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あたまくんなー。(Rilli Sucks.)

(『インターコミュニケーション』1998年頭頃)

山形浩生

 バロウズが死んだと聞いて驚いた人はだれもいなかったはず。だいたいぼくは別にバロウズには会ったこともないし、生きてようが死んでようがどうでもよかった。かれの書く物だけが大切。これからもがんがん作品を書く見込みがあるんなら、「惜しい人をなくしましたね」とか言えるだろう。でも、バロウズはそんなんではなかったんだもん。ファイナンス(いや、ファイナンスに限らず)の世界では、過去はどうでもいい。未来だけが問題になる。株なりプロジェクトなりの価値は、将来それが生み出すはずのキャッシュフローで決定されるのだ。ウィリアム・バロウズの場合、もうかれは外向けに発表するものは書いていない、と一年ほど前のインタビューで語っていた。だからかれの生の価値はぼくにとってもうゼロだった。残っていた唯一の期待といえば、そうだな、すっごく派手でスキャンダラスな死に方をして、世間の度肝をぬいたりしてくれないかなー、という勝手な代物だけ。たとえば「内なるネコ」の最後にあるように、飼い猫がいつのまにか野ネコ処理業者につれていかれて、哀れガス室送りとなってしまったりなんかして、バロウズせんせいは愛猫を殺された怒りにうちふるえて、手持ちの銃のコレクションをすべてたずさえて犬猫処理場にのりこみ、全弾うちつくしてそこの職員を屠殺したあげく、帰宅してからは、よく考えてみると何の役にもたっていない穀潰しの取り巻きどもをすべて道連れに、隠遁地の家を老体もろとも吹っ飛ばし、それでもって翌朝の世界の新聞の見出しは「殺人おかまジャンキー作家 有終の美:死してなお貫く反社会」とかいって……いや、そうはならないな。「カンサスの悲劇 老作家ご乱心」ってことで、キンタマも卵巣もろくについてねーよーなくされバカな平和ご愛好知識人どもが「なにはあっても暴力はいけません」「そのエネルギーを創造に向けてくれれば」とかいうくだらねーコメントを出す横で、もののわかった連中はもう狂喜乱舞して「いやぁ、爺さんやってくれました!」「やっぱ最後の最後まで侮れねーキチガイ」と、一歩メジャーでない刊行物では大絶賛の嵐。バロウズ人気はガキどもの間でガンガン上がってスリーピースのスーツ姿でネコと散弾銃を抱えてうろうろするのが世界のストリートファッションの中心になるというわけのわからない状態が蔓延、ここは渋谷か大手町かってなもんで、さらにバロウズのまねしてガールフレンドを射殺したりするバカまで登場する始末で、いたるところで社会不安が拡大してバロウズの著書を発禁にする国が続出するが、おかげでかえってポピュラリティが増し、でもみんながんばって読もうとはしてみても頭悪いから何がなにやらさっぱりわからず、そういうガキどもが百人くらい頭をひねってるところをカメラがずーっと引いていくと、天国だか地獄だかからバロウズ爺さんがそれを見下ろして「フフン」とせせら笑ったりするところで「The END」となるとあまりにクサい映画チックなんだが、いやちょっと待った、こりゃないな、バロウズは自分一人ならともかく他人に対してあんまし直接行動の人ではなかったし、怒りを外面にあらわにしたりはしない人だったし、それに現実はまあとかく詰まらぬもので、バロウズは、何の騒ぎもなく死んじゃって、まあ大往生で結構なんだがつまらないといえばつまらず、しかもなんだぁ? なんか日記なんかつけてたんだって? それでその倒れるその日だか前日だかに書かれていたのが一行、「愛、それはなんだ 究極の痛み止め、愛」だったとかで、もうほんと、「クッサー!」って感じ。これを見て「バロウズは最後に円熟の境地に達して愛に到達した」とかいうくだんねーことを言うヤツが出るのはもう見え見えで、バカヤロー、「愛というのは女のつくった陰謀だ!」 とわめいていたてめーが何言ってやがる、最近のめそめそしたネコかわいい文だけでもむかつくってのに、むわったく最後の最後までがっかりさせてくれるぜ、もうろくジジイが、ここは一つ翻訳で細工して、やっぱこの最後の一言は、「愛だって、何のことだよ、究極の痛み止めだって、愛が?(バカゆーんじゃねーよ)」とか解釈しちまおう、という気は……やっぱしないな。ちくしょう、年なんか取りたくないぜ。円熟なんかしたくないぜ。バロウズはそういうことしないと思ってたし、それが世界の期待だったのに、ケッ、クソつまんねー死に方しやがって。いや、そもそも死ぬってこと自体からしてつまんねーよな。ギンズバーグが死んで、リアリーが死んで、でもバロウズだけは死なないんじゃないかとみんな思い出してたのに。「ドラッグは細胞を活発化させて長生きさせる」という『ジャンキー』の頃のでたらめな理屈を生物学無視して勝手に体現しちゃって、200歳くらいになってもだれにも読めない変な小説をガンガン書いてほしかったのに。
 けっ、まったく。

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