Voice 2007/12号 連載 12 回

ファンジビリティと給油反対論のあほらしさ

(『Voice』2007 年 12 月 pp.112-3)

山形浩生

要約: 自衛隊による米軍給油が、アフガン行きではなくイラク行きの船に使われていたとかで騒がれているけれど、そんなものいくらでも流用できるんだから、騒ぐだけあほくさい。援助の世界ではファンジビリティといって、ずいぶん前から言われていることです。



 開発援助では、ファンジビリティという考え方がある。定訳はないけれど(だからカタカナで通している)、流用可能性とでも言おうか。

 どういう話かと言えば、いろいろ援助したものが他の用途に使われる、ということだ。発展途上国は軍事政権っぽいところも多いし、人権弾圧とか環境破壊とか、繊細な先進国の方々が気になさるような細かい話にいちいち気をつかわないところもたくさんある。でも援助をあげる側としては、「ミサイル買うから金貸して」と言われても、はいそうですか、とはいかない。英米露仏中あたりを除けば(こういう国は武器を輸出してるしあれこれ事情もある)どこの国も露骨な軍事援助はしたくないからだ。港湾や発電所、学校や病院、ゴミ処理施設や地下鉄とかなら議会で説明もつく。

 が……まず簡単な話としては、「学校作るから」と言ってお金を貸しても、相手はそのお金でミサイルを買ったりするかもしれない。まあこの程度なら簡単に見張れるし、対策もある。が、もうちょっと複雑な話がある。学校用の援助をしたら、途上国はちゃんと学校を作るかもしれない。でも援助してあげた分、自国の教育予算を減らして、その分を軍事費にまわすかもしれない。帳簿上は何も問題がない。援助のお金は、ちゃんと目的通りに使われている。でも全体としてみたら、援助のお金は結果的に軍事費の増加に寄与してしまうことになる。お金は使い回しが効くし流用もできる。これがファンジビリティだ。

 それをどう防ぐか? これはとっても頭の痛い問題だ。きっちりやろうとすると途上国の予算編成に口出しする内政干渉にもなってしまうし。それに途上国側だって、教育援助 10 億円あげたら文教予算がきっちり 10 億円減ってその分軍事費がきっちり 10 億円増えました、なんていうわかりやすいことにはならない。予算なんて他の事情でいくらも変わるんだし。「うちが教育援助するようになってから、どうもそちらの文教予算って頭打ち気味のような気がするんだけど~」と言ったところで、向こうは「いやわが国がこーぞー改革なるものをやって無駄をなくした結果でして」といくらでも言い抜けはできるし、ファンジビリティが本当にあるのかないのか、という話すら、きっちりと証明するのはなかなか難しい。

 とはいえ、これは考えてみればすぐわかる話だ。軍事国家にどんどん援助したら、その個別の目的がなんであれ、結局は全体としての軍事国家に貢献してしまうことになる。戦争している国に何らかの形で支援をすれば、それは結局のところその戦争に貢献することになる。ましてその戦争をしている軍隊に支援したら、それが何の名目で行われたにせよ、結局のところそれは大なり小なり戦争を支援していることになっちゃうでしょー。そしてそれがお金でなくても同じこと。燃料だって当然使い回しはきくから、話は同じことだ。そして同じ組織の中ならファンジビリティは疑問の余地なく存在する。

 で、これを執筆している前後では、自衛隊による米軍の海上給油が実はアフガン行きではなくイラク行きだったとかなんとかで一部で紛糾しているんだが……それが議論として実質的にはまったく意味がないことは、このファンジビリティの考え方から明らかだろう。アフガン行きの船に給油していたら、その分だけ米軍は力をイラクにまわす。イラク向けの船に直接給油したらイラク侵攻の提灯かつぎで大問題、してなかったら自分は(日本は)関与していない――そう考えるのがいかにおめでたいことか。距離の問題はあるだろう。ぼくがアメリカ製のDVDを買ったら、それはめぐりめぐって米軍のイラクでの活動を助けることにはなる。そこまで問題にはならないだろう。日本が米軍に基地を提供しているのも、まあそんなに近くはないだろう。でも、アフガン向けとイラク向け? 同じ組織がほぼ隣でやってることでしょうに。

 もちろん国会での給油談義は政治の世界の話だ。政治は実質をめぐるものでもある一方で、名目と仮装と対面と形式のゲームでもある。実質的には何も変わらなくても、一線を越えた越えないの揚げ足取りで日が暮れる世界。でも、と思うのだ。国民だって、完全なバカじゃない。どっち行きの船に給油しようと、いまさら話は変わらないことくらいわかると思うのだ。そして、世界がそんなちがいを細かく仕分けてくれるわけがないことだって、十分想像がつくと思うのだ。もしそうなら、そんなところにこだわって時間を無駄にしないでほしいな、とは思う。もう少し重要な話があるんじゃないかな。いまの政治の局面では。


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