(The 21 2001年1月号 p.26)
山形浩生
ITは生産性をあげるか? これはよくわからない。部分的に見ると、一人あたり生産性はまちがいなく向上している。たとえばパソコンとエクセルのおかげで、財務モデルは手作業の500倍(当社比)くらいの速度で作れる。多くの人が、ITは生産性を向上させると言うときに持ち出す例は、たいがいこうした事例だ。
ただし全体で見るとどうか。
ぼくはむかしよりプロジェクトの数をこなせるか? いいや。単に、同じプロジェクトの中でやるモデル試算の数が増えただけだ。さらに計算ミスは減った一方で、手計算なら絶対にしないような致命的な、モデル自体の構造にかかわるまちがいが増えている。
さらに事務処理なんかでは効率が下がっている例も多い。社内システム化で、会議室の予約は社員自身で入力、その分の事務職削減。合理化が進んだとシステム部門は自画自賛。でも会議室の数は同じで、実際に処理できる予約は前と同じ。しかも昔の事務職が2分でこなした予約も、機械音痴の部長なら20分はかかる。部長の給料は事務職の5倍。コストは人件費5倍の人が時間10倍で50倍だ。どこが合理化だ?
次に全体での生産性。機械化・IT化で、人は減っても機械は増えた。その機械のコストも補うだけの生産力増加になっているだろうか。これはだいたい、「儲け」と同じ概念だと思えばいい。ただ、ITは機械を入れるだけじゃだめ。ソフトも買って、トレーニングもいる。おまけに2年で陳腐化して、30万円のマシンが2年でスクラップ。2000円のタクシー代をけちる会社が、コンピュータだけは気前よく買い換えるけど……本当にそれだけの役にたっているのか?
ここまで考慮すると、話は本当に怪しくなってくる。アメリカはいま生産性があがっていて、その30%はIt産業が押し上げた、と言われる。これはウソではない。ただ実際に見ると、好調なのはITを製造する産業だけ。かんじんのITを使う側の企業は、実は大した生産性向上が見られない。要するに、みんなバカみたいにコンピュータを買うからコンピュータメーカーだけが儲かるってことだ。
では、本当にITは生産性向上に役立たないのか? それは実はよくわからないけれど、示唆的な話がある。電気の話。昔、工場の動力は水力や蒸気力だった。中央にでっかいタービンなんかが一つあって、動力機械はそれを中心に配置され、カムやクランクや歯車で動力が伝えられていた。
そこへ電気がやってきた。ところが、最初は電気は何の効率向上ももたらさなかった。水車やタービンのかわりに非力なモーターをおいただけだったから。電気が本当に力を発揮したのは小さなモーターを分散させて配置した、新しい型の工場が登場してからだった。いったんそれが入ると、無駄な動力伝達機構が不要になった。製品中心のベルトコンベヤ方式も可能になった。生産性は飛躍的に向上。
さて電気をITに置き換えてみよう。いまの工場(企業)にITを入れただけでは、かえって不効率になる可能性もある。ITを本当に活かすためには、いまの企業形態を捨て、いまの企業のクランクや歯車を捨てなくてはならないのかもしれない。すると……この捨てられるクランクや歯車って、なんだと思う? 特にITが使われる事務系で?
それが本当に起きるのか? いつか、ITを活用したまったく新しい革新的に生産性の高い企業が出てくるのか? でも、その代表かと思われたアマゾン・コムは不調だし……まだ議論は続いている。
さてあなたはどう思う?
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