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21世紀の経済を考える10冊強

(『InterCommunication』2000 年 夏)

山形浩生



 はいはいきみたち、21世紀だからって経済がそんなにホイホイ変わると思っちゃいけないよ。アメリカでネット通販会社の株がバブったらニューエコノミーかい。おふざけでないよ。まずトゥヴェーデ『信用恐慌の謎』(ダイヤモンド社)を読んで頭を冷やそう。バブル破裂話だらけで、他人の不幸話ばかりだから、実に痛快に読める。

 というわけで21世紀の経済も、いまとそうそう変わると思わないほうがいい。まずいまの経済学をおさえておくこと。といってもみんながまじめに経済学のオベンキョーをするわけがないので、通俗概説書を中心に紹介しよう。

 まず全体像の把握にクルーグマン『クルーグマン教授の経済入門』(メディアワークス)。マクロ経済はいろんな立場があって、クルーグマンだって絶対ではないけれど、どういうことが考えられていて、何がわかっているのかをざっと把握するには最適。反対意見もちゃんと紹介しているし、これで中心部は俯瞰できる。さらに21世紀経済のまともな予想には、同じくクルーグマン『グローバル経済を動かす愚かな人々』(早川書房)の最後の一遍がとても示唆的。http://cruel.org/krugman/lookbackj.htmlにも訳がある。

 ミクロ経済はおさえておこう。梶井・松井『ミクロ経済学:戦略的アプローチ』(日本評論社)は、全編ゲーム理論で通したユニークな教科書。語り口が楽しくて読んでいても飽きないし、スタンダードな説明よりわかりやすい部分も多い。昔、教養の経済の講義をドロップアウトした人にもお勧め。

 ミルグロム+ロバーツ『組織の経済学』(NTT出版)。実際に経済を動かす主体は(いまのところ)人間や企業組織だし、抽象的な経済モデルから一歩出て、現実への適用を考えるなら、この本に書かれている中身は知らないとつらい。MBA向け教科書で、がちがちの理論書ではないから見た目よりやさしくて読みやすい。

 これじゃでかいしぶあついし高すぎるなら、C・N・パーキンソン『パーキンソンの法則』。下手な文庫本より安い! 40年前にはビジネスマン必読書だったけれど、いまも十分に役にたつ。「仕事は与えられた時間を満たすまで拡大する」「組織は業務と関係なく拡大する」「上司を引退に追い込むには」など、現実にも有用な洞察がいっぱいで、しかも全編イギリスジョークてんこ盛り。爆笑。

 ニューエコノミーとか口走る人は、eとかネットとかつくと既存の経済原則が通用しないと思いこんでる。ヴァリアン&シャピロ『ネットワーク経済の法則』を読んで目をさますこと。基本は同じで、ただ商品の性質がちがうから注意すべき点があるだけなのだ。そこんとこ勘違いしないように。必読。

 この本でもカバーしきれていないのが、Linuxなどフリーソフトの世界。みんなが無料でリソースを提供し、勝手にソフトができてしまう! この世界についての唯一まともな仮説がレイモンド伽藍とバザール(光芒社)。金銭経済とはちがう労働力組織原理(しかもままごとではないもの)の理論として注目。その鍵はヴェブレン『有閑階級の理論』(ちくま文庫)で分析されているような「見栄」だった、というのもおもしろい。人はおだてれば動くのだ!

 『伽藍とバザール』にはNGOとかNPOがえらく注目している。最近はこのNGO/NPOがえらく流行りだけど、役にたつ面もある一方、将来ダメージを引き起こす局面も出てくるはずだ。経済も含めて、こうした人を動かす各種の原理について総合的に考えているすごい本がジェイコブズ『市場の倫理 統治の倫理』(日本経済新聞社)。NGO/NPOの問題や、政治と経済の関連について考えるための絶好の本。座談会形式で読みやすいけれど、中身は深いよ。心して読むように。

 さてこのジェイコブズおばさんの最新作が The Nature of Economies (Modern Library)だ。

 もう経済を考えるなかで環境の話はさけて通れない。でもいまの環境経済学は、基本的にはあらゆる人間活動は環境を破壊するものだ、というのが前提(農業は自然との共生とか、有機農法はエコロジカルとか思っているバカは今すぐ死んでよし)。究極的にはあらゆる経済活動をやめて、いまの環境を凍結させようという話だ。もちろんそれは不可能だから、どこまで妥協するか、という話にしかならない。

 それに対してジェイコブズは、人間の経済活動だって、ハチが巣をつくるのと同じ自然活動の一環であるはずだ、と主張する。環境を変えるなというのはおかしい、自然な発展が可能なはずだ、と。いまの環境経済学とはまったく逆。おもしろい。この本ではまだ経済原則と生態系の類似性の指摘にとどまるけれど、うまくいくとこれは突破口になるかも。まだまだ経済学の可能性はいっぱいあるのだ。

(付記;その後、ジェイコブスの本をちゃんと読んでみたが、結構ひどいな、この最後のやつは。自然活動の一部として捉えようという発想自体はおもしろいが、具体的な中身がまったく伴っていない。これについては、ロバート・ソロー非常に厳しい批判を加えている。ちょっとした小話を一般化しすぎてる、あまりに漠然とした物言い、ついでにこの対談形式という書きっぷりが尊大な演説の連続になってしまっている点等々。まあ確かにその通り。ちなみにこれは、彼女の次の作品でさらにひどくなる病状なのでした。(2005/2/10)


InterCommunication 柴さま
2000/4/2
From 山形浩生

とりあえずこんなもので。電子メールの調子が悪く、メールでは送れません。ファックスだけになります。2000字程度ですから、うちなおしても一瞬ですので、ご容赦を。全部でタイトル的には11冊出てきますが、クルーグマン「グローバル経済……」かヴェブレン「有閑階級の理論」のどっちかは、写真は落としていいかな、とは思います。どっちかといえばヴェブレンを残したいですね。

 あと、「ネットワーク経済の法則」の版元はIDGコミュニケーションズかどっかです。「パーキンソンの法則」は失念しました。いまモンゴルにいるもので、ちょっと調べがつきません。その他の本も、記憶を頼りに書いてる部分があるので、版元は不正確です。お手数ですが、確認していただければ幸いです。

 そういうわけで、最後のThe Nature of Economiesもお送りするわけにいきません。お手数ですがAmazonかなんかで注文するか、あるいはAmazonやBarns & Nobleのページに出ている紹介用の画像をそのまま使ってしまっていいと思います。単純な表紙ですから。

 問題がある場合の連絡などは、以下にお願いします:

Ulaan Baatar Hotel, Room408
Tel +976-1-320237 Fax: +976-1-324485

では。

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