seven steps to nirvana

The Seven Steps To Nirvana (Mohan Sawhney & Jeff Zabin) 査読評価

平成13年4月24日
山形浩生

1. 概要

 本当の e-ビジネスとはドットコムではなく、従来のビジネスが IT の導入で生まれ変わったものなのだ、と唱え、従来ビジネスへの適切な IT 導入方法の理念をのべた本。内容的には、10 年前に言われた企業情報化とほとんど変わらない内容を、ビジネススクール的な饒舌にまぶしたシロモノ。目新しさはない。しかし著者は、ビジネスウィークが選ぶ e-ビジネスのビジョナリー 25 人の一人であり、それをテコにすればそこそこの売り上げは期待できる。


2. 目次と内容

Introduction

 序文。個別のケースは陳腐化が早いので扱わず、基本的な方向性だけを述べるつもりと宣言。また、従来のドットコム企業ではなく、既存産業がITを導入する方法を説明するという方針を述べている 「個別のケーススタディはすぐに陳腐化するから、むしろその基本的な考え方や哲学に注力する」とのこと。その後の各章の説明。

Ch 1. E-Vision: Broadening the View

 既存ビジネスをe-ビジネス化することでいろんなメリットが得られる。それは従来のビジネスの拡張にとどまらず、既存ビジネスの質的変化にもつながる大きな変化だが、それは既存ビジネスにあとづけでくっつけたのではダメで、トップダウンで全社の仕組みをネットワークに対応した形で組み替えるのが重要だ。

Ch 2. E-Volution: Climbing the Ladder

 e-ビジネスには、いくつか段階がある。「情報伝達」「自動化」「統合化」「再発明」。Webを企業の広報に使うのが情報伝達、生産プロセスのオンライン化をはかるのが「自動化」、全社の仕組みの中にネットワークを導入するのが「統合化」、そしてネットワークにより会社の仕組みが変わり、全プロセスがリアルタイムでネットワークに統合されるのが「再発明」である。こうしたe-ビジネスの進化プロセスは、その事業や企業ごとにちがう。
 IT革命ではなく、ITを使った進化こそが重要である。

Ch 3. E-Strategy: Playing with LEGO

 既存ビジネスは、レゴで作ったおもちゃのようなもの。そこに新しいレゴ(つまりIT)を導入するためには、最初にあったおもちゃを壊す必要がある。そのための戦略を考える必要がある。そのためには、顧客にどんな価値を提供できるか、自分たちの強みは何かを考え直そう。新しい眼で既存のチャネルやプロセスを見直そう。

Ch 4. E-Synchronization: Breaking the Boundaries

 ビジネスにはいろんなチャネルがある。電話、対面、メール、webなど。それをなんでもかんでもオンラインにすればいいというものではない。それぞれ役割がちがうので、それぞれが補い合い、シンクロするようにしなければならない。そうすれば、これまで対立すると思われていたツールや仕組みが、実は相補的なものだったことも見えてくる。

Ch 5. E-Infrastructure: Opening the Hood

 e-ビジネスには、テクノロジーの細かい話は知る必要がない。でも、顧客との接点、在庫との接点、といった機能に応じた接点については、そういう機能ブロックがあることは理解しておこう。モジュール化したシステムをつくることとかまた逐次型処理から同期処理、ハブ型のシステム構成とか、あとXMLとかもだいじになるかもしれない。

Ch 6. E-Capitalization: Placing the Winning Bets

 e-ビジネスは、なかなかその成果がわかりにくい。投資リターン(ROI)やNPV(正味現在価値)に基づいた投資効果の評価はなじまない。新しい技術にはオプション価値があることを理解すべきだ(ただしそのオプション価値をどう計算するかについては言及なし)。実際には、その場その場で適当な目標を作りながら導入を進めるのがいい。たとえば「受注から発注までの時間を半分にする」とか。会社も、期待される効果(え、成果はわかりにくいのではなかったの?)をもとに、段階的にお金を出していくことが望ましい。

Ch 7. E-Organization: Rallying the People

 e-ビジネス化は、CEO主導でトップダウンでやらなくてはならない。そのためのトレーニングなども欠かしてはならない。また権限を分散する場合にも、それに対応したIT担当がつくようにしなくてはならない。また、CIOは、情報機器だけに注力するのではなく、全社のオペレーションに参加するようにしなくてはならない。

