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イカレたブックガイド

「Title」 2001 年 1 月号

山形浩生

目次

1. 「革命」を学んで IT 社会に備えよう!  2. 生活経済の本


 

1. 「革命」を学んでIT社会に備えよう!

1.1 総論

 多くの人が、現在のIT革命は農業革命/産業革命に匹敵する世界史上の大転換期だ、というような言い方をする。このせりふにどこまでリアリティを感じられるかは、一つにはあなたが農業革命、産業革命をどこまで理解しているかと言うことと、もう一つはあなたがいわゆるIT革命と称するものについてどこまで理解しているかにかかっている。

 大半の人は、このいずれもまるっきりご存じない。テレビや雑誌でしたり顔の講釈をたれているヒョーロンカどもも含め。

 言うまでもなく、これらについての理解が低ければ低いほど、冒頭のせりふにはリアリティが感じられてしまう、のでございます。

 農業革命とか産業革命がいかにすごいことだったかを理解するためには、ぼくがいまこれを書いている真冬のモンゴルのいなかにきてみるといい。連日、ゆでた羊とジャガイモと、乳製品だけの食生活。大雪で家畜が死ねば、そのまま家族は死に直面する。大規模な農業の展開が、これをいかに変えたか考えてごらん。あるいは産業革命。あらゆる工業製品の生産性が、軽く数千倍にはねあがった驚異的なできごとだ。そしてその生産力をバックに、上下水道、電気、自動車、その他ありとあらゆる現代生活のすべてが、そこから出ている。馬鹿な人たちは、モンゴルの田舎にくれば化学調味料に毒されない素朴な自然の味わいがあるとか思っている。きてみるといい。ここにあるのは、よく言っても粗雑な大味。調味料は塩しかない。貧しいところは、食い物があるだけでありがたい。おいしいかどうかなんて、問題にしている余裕はないんだ。ジャンクフードもコンビニ弁当も、これに比べればどんなにか繊細な味付けをしていることか。そして電気もない氷点下二〇度の草原では、暗くなったら酒くらって寝るしかできない。電気がなくてもi-modeすればいいとか言う馬鹿な首相は、ここにこい。この生活が、産業革命でどれだけ変わったかをよく考えてみるといい。

 で、対する IT 革命。生産性は、本当にあがってるのかどうかもわからん。一般の人への恩恵は、携帯電話にオンラインショッピング? 家庭では数十万のマシンが数年でスクラップで、しかも多くは眠ったまま。企業でも、給料の高い管理職が会議室の予約システムに悪戦苦闘して、給料の安い事務職の一分作業に一時間かけている無駄なシステムは山ほどある。産業革命は、低技能者でも高度な生産性を実現させてくれた。IT 革命って、ずいぶん勉強しないとなにもできない。そして全体として生産性は、実際にほとんど上がっていない。IT 先進国アメリカでは、ごく最近になって、やっと生産性統計に IT の影響らしきものが出てきた。コンピュータを作っているところは、すさまじい生産性向上をあげているけれど(みんなが買うからね)、使っているところでは、ほとんど効率向上が見られていない。特にダメなのが金融系。農業革命や産業革命なんかと、比較するのもおこがましい。

 じゃあ IT に意味はないか? そんなことはない。まず、コンピュータを入れたら、それにあわせて企業そのものをかなりリストラしないと効果が出ないことが、だんだんわかってきた。今後はそれが効いてくる、かもしれない。さらに、IT の進展で、いろんなところに新しい参入機会が出てきている。技術進歩がはやいから、既得権があまり意味を持たない。小さな新規のところが腕一本で席巻できる(そして独占体制を一時的に築ける)。これはすごい。さらにもう一つ、IT は新しい場というか空間を作りだしている。そこでたとえば、新しい形でのものの生産が生じはじめている。Linux みたいなフリーなソフトがいつのまにかできちゃうような場だ。これは従来とはまったくちがう社会や経済の形の萌芽となる可能性を持っている。そういうのは過小評価しちゃいけない。

 ただそれらを見るにあたっては、情報とほかのものとの関係を考える必要がある。これまでの歴史でも、情報はだいじだった。けれど、それは情報が人の動きやものづくりや社会システムに影響を与える限りにおいてだいじだったわけ。情報だけを見ていても、何もできない。歴史の中で、情報の役割を考え直さないと、この「革命」の意義はわからない。そしてもう一つ。「意味」ってなんだろう。意味の処理がすすみ、純粋数学的になったとき、たぶん情報とか意味とかは、コンピュータのほうがきちんと処理できる、かもしれない。そして人の好みはかなり画一化してきて、単純なパターンで人間を簡単に操れるようでもある。その中で、いずれ情報化と機械化が進む中で、人間と機械の役割が逆転することも考えなきゃいけない。そのとき人間は、喜んで機械に奉仕するようにし向けられるかもしれない。いまでも人は、役にもたたないゲームを徹夜してまでやる。IT 革命のいきつく先は、そういう単純な刺激による人間の徹底した管理とコントロールなのかもしれない。

