければ配当はない。そして株を持っている人は、株主総会で、一株一票で経営に対して口出しができるのだ。

 一方、融資した人は、会社が順調であれば、自分たちのところにいくらお金が戻ってくるかは確実にわかる。元金と、所定の利息分、だよね。会社がカツカツだろうと、大もうけしていようと、融資した人のところに戻ってくるお金はぜんぜん変わらない。そして、融資した人は、その会社の経営には口をはさめない。

 融資は、銀行とかがどーんと貸しこむことも多いけれど、でも融資だってこまぎれにできる。これが債券、というやつ。もっていれば、元金と利息が約束に応じて入ってくる。それだけ。

 ということは、会社を思いのままにあやつるためには、出資分のかなりの部分を掌握すればよいわけだ。その会社の株をすべて買い占めれば、あなたはその会社のすべてを意のままにできる。そこまで行かなくても、全株式の過半数を手に入れたら、もうだれもその会社の切り回しについてはあなたに逆らえなくなる。「所有」というのを、だれにも口出しされることなく好き勝手にふるまえるようになる、くらいのことに考えれば、出資分を全部(かなり)おさえる、あるいは発行株式を全部(かなり)おさめるということで、会社は所有できるわけだ。

 ただし、現実はそう簡単ではない。融資した人は経営に口を出せないとは言ったけれど、実際はそうはいかないのだ。まず、お金を借りるときはたいがい「何のために借りるんですか」ときかれる。そして、それ意外の目的でお金を使うことは、ふつうは許されない。もちろん、目的なんかきかない金融機関もある。サラ金とか、あるいはサラ金と同じだけれどグラミン銀行みたいなマイクロファイナンスの会社とか(この話はいずれする)。つまり、お金を借りる時点で、すでに多少、経営としてやっていいことには制限がついているわけだ。

 さらに返せているうちはいいんだけれど、返済が滞ったとたんに、事態がまったくちがってくる。お金を借りて、しばらくして、いやあ経営に失敗して返せませんよ、はっはっは、と言ったとしよう。ああそうですか、とあっさり見逃してくれるだろうか? まさかね。ニコニコしていた融資担当者は、いきなり鬼のようになって、あとはもうナニワ金融道の世界になってくる。

 もしこれが、あなたの無限責任でやっている事業だったら、ふざけるな、家を売れ、女房子どもも売り払え、てめーは腎臓かたっぽ売ってでも、とにかく耳をそろえてかえせ、ということになる。でも、有限責任の場合だと、これはできない(たてまえ上は)。するとお金を貸した人たちはまず、もっと努力しろ、ああしてこうして経営変えて、もうかるようにしろ、あそこのツメが甘いじゃないか云々、というようなことを言ってくるだろう。そしてあなたも、お金を借りている以上、それをまったく無視して「いやわたしはこのまま自分のやり方で」なんてつっぱるわけにもいかない。「いやなら借金耳そろえて返せ、さもないとこのまま全部資産をさしおさえるぞ!」と言われたら言うことをきかざるを得ない。つまり、お金を貸している人は、必要なら会社の資産を(自分の貸した範囲までだけれど)自分のものにすることができる。そして、それを脅しに、経営に対していろいろと指図ができるのだ。

 ときどき、会社の経営がやばくなると、銀行から社長が送り込まれたりするでしょう。本来、お金を貸しているだけの人には、経営にあれこれ口をはさむ権利はないのだけれど、でも現実には、そうは行かない。最後の最後になったら、借金取りはこわいんだ。というわけで、会社を「所有」する手として、お金を貸す側になる、という手もないわけじゃあないのだ。

 いまの話は、たとえば車を買うのといっしょだ。車を即金ですぐに買える人は少ない。だからふつうは、人は一部を自腹で払い(頭金ね)、残りはローン、つまり借金をすることでまかなっている。

 頭金の部分は、出資、だね。そして、ローンのほうが借金だ。車をどう使うかは、出資した人がすべて左右する。そしてもし二人で共同して頭金を出して車を買ったりした場合、「もっとていねいに乗れ」とか、「改造しよう」とか「来週の金曜はあたしが使うわ」とか、それぞれの出資者が口をはさめるし、ローンをきちんと支払っている限り、全額を自分で払ったと同じように、車を好きなように切り回せる。だからその車を所有しているのは、出資者だといえる。ローン会社はその車をどう使うかはまったく口をはさまないし、はさめない。でも、ローンの支払いが滞ったら、ローン会社がやってきて、その車をさしおさえてしまう。よく考えると、実はローン会社も同じ車を一部所有しているわけだ。


 ううう。結局今回は、前段の「会社の所有ってなんだ」という話ばかりになっちゃって、所有と経営の分離、という話にたどりつかなかったぞ。というわけで、続きはまた次回。ただし、今回やった話は、それ自体が会社ってものの仕組みを理解するうえですごく大事だ。資産と、出資と、融資。そしてそれぞれがどんなことをするのか。次回はいまの構図にくわえて、雇われ経営者のお仕事、というようなことを説明していこう。そしてその中で、所有と経営の分離、という話をこんどこそ……というところで、「会社ってなーんだ」疾風怒濤の第三回は、2001年春発売の次号を刮目して待て!

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