山形道場

連載第27 回
words 山形浩生(hiyori13@mailhost.net

今月の喝!

「土地流動化とかの『自称』不況対策」



 11月15日。日経平均株価は狂ったように上がったり下がったりをくりかえし、日本経済終末論が跳梁跋扈。「景気回復のために土地流動化を! 規制緩和を!」とかいう、まるで理屈になっていない話が毎日のように飛び交う。うんざり。たとえば、土地流動化をしたい? あっそ、んなら地価をもっと下げたら? これを主張してる一部不動産屋さんが物件を半値以下で出してくれたら、そりゃあ流動化するだろう。ぼくだって買っちゃうもんね。でも、連中の言ってることは、実は「いまの値段より高値で流動化しないかなー」とゆームシのいい話でしかないのだ。しかも、それとからめて地価税廃止? あのさ、流動化させるには、地価税で保有コストを上げて、使ってない土地放出させるのが基本じゃん。なんでそこで地価税廃止すんの。買い込みすぎた遊休物件の負担コストが重いだけでしょ。自業自得。魂胆みえてんだよ。しかも、こんなお寒い議論のちょうちんを、筑波大の宮尾尊弘みたいな権威あるはずの学者がかついでんだぜ。

 これ以外にも規制緩和とか、金融ビッグバン期待がどうしたとか、くだらん議論はいろいろあるけど、例によってまともなこと言ってくれるのは、ぼくの経済方面の神様、ポール・クルーグマンくらいだね。「日本の景気が悪いっていうけど、金融ビッグバンとか、規制緩和とか、見当はずれもいいとこ。そんなの全部、供給側の問題でしょ。生産をどう効率よくするかって話。でもいまの日本の問題って、需要がないことじゃん。だからそんなの関係ないわけ。需要を上げるには、日銀が金を刷れば、それで万事解決すんのよ!」

 日銀が金を刷れば済むかどうかは、ここではおいとく(金が増えても、なんか投資も消費も進まないような気もするんだよね。ろくな投資先や消費先がないじゃん。地価がもう三段下がって、家でも買えるようになれば別だけど。でも総論としてはかなり言えてると思うよ。理屈の上からも、アジア通貨危機や経済失速を予見しつくしたクルーグマンの過去の実績からみても)。問題は前半だよね。そう、そう言われてみれば、ビッグバンだろうと規制緩和だろうと、不況解決にはぜんぜん関係ないんだよねー。土地流動化だって話が逆なの。景気が回復すれば土地売買が活発化するのであって、その逆ではない。

 うーん、ここまで事態が長引いていると、仮説としては、実は大蔵・日銀は故意にいまの状況を続けてるんじゃないかという気もしなくはないわな。だって連中、頭いいもん(ねえ、安居クン)。これを機会にウミを出し切って、効率悪いところを全部つぶして切ってしまおうっつーハラではないのかしら。不良債権問題だって、いま甘い顔して延命させると来世紀に禍根を残す。政府が動くのもメンドーだしぃ、放っておいて勝手につぶれるのを待とうか。そんで不良資産もどんどん競売だぁ。日本経済はダメダメって言うけど、失業もあんまりないし、みんな死にゃあしないって。あと保険屋が五つくらいに地銀も七つほどつぶして、証券屋もガンガン淘汰。地価も下がってきてみんな家が買えるようになってきたあたりで、橋龍を引責退陣させて、ちょいと手を打って内需拡大とかやれば、すぐに景気が戻って、みんな現金だからヘラヘラ喜んでやっぱ日本はエライとか底力がとか言いだすわな。グフフフ、なんて見事な戦略……てなことを本当に考えててくれると、ぼくとしてはホントにうれしいんだけどなー。ダメかな。



付記:……と書いたら、拓銀やら山一やら徳陽やら、ホントにごろごろつぶれだしやがった。おい、そこまで真に受けなくてもいいってば(苦笑)!



山形浩生:1964年生まれ。本業は地域開発関連調査と評価。翻訳と雑文書きでも有名。

近況:OASISの新譜って愚作だ。前作はよかった。先月のロンドン出張で、パブでちょっと口ずさんだら店の客がどんどんのってきて、「ワンダーウォール」大合唱になったのは最高。




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