Voice 2009/11号 連載 回

民主党こそ“官僚丸投げ”

(『Voice』2009 年 11 月 pp.120-1)

山形浩生

要約: 民主党の政策は迷走していて、一方では気前のいい大盤振る舞い、一方ではナントカ削減、でも全体としてのお金の出所のイメージまったくなし。具体化方策はなにもなく、すべて官僚に丸投げ。それじゃ官僚になめられるのはあたりまえだろう。



 民主党が政権の座につくことになってから、執筆時点で一ヶ月弱が経過している。いまのところ、あらゆる点で迷走している、と言わざるを得ない状態だ。二酸化炭素排出を一九九〇年比で25%減らすという(絶対にできるわけがない)旗印だけ掲げて、それをどうやって実現するかという中身については見せられるものがないという惨状で、それなのに首相は国連にでかけて、めどもついていない数字を国際的に約束してしまう。高速道路無料化は、実は選挙のための方便で、やっぱり有料のところは残すという豹変ぶり。補正予算の執行中止も、どんどん尻すぼみになる一方だ。八ツ場ダムも、建設中止と、実は今になってやめるほうがお金がかかることがわかり、何のための建設中止だかわからない状態になっている。子ども手当も所得制限するのしないのともめており、その他各種政策も政府内のあちこちで内紛状態で、詰めのあまさが次々に露呈している。そして調整なんかなにもいらずに、すぐにできるはずの記者会見開放も、一向に進まないようだ。

 そしてぼくが最もダメだと思うのは、官僚主導から政府主導へ、というお題目を掲げつつ、そもそもそれがどういう意味かわかっていないらしいという点だ。いまの進め方を見ていると、基本的には官僚たちの話をきかない、というのが基本線らしい。そして大臣さんなどが、思いつきで個別の政策をメディアに向かって華々しく宣言してみせる。でも、その具体化方策は官僚に丸投げする、ということらしい。高校無償化、という政策を大臣と側近が官僚たちとの事前のうちあわせもなくぶちあげて、その財源ややり方は官僚が勝手に考えろ、ということのようだ。

 さてぼくが官僚なら、そんなバカな話にまともに対応したりはしないだろう。官僚だってない袖はふれない。それにいまだと、できませんと言っておけば民主党はすぐにへっぴり腰になるようだから、ぼくなら徹夜したふりして、今は無理だけど五年後ならできるかもしれませんとかいう結果を出してお茶を濁しておく。大臣さんは何もわかってないから、言うこときくしかないでしょ。

 もし政府主導にしたいなら、できないわけじゃない。でもそのためには、いったいそれぞれの大臣さんが、自分の担当する省庁の政策バランスをどう考えるのか、という全体像をまず提示しなくてはならない。どういう分野を増やし、どういう分野を削るのか。それをどういう考え方に基づいて行うのか。友愛だの生活重視だのというお題目じゃない、価値観とその優先順位を示してもらわないと。

 それを行った上でなら、その具体的な形として個別の政策を推進してもいいだろう。そして、その全体像があれば、どこに力点を入れてどこを薄くするか、という指針があるので、官僚だってあれこれ動く余地がある。もちろんそのためには、大臣さんたちがかなり勉強しないとダメだ。その担当分野で何が大きな課題であり、いまはどういう考え方でそれに対応しているのか。ほんとは政権取る前にそれをやっておいてほしいんだけど、民主党は明らかにそれをサボっていたようだから。

 で、財源の話になると必ず出てくるのが「無駄をなくす」というバカの一つ覚えだ。でもどう考えてもぼくは、いまの政府予算で「無駄」なるものがそんなには出てこないと思う。いまだって、部局間、省庁間で予算の取り合いは熾烈だ。財務省だって予算を厳しくチェックする。その網の目をかいくぐって目に見える「無駄」を残すのは、そんなに楽じゃないんだから。

 いまいろいろ無駄があるように見えるのは、結果としての無駄だ。道路建設でも空港建設でも、実際に作ってみたら全然使われませんでしたというケースは多々あって、それを見てみんな無駄が多いという。でも後知恵なら何とでも言える。八ツ場ダムの一件で、民主党政権はすでに実施中のプロジェクトの費用計算さえまともにできていないことを露呈してしまった。事前の無駄を見つけることなんて、できるわけがない。まして、いまの様子だと、予算の「無駄」を見つける仕事は、そもそもその予算をまとめた官僚たちにやらせるつもりらしい。あほくさ。官僚たちが自分のまちがいを積極的に探すと思う?

 そんなこんなで、このままだと民主党政権はおそらくほとんど何も実現できないだろう。それをかれらは「官僚の妨害にあった」と責任転嫁するだろうけれど、でもそれはひとえに、民主党の政権担当能力不足のせいでしかない。今後、それが急速に改善されることをぼくは本当に願っているけれど、でもまったく期待はしていない。


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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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