連載第30 回
山形浩生=文
hiyori13@mailhost.net
下谷二助=イラストレーション
瀧本広子=題字

今月の喝!

「公的資金の投入」
 インドで牛にまじって30円の飯を食いながら店のテレビを観ていると、なんと日本の21の銀行がみんなして、「公的資金を入れてください」と、リストラ計画を提出するというサル芝居をやっていて、ああ日本(の銀行と大蔵省)って当分ダメだなぁというのをしみじみと感じてしまった。

 これって異様な光景である。クラスで骨折したヤツが一人出たら、そいつが目立たないように全員にギプスをつけさせるとでもいうような。こんなので日本の銀行への信頼が回復するなどと、大蔵省は本気で思ってるんだろうか。

 まあ、お金が入れば財務体質は強化されるよ。財務体質の強化って、予想しない事態が起きたときへの対応力だと思えばいい。多少取りっぱぐれがあっても、預金引き出しが増えても、対応できる能力ってことだ。融資能力も増える、かもね(あるいは償却に充てて消えちゃうかもね。不良債権額がいまだに正確にはわかんねーから、この程度の判断すらできんのよ)。でもこれで揺らぐのは、財務体質以前の経営体質への信頼だぜ。懲りてないな、相変わらずの横並び護送船団ですむと思ってるな、とだれでも思うじゃん。どうせほとぼりさめたらもとの黙阿弥。リストラ計画? 紙切れ。店舗半分閉じて社員三割レイオフしたら信じてやるよ。この不信分で、今回の数兆円なんて、すぐに食い潰されちゃうんじゃない? 貸し渋り対策とか言うけどさ、気前よく貸しすぎたから不良債権が膨れ上がったんでしょうに。それを締めても悪いことはないはずなんだ。もしこの貸し渋りとやらが、本当に貸すべきところに貸す判断ができてないってことなら、そんな銀行は無能なんだからさっさと潰しちまうがいい。こんなの金融システムの安定化でもなんでもない。大蔵省は頭いいから、と数回前のこの「道場」に書いたけれど、やっぱ買いかぶりだったわ。

 そしてインドから帰ってきてもっと驚いたのが、日本のマスコミなんかでこれを異様だと指摘するものが全然ないってこと(指摘したのは若手の同僚の柏木だけ)。帳簿上のインチキとか、こんな茶番とか、いい加減みんなわかんないのかな。「銀行いじめはやめよう」とかいう人もいるけれど(ところでソ連映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』では、みんな一風変わったあいさつをするのだ。いやまったく関係ないけれど……)、付和雷同で貸さなくてもいいところにドカドカ貸して、こんどは貸すべきところに貸せないような銀行――これをいじめて何が悪いわけ? みんなビッグバンで蹂躙されちまうがいいのだ。

山形浩生:1964年生まれ。本業は地域開発関連調査と評価。翻訳と雑文書きでも有名。

近況:前号(4.05)は全体に低級だったが、なかでもケビン・ケリーのまぬけた文を載せるとは!電話が普及しても、産業全体が電話産業化しなかったように、21世紀の産業がみんなソフト産業や芸能界化するわけないのよ。真に受けたみなさん、すいませんね。最近本国版が白痴で、悲しいっす。


(c)1998 by DDP Digital Publishing, Inc. [山形道場トップへ戻る]