1.2 推薦本

ダイアモンド「銃、細菌、鉄」(草思社)

 なぜヨーロッパ人は世界を制覇できて、インカ帝国にそれができなかったか? これを二万年弱の人類史に沿って、初期値と地理的条件から説明しきった脅威の書物。名著です。その中で情報の伝搬が重要な役割を果たしている。技術が広く共有され、行き来する機会があったところは発展をとげ、生産性を高めて、そうでないところを圧迫してゆく。そしてこれまではその伝搬が地理的に制約されていた。それがない現在では?

ルロワ=グーラン「身ぶりと言葉」(新潮社、でも絶版)

 ダイアモンドの本が壮大だと思った? このルロワ=グーランはさらに上をいく。人間の文明を、石器や言語から現代広告や都市に至るまで、アメーバやボルボックスから始まる生物進化を貫く、放射型と左右対称前後非対称型という二種類のパターンの反復としてとらえる! そしてその中で、まもなく人間のいまの自由が消え、完全な管理社会へとつながることを予見。コンピュータは、その管理のツールとなる可能性が高いのだ。

ランダワー「そのコンピュータシステムが使えない理由」(アスキー)

 産業革命と IT 革命の比較は、この本がなかなか詳しい。産業革命のもたらした数千倍の生産性向上(しかもそれがあらゆる分野に波及)に対し、IT 革命がいかにチンケか。いろんな経済学の調査をひいてきて、コンピュータを入れたところの生産性がぜんぜん上がっていないことを示し、コンピュータはサルのオナニーだと看破。ここまでの前半が傑作。後半ではその原因が、ユーザの声をきかないプログラマだと主張。でもここは落ちる。

ロジャース「コミュニケーションの科学」(共立出版)

 非常に原始的な言語や手紙から、いまのネットワークまで、コミュニケーションについて歴史的に見た本。情報の持つ意義の限界についての冷静な視点がすごい。さらに他の要因への目配りもさすが。シリコンバレーの成功について、ふつうはスタンフォード大があって、優秀な技術者が転職を繰り返すことで知識共有が進み、というほうに注目するけれど、こちらはそれがメキシコからの安い労働力で成り立っていることを見逃さない。

クルーグマン「グローバル経済を動かす愚かな人々」(早川書房、またはオンライン)

 この巻末の、「2097 年からふりかえって」だっけな。オンラインでも読めるけど、100 年先から 21 世紀をふりかえってそれを経済的に語るというお遊び記事がすごい。情報なんかより、かれは石油価格と環境問題が重要になると考えているけれど、IT 革命の結果に対する見通し(さらに都市集中を高める、有名人経済の到来)も目からうろこ。読み物としても楽しい。

シャピロ&ヴァリアン「ネットワーク経済の法則」(IDG)

 いま巷で言われている IT 革命と称するものについて、いちばんまともで冷静で役に立つ本。情報は収穫逓増で従来の経済が通用しないというけれど、実は大量生産の工場や、航空会社だって収穫逓増は同じ。応用できる知見はいっぱいあるのだ。それをわかりやすくていねいに(しかも堅実に)解説した名著。これを読んでいないやつは、IT 革命とか言うんじゃない。一読すればひたすら納得。さらに世の中のバカが一目瞭然になります。

レイモンド「伽藍とバザール」(光芒社、あるいはオンライン)

 ネットワークから出た経済の新しい活動が、Linux をはじめとするフリーソフトの動き。ボランティアが勝手に集まって、すべてをフリーで公開していつのまにか商業製品を脅かす高度なものをつくりあげるという、一見非常識な活動がなぜ実は合理的で、安定して高レベルの活動ができるかを理論化した名著がこれ。今後の経済と、ネット上の著作権を考える上でも必読。ネットでも無料で読めます

永瀬唯「疾走のメトロポリス」(INAX)

 鉄鋼、無線といった新しいテクノロジーは、どれも実は商業ベースで栄えたものではない。まずは趣味の世界で栄え、それがやがて商業にのっとられて、ホビイストたちはスミに追いやられていく――IT にも通じる技術普及のパターンをえぐりだした快著。また有料道路ターンパイクの乱立による車の停滞と鉄道の発達、そしてフリーウェイによる車の黄金時代という歴史を描いた一遍は、ネットの有料化と規制を考えるうえでも示唆に富む。

