Voice 2007/7号 連載 5 回

国際的影響力のためにはもっとわがままを

(『Voice』2007 年 7 月 pp.120-1)

山形浩生

要約: 日本は発言力を高めるために国連の常任理事国入りをしたがっているけれど、それは話が逆。発言に独自性がなくアメリカ追随ばかりなので存在感がないのだ。もっとわがままと言いたい放題言うようにしたほうが認められやすい。中国アジアのいざこざも、フランスには結構評価されてるぞ。



 ここ一ヶ月弱ほどガーナにいるため、日本の時事ネタが把握できていない。したがって少々一般的な話をさせていただくがお許しを。

 日本は世界第二位の経済大国なのに、国際社会における影響力が必ずしも高くないというのは、隠れもない事実だ。そしてもちろん、政府関係者をはじめ多くの人はそれがけしからんことだと思っていて、なんとかしようといろいろ努力をしている。国際機関にたくさんお金をばらまいて見たりするのもその一環だし、ぼくがガーナにいる理由でもあるODAも、貧しい国の人々を助けること自体がよいことだというのもさることながら、日本はこんなに世界のために努力しているんですよ、というのを認知してもらうためのお布施でもある。ODAで援助しても、それが日本のおかげだとあまり認知してもらえていない、というのが援助分野では悩みの種で、もっと顔の見える援助を、といったお題目がしばしば掲げられるのもそのせいだ。そして日本が国連の常任理事国入りを悲願としているのも、そのせいでもある。常任理事国になれば、みんなもっと注目してくれるんじゃないか、一目置いてくれるんじゃないか、というわけだ。

 しかしながら――「国際社会における影響力」って何だろうか? 具体的に何がしたいの? 実はそれがはっきりしないのだ。一部の人々の間に伝わる小話がある。あるとき、日本の外務省の人が外国の記者団に向かって、今後の外交施策について説明していたという。曰く「我が国の外交施策の大枠は、国連の常任理事国となって我が国の外交目標のさらなる推進をはかることである」とのこと。

 それを聞いてドイツ人の記者が手を挙げて質問した。「で、日本が常任理事国になって推進したいと考えている、その外交目標とはいったい何なんですか?」

 外務省の担当者はことばにつまって答えられなかったという。

 この小話が事実かどうかは知らないけれど、ありそうな話だとは思う。具体的にどんなことをしたいの? 発言力は、発言する中身があってこそ初めて意味があるものだ。常任理事国になれば発言力が得られると思うのはまったく話が逆。小学校で人気のない優等生が、発言力を増そうとして学級委員になってさらに煙たがられるりたがるようなものだ。発言する中身があってはじめて発言力ができるし、発言力があるところは自然に常任理事国にもなるだろう。

 ガーナで他の援助機関めぐりをする中でもらった、フランスの援助機関AFDの『開発援助報告2005-2006』がいま手元にある。開発援助の現状と方向性をあれこれ説明した冊子だけれど、その冒頭部には、現在の開発援助がおかれている国際関係の分析がある。冒頭部は当然ながら背景となる国際情勢だ。重要なトレンドはもちろん、アメリカの弱体化と、当然ながら中国の台頭だ。だがおもしろいことに、もう一つ挙がっているのは日本だ。そこにはこうある。「(日本は)世界第二位の経済を持ちながら、国際舞台で大国としての地位を確立するのに苦労したきたが、それはもちろん日本がアメリカと近いためだ。だが少なくともアジアという狭い範囲では、中国との競合との結果として、独自性あるプレーヤーとしての地位を確立しつつある」(p.11)

 フランスは(そして当然他の国も)ちゃんと見ているのだ。アメリカと同じことしか言わず、独自に言うべきことをまったく持たないからこそ、日本は国際的な影響力を持てなかった。いくらお金をばらまいても、弱小国のご機嫌をとって常任理事国入りの支持をとりつけようとしても、たぶん何の効果もないだろう。注目されたければ、もっともっとわがままに言いたい放題言うほうがいいのだ。北朝鮮を見てご覧。わがままを言いまくって駄々をこねれば、みんなあれこれなだめすかしてでも会議に参加させようとして、頭を下げるじゃないか。日本ももう少し傍若無人にふるまったほうが、外交的存在感は増すかもしれないし、常任理事国の椅子も向こうのほうからやってくるかもしれないぞ。

 そしてその日本が、少なくともアジアの中では中国との競合の中で国際競争力を存在感を増しているというのも、非常におもしろい指摘だ。もちろんこれは、靖国その他をめぐる中国とのここ数年のもめ事を指しているんだろう。あれは一部では外交的な失策と見られているけれど、実は日本にもそれなりに主張があって、場合によっては強硬な態度に出ることもあるということを示した点では、ひょっとしたらいい面もあったのかもしれない(その経済的なコストはさておき)。これをヒントに、日本の国際社会での影響力とか外交方針とかについて、少し考え直す余地があるんじゃないかとぼくは思うんだが。


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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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