Voice 2008/7号 連載 19 回

中国とミャンマーの災害対応

(『Voice』2008 年 7 月 pp.134-5)

山形浩生

要約: ミャンマーでサイクロンが大被害をもたらし、中国でも四川大地震が大きな被害をもたらした。でも中国はそれに大してきちんとすばやく対応を見せ、ミャンマーは無能ぶりをあらわにした。中国えらいし、人権で悪く言われているけれどちゃんとほめるべき部分だと思う。またサイクロンの話で、バカな温暖化論者が騒がなかったのはありがたい。今回の被害が人災だったことが明らかだったからではないか。



 掲載される頃にはそろそろ下火かもしれないけれど、ここガーナでの報道を見ている限り、いま世界の話題はミャンマーのサイクロン被害と中国の地震被害に集中しているらしい。そしてどちらも悲劇的ではあるけれど、両者を見ると災害への対応を考えるうえで非常に示唆的だ。

 ミャンマーの軍政の対応が最悪だったという点は、だれも異論がないところだろう。そもそもきちんと予報を出して人々を避難させられなかったためにみすみす被害を出し、そしてその後も外国からの援助を執拗に排除することで、事態をさらに悪化させた。被害が発生して三週間以上もたってから、外国援助を受け入れる方向に転換しつつあるけれど、あまりに手遅れ感が漂っている。さらにいったい軍政が何を恐れて援助を一切断り続けていたのか、理由がまったく解せない。かれらとして何か得るところがあったのなら(それが軍政の私服を肥やすことであっても)それなりの対応や交渉も可能だろう。でもそれがほとんど見えない。新憲法の国民投票に目がいっていた? そこまで完璧に物事の優先順位もわからないほどに無能だったということなのだろうか?

 それに比べて、中国の対応は立派だった。チベット問題を筆頭に対外的にここしばらくミソをつけ続けてきた中国だし、それが帳消しになるわけでもないのだけれど、即座に大量の人民解放軍を派遣し、外国の援助も積極的に受け入れて、被災者の救助と支援に全力をあげていることを明確に示して、ほとんど非の打ち所がない対応ぶりを示した。もちろん、デマや援助物資の奪い合いの話はあるものの、その程度はどこの災害現場にもあることだ。聖火リレーで世界中をどん引きさせた、異様な愛国心の発露もこの件に関してはよい方向に働いて、国の援助だけでなく民間の中国人たちも自分のふところからかなりの援助をしているとのこと。今後、オリンピックまでに――いやそれを過ぎても――まだまだ復興までにはかなりの紆余曲折があるだろう。でも、人権侵害とか自由がないと批判されつつも、中国は国として、国民を保護するという最低限のラインはきちんと保てることを今回立派に示して見せた。

 そして、ミャンマーとの対比は、こうした災害時の被害というのが、自然要因もさることながら人的要因のほうが圧倒的に大きいことを示した。災害としては、四川省の地震のほうが巨大だっただろう。事前にまったく予測もできず、エネルギー的にも地震のほうが大きい。にもかかわらず、被害はミャンマーのサイクロンのほうが圧倒的に大きい。これはひとえに、災害に対する対応力――事前計画や事後的な政治的対応および行動力等――のちがいに起因している。

 それに関連して、実はミャンマーのサイクロン被害で意外だったことがある。温暖化がどうしたという声がまったく挙がらなかったことだ。アメリカのカトリーナ台風で出た大きな被害は「こんなに被害が出るから地球温暖化を止めなきゃいけない、そのために二酸化炭素の排出削減を」という、あらゆる点でまちがったプロパガンダの口実として利用されてしまった。

 でもカトリーナ台風の被害だって、実は圧倒的に人災だった。事前に各種災害に対する危険度を住民に周知徹底しておくこと、堤防をきちんと補修すること、そして堤防を盲信せず、洪水被害の起こりそうな危険なところにはなるべく人を住まわせないこと、住むならば家の補強その他、それなりの準備を義務づけること、そしてさらには防災訓練や避難計画を通じて、もし災害が起こったときの対応をきちんと準備しておくこと――そういうことができていなかったために、被害は拡大した。

 今回ミャンマーのサイクロン被害にもまったく同じ教訓があてはまることは明らかだろう。今回そうしたプロパガンダが出なかったのは、それが軍政のダメさ加減のせいであるのがあまりに明らかだったから、なのかもしれない。が、今後洞爺湖サミットに向けて排出削減の話が取りざたされるようになるにつれて、この議論が蒸し返されるんじゃないかとぼくは懸念している。でも温暖化を緩和できても(たぶん無理だが)、災害がなくなるわけじゃない。少し減るくらいだ。だとしたら温暖化阻止にお金をかけるより、むしろ防災手段、および救援体勢の整備のほうにお金をかけたほうが有意義では?

 被災者の方たちには心から同情するし、特にミャンマーのほうは今後何が出てくるか想像もつかない。日本に戻ったらぼくもそれなりに義援金を出さないと。でも同時に、これを機に災害対策全般についても、少し考えてみるべきだろうと思うのだ。


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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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