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ウィリアム・シュワード・バローズ

(ブリタニカ年鑑1997年版、物故者欄)

 1914年2月13日生まれ。作家。二〇世紀後半のアメリカ小説史のなかで、かれの『裸のランチ』とそれに続く『ソフトマシーン』『ノヴァ急報』などの作品群は、いわゆる前衛小説の代表格である。

 『裸のランチ』は、麻薬中毒と同性愛を裏社会の言葉で公然と描いた作品として大きな波紋を呼んだ。作家としてと同時に、文化的アイドルとしても名高く、ギンズバーグやケルアックらとともに、50年代ビートジェネレーションの中心的な存在。定職につかぬままニューヨーク、南米、タンジール、パリなど世界を放浪、自由と無責任のモラトリアムを体現した人物として、不動の地位と人気を過去30年にわたり維持し続けた、アメリカ対抗文化の長老的存在。

 同性愛者、麻薬売人、探偵やスパイなどの徘徊する裏社会を描きつつ、誇張したブラックユーモアの多用で、かれの作品には不思議な笑いがつきまとう。その一方で、少年時代や失った恋人の思い出などの喪失感を麻薬禁断症状で強化したような叙情的な悲しみも、非常に顕著にうかがえる。この両者を偶然にまかせてきりつなぐカットアップという手法により、『ソフトマシーン』『ノヴァ急報』などの作品群は読むに耐えない部分と一種異様な印象が交錯する不思議な部分の入り交じった独特の世界を築いている。「言語は宇宙からやってきたウィルスだ」といった被害妄想めいた発言も多く、かれをきわめてアメリカ的な作家の一人にしている。

 J・G・バラードや、これまた1997年死亡したキャシー・アッカーなど、作品面で直接的な影響を受けた作家は数多く、またそのライフスタイルや思考などに共感を示すロックミュージシャンなども数知れない。かつての仲間たちがとうに死亡し、または宗教色を強める中で、バロウズ一人は無責任さと自由、そしてそれと裏腹の孤独を、作品においても実生活においても常に体現し続けていた。享年八十八歳。

(山形浩生)

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