Voice 2010/11号 連載 回

インチキホメオパシーを容認する長妻大臣

(『Voice』2010 年 12月 pp.34-5)

山形浩生

要約: リニア新幹線のルートが決まったが、その経済効果があまりに低すぎ。EIRRで5%って何?? ADBは12%ないと融資対象にしないよ。その原因の一つは、想定されている経済成長のあまりの低さ。これをもう少し高めに見積もれば、世界に胸を張れる立派な先進インフラになるのに、いまじゃ東京湾横断道並の無駄な投資になっちゃう。



 リニア中央新幹線のルート問題について、方針が決まったようだ。直線に近い当初案に対し、どうしても長野経由でという要望が長野県から強硬に主張されていたけれど、国土交通省の交通政策審議会中央新幹線小委員会の検討結果として、費用対効果を考えて結局は直線ルートで行くとのこと。妥当な判断だと思う。

 長野を迂回する代替ルートの支持者たちはもちろん、この結果に文句をつけている。七分の短縮に意味があるのかとか、積算根拠がとか、需要想定が不明とか。でもJR東海の試算資料を見ても、使われている手法はごく普通のものだ。需要想定は大学の交通計画講義で真っ先に習う四段階推計法。工事費等は普通の積み上げ。あまりケチをつける余地はない。

 まあそうした文句は地元に配慮したポーズにすぎまい。だって、所要時間が増えれば人々の被る便益は減る。直線ルートなら東京名古屋が四〇分、それが迂回すると四六分とか四七分とか。ビジネスマンなら、この差が大きいことはわかるだろう。便益が減るのに、建設コストは上がる。これでは直線ルートと比べて有利になるわけがない。前提をどういじっても、ルート間の相対的な順位は入れ替わるまい。長野県内でも南部には駅ができるし、直線ルートでも便益はあるので、そんなに悪い話ではないとは思う。特に、京都ですらパスされていることを考えるとなおさらだ。

 ただ、個人的にちょっと驚いたのは、このリニア新幹線の費用対効果の数字だ。迂回ルートの費用対効果は1.24、直線ルートの費用対効果は1.51。ぼくの仕事ではもう、費用対効果はあまり使わないのだけれど、小委員会の資料ではこの手の公共投資で世界的に使われる、経済的内部収益率 (EIRR) の数字も出ている。迂回ルートは5パーセント、直線ルートは6パーセントだ。いずれも、驚くほど低い。

 いや、これに驚くのはむろん、ぼくが主に途上国の仕事をしているからかもしれない。アジア開発銀行だと、EIRRが12パーセントに達しないプロジェクトは融資対象にならない(だからプロジェクトの経済性計算では、12パーセントをクリアするようにいっしょうけんめい数字を積んだりする)。だから、5-6パーセントなんていう数字を見た瞬間に、プロジェクトごとゴミ箱送りにしたくなってしまうのだ。でも、アジア開発銀行がお金を出す国では、経済成長率10パーセント近くが当然だ。それに何もないところにドーンと高速道路を作って、そこに旅客も貨物もすべて乗ってくるようなプロジェクトと、すでに東海道新幹線もあり、飛行機もあるようなところに旅客だけのリニア新幹線を作るのとは、同列に比べられないのかもしれない。

 ただ一方では、日本が世界にドーンと誇るはずのリニア新幹線だろう。東京湾横断道路以来の、久々の超大型インフラプロジェクトで、半世紀後にはプロジェクトXやディスカバリーチャンネルで大特集されるのが確実な看板案件だ。それがこんなに小さい経済効果しかないとは。まあ大規模だからいいというものでないのは、東京湾横断道路の現状を見れば明らかではある。でもぼくを含め多くの人は、リニア新幹線なら、日本経済にドーンと活を入れるくらいの効果はあるんだろうと期待はしていたんだが……

 じつはこれが発表される数日前に、経済学者の片岡剛士とこれに類する話をツイッターでしていたところだった。日本の公共事業の費用対効果が最近下がっていて、2あったら御の字、1.8くらいが相場で情けないですね、という話だ。でも、リニア新幹線はそれより低いのか。日本に有益な公共事業の機会がないとは言われているけれど、でも日本もまだ課題が残っているんだから、そんなはずはない、という声もある。だがリニア新幹線ですらこの程度なら、本当に日本には機会がないのかも、という気さえしてしまう。

 むろん、この手の計算はすべて前提次第ではある。いまの数字は、今後の経済成長率が一パーセントという想定だ。これはかなり弱気だ。とはいえ、こういう試算は政府の経済見通しの数字を元にせざるを得ない。そうした経済見通しが各種の思惑のせいで、デフレ下で人工的に抑えられた数字をベースにした、人為的に低いものになっているというのは、本誌に登場した多くのリフレ派論者が何度も指摘していることだ。ちなみに、二パーセントの場合も試算されているが、それでもかなり低い結果になっている。デフレを解消して三パーセントくらいの成長が見込めれば、たぶんリニア新幹線の便益もかなり改善されて、インフラ系のプロジェクトとして世界的に胸を張れるものになると思うんだが……


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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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