Voice 2011/7号 連載 回

復興債出してさっさとばらまこう!

(『Voice』2011 年 7月 pp.40-1)

山形浩生

要約: 復興で増税ってなに? すぐ復興債だして愛国心に訴えつつばらまきやりなさい。時間のかかる増税なんかやってる暇はないはず。



 文楽を観に行ったら、幕間に震災義援金の募金をやっていた。当代屈指の人形遣いである吉田蓑助や桐竹勘十郎操る人形に頼まれたら、流石に出さないわけにいかない……のだけれど、ぼくも含めすでにみんな募金をお願いされすぎて、疲れてきたと思うのだ。それに支援も次のフェーズに入ってきたんじゃないか。これまでは、命からがら避難した人の当座のやりくり資金として、一回限りのお布施だ。でも今や本気で経済を立て直す時期だろう。支援だって単純にあげる以上に、事業融資やインフラ投資をどんどん増やさないと。

 さて通常なら、そういう投資は収益率や経済効率を見極めないと無駄になりかねない。でもいまは話がちがうのだ。平時ならほとんどの人やリソースがすでに活用されていて、追加の投資でそれ以上の効果を出すのは大変だ。でも今は、仕事する気があって技能もある人が、インフラや在庫や設備が壊れて仕事にあぶれてる状況だ。何やったって成果は確実に出る、またとない機会なのだ。

 インフラを再生すれば(特にある程度人のいるところでやれば)確実に使われるし、いま避難所で手持ちぶさたな被災者が生産活動に従事できる。かれらが事業所を新しく設備を買ったりする資金を提供すれば、その人たちは確実に生産活動に従事する。もしならなくったって、その人たちがそのお金を(宴会だろうとパチンコだろうと)使えば地元の経済が潤って何かしら成果は出るから絶対お得。

 話はこれだけ。経済性の計算するまでもない。さらに投資が遅れていま地元に残っている人や技能が散逸したら、投資の収益性はどんどん減るから、すぐに出そう。ばらまき上等。

 そしてスピードが命なら、増税でお金が実際に集まるのは来年になるんだから、今はまず手早く金を集められる国債でしょう。後代にツケを残す? いま避難所で淀んでる人たちがそのまま腐って年金や失業保険の受給者になるほうが、よっぽど将来のツケでしょうに。いま出す国債は、むしろ後代にツケを残さないための借金になる。額面だけで騒がず、国全体の損得を考えないと。

 それにツケが問題なのは、返済できないときだけだ。つまりそれが後代へのツケになると言う人は、東北復興への投資が国債金利程度(つまりほぼゼロ)の見返りすらないと言うに等しい。要するに「どうせ東北に投資しても腐るだけ」ということだ。バカにしてると思わない? そういう人に限って、「私は東北の力強い再生と復活を心から確信している」と能書きだけは勇ましいのに。復興が確信できるなら、返済も確実なんだからそのための借金にためらいは無用。いや、むしろその人自身が積極的にお金を貸したっていいくらいだ。

 そしてぼくを含め、本気でそうしたいと思っている人は多いはずだ。二十世紀前半の大経済学者ピエロ・スラッファは、日本が第二次大戦に負けたとき、日本がこのまま潰れるわけがない、といって紙くず同然になった日本国債を買いあさって大もうけした。いま、まさに同じ機会がある。東北がこのままつぶれるわけがないんだから、東北復興債を出そうよ。復興を本当に信じている人はこぞって買いあさるぞ。

 実はいま、某国が国債を出すお手伝いをしている。いまや日本では株券と同じく国債も非実体化されてしまっていて、やたらに技術的だ。それに国債はいまや金融政策のツールでもあって、機関投資家や銀行が主体の変な世界になっている。

 でも国債の原点は、一般国民が有事の際に政府を支援すべく買う紙の債権だ。それを復活させるべきだと思う。一般の人に、金融商品としてだけでなく目的に共感して買ってもらうのだ。文楽人形や各種有志には、募金集めより復興債を売ってもらおう。ついでに償還が心配なら、オタク向けにアニメ絵復興国債を出そう。連中バカだから、観賞用と予備用と保管用で三枚は買うし、絶対換金しないから利払いも償還財源も心配無用。二十種類くらい作って集めさせれば完璧。今をときめくAKB48商法!

 閑話休題。でもやるなら個人向けには、一部でも金利三パーセントくらいで出してほしい。それは国として東北復興への意気込みを行動で示すよい機会だから。ガーナはしばらく前に建国五十周年記念で、五年で倍になる国債を出した。もちろんご祝儀ではある。でも同時に、それは自分たちがそれだけ成長できるという決意と自信の表れでもある。日本政府にも、その決意と自信を見せてほしいのだ。個人向け国債なんて金額的には限られたものかもしれない。でもその意識とメッセージこそが重要なのだ。

 ちなみにいま国債引き受けを拒んでいる日銀はまさに、総裁が口でなんと言おうと、復興への決意も自信もないことを態度で示しているわけだ。でも国民が復興債に殺到するところを見せれば、少しはその無為も変わる……わけはないか。


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