Ch 8. E-Enlightenemeent: Revisiting the Journey

 おさらいもどき。


3. 感想

 全体にレトリックは大仰で、キャッチフレーズの大盤振る舞いだが、中身はかなり陳腐。

 この程度の話。さらに「すべての企業は自分なりの戦略をもってIT化に取り組まなくてはならない」というテーゼをもち出すことで、結局なにがよくてなにが悪いかをきちんと指摘するのはまったくさけている。たとえば「顧客とのやりとり」の部分でも、ネットでやる部分と対面でやる部分とがあって、その配合にはいろいろある、と言うだけ(そしてその配合具合を、よくあるグラフでお絵かきしてみせておしまい)。

 全体に、一昔前の「企業の情報化」で言われたような内容をなぞっているだけの感は非常に強い。かつて、花王の情報化や、ジャストインタイム方式の生産、情報インフラを使った顧客フィードバック、といったインターネット以前の企業情報化議論で出てきたような話題が、ここでも繰り返されている。

 さらに議論をするにあたり、「ケーススタディはすぐに陳腐化するから入れない」という方針を採用している。だがこのため、すべてが概論どまりになっており、話にいっこうに具体性が見えない。さらに、数少ない具体名とともに絶賛されている企業がシスコである。執筆当時、筆者たちはおそらく絶対の安全パイだと思っていたと推定される。が、本書刊行後しばらくして同社が大コケしたのは周知の通り。この一事をもって本書を完全に否定し去るのはかわいそうではある。が、かれらの視点の有効性に大きな疑問を投げかけるものなのはまちがいない。

 また全体に必要以上に饒舌。各節の冒頭に必ず、禅の講話だの老子だのインドの伝承からの引用と称するものがあって、しかもそれが往々にしてピントはずれで、しらける。

 著者の視点も、どこまであてになるかは疑問。たとえば冒頭で、かれらはセガのドリームキャストの失敗を「DVD を採用しなかったからプレステ 2 に負けた」と言うが、これが本質的とは思えない。パームパイロットについても「ウェブで開発企業を囲い込んでいるから成功」と言うが、そもそもその開発者たちがなぜ囲い込まれたかについては、初期の開発者支援の状況や、当時の他のPDA製品の状況などをあまり知らないのが見え見え。現在のパームの劣勢を見ると、これまた著者らの視点の有効性は疑問。「技術の細かい話は知らなくていい」といいつつ、一方で XML 云々といった話が展開されるのも疑問。

さらに、IT の投資効率の部分はまったく不満。「製鉄会社が、IT により原料仕入れコストを 1% 削減できるだけでも大きな効果」という言い方をするのだが、そりゃ当たり前だ。問題はその 1% の削減ができるのかどうか、ということではないか!!!

 ただし、以上は個人的な感想。こうした一般論を派手に言い換えてみせるのがこの手の「ビジネス」書の常道であり、その中ではそこそこうまく書けているのではないか。また評者にはこけおどしにしか見えない部分も、そういったこけおどしが通用する読者層がかなりあることは想像に難くない。


4. 著者について

著者 Mohan Sawhney はノースウェスタン大学のケロッグビジネス校における電子コマース担当教授。Business Week 誌の選ぶ、e-ビジネスのビジョナリー 25 人の一人に選ばれており、また先日来日も果たしてこの分野では評価は高い。

Jeff Zabin は、企業 IT 化を専門とする企業 nMinds 社の共同創設者で副社長。


5. 評価

 内容的な目新しさはなく、また本としてもどこまで重要なものかは、必ずしも明らかではない。この本の力だけで 10 年先まで残る本ではない。ただし著者はそれなりに有名なので、それを全面に押し出して宣伝すれば、たぶん売れるだろう。「ビジネスウィークが選ぶ e-ビジネスのキーマン!」といった広告がかなり効くと思われる。また、著者が今後も活躍してくれるようなら、先物買い的におさえておくことは考えられる。
 またハーバード・ビジネス・レビューなどの、キャッチフレーズやマネジメント新手法云々に弱い読者は、感心してくれるかもしれない。類書よりはちょっと多めのセールスを期待してもいいであろう。


6. 翻訳について

 全体にとても饒舌な文体。かたく訳したら、とうてい読めないシロモノになるので、軽く読み飛ばせるようにすることが必要。

 翻訳はかなり楽な感じ。山形としては積極的に手をあげて訳したい本ではない。が、どうしても訳したくないというわけでもない。やるなら、下訳を入れてあまり手をかけずにあげるなら、という感じ。

査読リスト 日本語 Top Page


Valid XHTML 1.0! YAMAGATA Hiroo (hiyori13@alum.mit.edu)