ギブスン「ニューロマンサー」(早川文庫)

 インターネットが普及するはるか以前の一九八四年に発表された傑作。サイバー空間ということばと概念を普及させた名作 SF だけれど、ここで描かれているネットへの没入、さらには巨大企業と軍事システムの点在する中で完全に管理された人間たちと、そこからわずかにのがれてすみで活動を続けるハッカーたち、それをさらに上位からあやつる人工知能、といった冷徹で残酷な情報世界の認識は、いまだに現代性を持っている。

クルーグマン「よい経済学、悪い経済学」(日経ビジネス文庫)

 この中の「技術の復讐」。いま、投資銀行の連中とかが高い給料をもらっているけれど、実は大したことをしていないし、いずれそんな仕事はコンピュータのほうが上手にできるようになる。さいごまで IT 化されない仕事とは、実はマシンのメンテナンスとか、そうじとか、そういうドタ作業。そのとき、経済の主役は人間ではなく機械になっているだろう(ただしその経済というのがどんなものかは不明だが)。経済の視点からの暗い予言。

その他参考になる本
コーン「競争社会をこえて」(法政大学出版局)
大室幹雄「監獄都市」(三省堂)
ハワード『明日の田園都市』 http:///www.genpaku.org/gardencity/gardencityj.html
レム『虚数』(国書刊行会)
ドーキンス「利己的な遺伝子」(紀伊国屋書店)


 

2. 生活経済の本

2.1 総論

 いや簡単な話。まず自分の手持ちと収入を考えて、将来どう使いたいかを検討、不要な支出を切る。そのうえで貯金して、なくしてもいいお金は、投資とかすれば? それだけのことなの。使うことを考えずにお金増やすのは守銭奴だよ。最高の投資は、自分の健康やスキルへの投資と、友情への投資だよ。おいしい話なんかころがってないよ。あたりまえね。でも、これを教えてくれる本はぜんぜんなくて、「これさえ読めば大儲け」のバカ本ばかり。情けない。

2.2 推薦本

「ゴミ投資家のための人生設計入門」(メディアワークス)

 まず人生をどう生きたいのか考えよう。そのために何が必要でいくらいるかを考えよう。その簡単なことを書いた唯一の本がこれ。掛け値なしの必読の名著。と同時に、日本での将来の生活についてかなり暗澹たる思いにさせられますが。不動産も保険も、育児や教育も、なんでもあります。まずはだまって読んで、自分の人生設計をしよう!

「浪費するアメリカ人」(岩波書店)

 はやりにあわせていらないものばかり買うでしょう。所得はちょっと増えても、欲望がそれ以上に肥大している。本書を読んで、我が身を振り返ろう。人は豊かなのに、自分の浪費によって自分を貧困に追い込んでいる。その呪縛から逃れる第一歩としてこれを読もう。けちくさくない生活をしつつ、支出を抑えることは十分できる。

「ゴミ投資家のためのビッグバン入門」

 支出をおさえる一方で、すこしは運用とか投資とかで手持ちを増やしたいのは人情。オンライン株に外貨預金に、なにがいいでしょう……と考える前にこれを読もう。まとまったお金を動かせない人(ゴミ投資家)は、それだけでもう不利。けちな儲けをしても手数料でぜんぶもっていかれる。働くのが一番なのだ。

「賢いはずのあなたがなぜお金で失敗するのか」(日本経済新聞社)

 人が投資で失敗するパターンは決まっている。「自分だけは」の甘い考えと「もうちょっと」のあきらめの悪さ。オンライン投資や外貨預金では大して儲からないけれど、もし手を出すなら、まずこれを読んで。お金がからむと、欲がからむと人は冷静な判断ができなくなる。だれにも身におぼえがあるはずの体験を理論化。

「信用恐慌の謎」(ダイヤモンド社)

 で、投資してヤケドしました、と。ご愁傷さま。まあ数十万程度の損ですんだのは、いい人生経験だと思ってあきらめてください。もっとでかくお金をなくした人の話でも読んで溜飲さげましょ。でも市場の大きな動きについての知見が満載だから、次の投資の参考に……いやいや、悪いこといわないからやめとけって。懲りないお方。

各種のバカなオンライン株投資雑誌

  どうしてこういうのを読むの? 絶対得する銘柄とかさ。そんなもの教えてくれるわえけないのに。それにその記事が書かれてから雑誌が出るまでに一ヶ月たってるんだよ。
 中身は毎回いっしょ。あがった株を見せて「あの時これを買っていれば」。で、お奨めのセオリーは「20% あがったら深追いしないですぐに売れ」。くだらねー。

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