Voice 2012/2号 連載 回

京都議定書はもうやめよう。

(『Voice』2012 年 2月 pp.42-3)

山形浩生

要約: カナダが京都議定書から離脱したが、他の国だって実現できそうにないんだから潔くやめて、もっと意味のあることをするにはどうすればいいか考えたほうがいいのでは。その後の各種会議も、何も決まらないことを対話の継続と言い換えるだけの無意味な活動だ。



 今回の記事を書き始める直前に、カナダが京都議定書からの離脱を表明した。結構な話だと思う。

 京都議定書に対する疑念については、以前にも欄で何度か述べた通りだ。この地球温暖化が問題だから、その原因となっている炭酸ガスの排出をみんなで削減しましょう――京都議定書の根本になるこの発想自体は、まあ理解できなくもない。でも、それができたとしたら、どのくらい効果があるのか? 実はもし京都議定書がうまくいって、多大な費用をかけて排出を削減したところで、温暖化はほとんど止まらない。そして実際には議定書を批准したはずの国ですら、ドイツやロシアなどを除けばほとんど実現できていない。

 もともと効果がないものを大騒ぎしてやろうとして、さらにその効果のないことさえろくに実施できない――何の意味があるんだろうか?

 そして過去数年にわたり、何の成果も出ない国際会議でやろうとしているのは、今ですらどこの国もまともな意味では実現できていない排出削減目標を、さらに厳しくして貧乏な国まで含めようとする話だ。むろんまとまるわけがない。そして今回、南アのダーバンで行われた会議でも話はまとまっていない。

 この一連のCOP会議を見ていると、基本的な話の仕方がまちがっているのはすぐわかる。何かがうまく行っているからそれを続けよう、というなら話はわかる。でも、既存の京都議定書でどのくらいの成果が挙がっているかは、まったく話題にならない。これまで何も成果がなくてもとりあえず続けよう、という……

 次の話をする前に、まずは成果確認したら? 新しい枠組みが決まりそうにないので、京都議定書延長が検討されている。でも延長するというのは通常は「ちょっと諸般の事情で遅れていて期日には間に合わないが、もうちょっと待ってくれれば必ず達成するから」というような話がある場合だろう。京都議定書の場合でいえば、一九九〇年比で十パーセント削減予定が、まだ全体として7パーセント削減にとどまっている、というような場合だ。でもほとんどの国が激増状態でそもそも達成の見通しがまったくたっていないときに、延長したらどんな成果があると思うの?

 成果を見て、うまく行っていないなら何がダメなのか、なぜ成果が挙がらないのかを考えて、その先に何をするかはその反省をふまえて考えるのが普通だろう。そして温暖化については、取り巻く状況も変わってきている。再生可能エネルギーの費用がそこそこ下がったり、ジオエンジニアリングの可能性が出てきたり、あるいはここ数年は温暖化の進行が止まっていたり。あるいは温暖化を止めようとするより適応を考えた方がいいという議論もある(ぼくはこちらのほうが正しいと思う)。排出削減は手段であって目的ではないのだ。

 ところがこのCOP会議では、排出削減が自己目的化している。温暖化の緩和を、排出削減だけで考えようというのがもはや時代錯誤ではないのか?

 それを考えたとき、実現できないし、もう過去の取り決めだといってさっさと脱退したカナダは、悪く言えば開き直りだが、ぼくは潔いし立派だと思う。機能もしない政治的なポーズでしかないものを維持しても仕方ない。あとはカナダが、自分なりにどう温暖化問題に取り組むのか、という提案を出してくれれば、なお結構。

 あともう一つ、ぼくがこのCOP会議の話を読むたびに頭にくること。コペンハーゲンでもダーバンでも、何も決まらずに。何も決まらなかったので話を先送りにしました、というのは、普通の感覚なら何も成果がない無駄な会議だった、ということになる。ところがこの手の外交や国際会議のインチキなダブルスピークでは、これは「交渉継続に向けての合意が成立した、これは大きな成果だ」ということになる。

 これがいかに空疎なごまかしでしかないかは、別に高度な専門家でなくても(いや、専門家でないほうが)すぐわかると思うんだが。話がまとまらないことよりも、こういうおためごかしのほうがずっと、この手の国際会議だの政治会合だのに対する不信を高めていると、ぼくは昔から思っている。もちろん出席者としては、何か成果があったと言わないと上司に怒られるんだろう。ぼくもサラリーマンだから、そのくらいの事情はわかる。が、この程度でごまかしおおせるほど世の中甘くない……はずですよねえ?


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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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