Voice 2011/9号 連載 回

韓国証券取引所のうまいセールス

(『Voice』2011 年 8月 pp.40-1)

山形浩生

要約: カンボジアやラオスの証券取引所には、韓国証券取引所のシステムが入り込んでいる。海外展開用の基礎システムをつくって汎用化するうまいやりかた。こういう手法は日本も見習うべき。



 今年の七月十一日に、カンボジアの証券取引所(CSX)がオープンした……とはいっても、未だ上場企業はゼロなので、取引はなし。いま、一生懸命いくつかの国営企業などが上場準備を進めているところだが、会計監査などの上場基準が厳しすぎるとかで、まだ上場する側でもそれを監督する側でもあれこれ詰めている最中だ。

 とはいうものの、数年前からずるずる遅れてきたのがやっとオープンしたことで、関係者もうれしそうだ。なにせ並行して進んでいたラオスの証券取引所は、昨年(十年十月十日)にオープンし、今年頭から取引も始まってしまい、遅れを取ったカンボジアは結構焦っていたもので。あとは年末に予定されている上場と取引開始がうまく運べば……

 さて、このラオスにとカンボジアの証券取引所だが、どちらも、韓国の証券取引所(KRX)が半分出資している。そしてその結果として、どちらにもKRXのシステムが入っている。むろん、そのまま入っているわけではない。実はKRXはこうした取引システムの輸出に非常に力を入れていて、自分のシステムをスケールダウンし汎用化したグローバルシステムを作っている。そしてそのグローバルシステムを各国の状況にあわせてカスタマイズし、システム開発を行っている。

 こう書くと、変な誤解をする人が必ず出てくる。韓国はラオスとカンボジアの株式市場を押さえた、今後は韓国が両国の経済を自由に操作し云々といった誤解だ。当然ながら、別にシステム作ったくらいで経済が牛耳れるわけじゃない。ラオスの株屋さんたちは「ちょっと韓国っぽいクセがある」とは言っていたが、それは慣れの問題もある。別に株価操作もできないし韓国系企業が上々に有利ということもない (ホントにそんなことができるなら、ラオスの株価をもうちょっとてこ入れしてほしいもんだ)。

 でも、この証券取引所を通じて韓国企業は確かにビジネスをのばそうとはしている。当初の予定では、CSXの建物は首都プノンペンの少し郊外にある、新都市開発の中心に置かれるはずだった。その開発をやっていたのは韓国系のデベロッパーだ。証券取引所を有利な条件で誘致し、それを中心にビジネス機能を配置、そのまわりを高級住宅で取り囲んで分譲するという計画だ。

 結局のところ、これはポシャった。リーマンショックに伴う韓国経済の苦境もあって、開発の進捗が思わしくなく、特にビジネス街の開発が進まなかったのだ。CSXオープンが遅れたのはその開発の遅れに伴って、入居するはずの建物が一向にできなかったこともあるという。ちなみにいまはもっと都心の高層ビルに(一時的に)入っている。

 が、開発の計画としてはなかなかうまい。事業連携の考え方としても見事だ。震災がらみの話で一時中断したが、これが昨年末頃にこのコラムでよく扱っていたインフラ輸出の一種だというのはご理解いただけるだろう。インフラ事業の本来のおもしろさは、こうした関連事業への展開でもある。

 日本も原発輸出がらみで齟齬はあるものの、まだ全体としてのインフラ輸出はやる気のようだ。そこで出てくる、国としてトップ営業が、政府主導でオールジャパンのまとめ役を、みたいな話については以前にも論難した。

 そして韓国のこうしたやりかたを見ると、やはりそうしたお上頼みの主張は言い訳に思えてくる。KRXは、それなりの出資をしてリスクを取った。システムだって、世界に売り込むという腹をしっかり決めて、汎用化するための開発投資を行うという形で下準備をしていたわけだ。二〇〇八年頃にはトラブル続きだった東証のシステムで、これができるだろうか。大臣があいさつに来ればどうにかなる話じゃない。

 そしてそれを他のビジネスチャンスにつなぐのだって、お上が音頭を取る必要なんかない。民間が自分で絵を描いて手を組めばいい話だ。ちなみに日本のインフラ輸出だと、下請け企業が進出するという話は結構きくが、関連事業への展開話はあまり聞かない。むろん、案件が決まるまでは伏せてあるだけかもしれないのだけれど。ただ、ベトナム都市の水道案件など成功事例の話を見ても、それ以外の関連分野への展開がもう少しあってもいいはずだ、とは思うのだ。

 むろん日本のインフラ関連企業というのが、民間企業といいつつ実態は往々にして親方日の丸、という事情もあるだろう。また韓国だってその都市開発も計画通りには進んでいないし、取引システムだって、現地の株屋の話をきいたところ、CSX開設時点ではまだじゅうぶんには稼働できていないとのこと。ただ、その売り込みや展開について、ぼくは韓国に見習うべき部分がかなりあると思うのだ。


前号へ 次号へ  『Voice』インデックス YAMAGATA Hirooトップに戻る


YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
Valid XHTML 1.1!クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
このworkは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
の下でライセンスされています。