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山形道場の牛肉の話の補足

山形浩生


  たまに日本出張できたら、2ちゃんねるの山形スレでバカが馬鹿に扇動されて、20ヶ月以上だけの検査でよいという山形の議論はダメだ、アメリカの月齢管理はいい加減なんだからとか言ってるじゃないか。やれやれホントにバカだなあ。.... Like, does the word duh mean anything to me? 2チャンネルに巣くってるような連中の大半はバカに決まってるか。とはいえどうせわかりゃしないだろうけど、ちょっと説明しとこうか。。

  まずきみたちの多くは、そもそもの問題を忘れている。そもそもの議論は、アメリカからの牛肉を輸入するとき:

  1. 全頭検査をするか
  2. 20ヶ月以上のやつだけ検査するか

 ということだ。アメリカの牛肉に病気持ちがまじってないかどうか、という話じゃない。全頭検査か、20ヶ月以上か、という話。なぜ 20ヶ月以上かというと、20ヶ月以下の牛では、検査しても病気が検出できないからだ。そしてもちろん、この問題に関心を持っている人なら、これが実際は 30 ヶ月くらいだ、ということは知ってるだろう(まさかもとの報告書を見てないなんてことはないよね? まさかね)。それが 20 ヶ月になったのは、ただの政治的なポイント稼ぎであって、実際には科学的な根拠で 20 という数字が出てきたわけじゃない。

  さて、アメリカの検査がいい加減で、きちんと月齢がわからん、という。これは何を心配してるのか? ここから起こる問題は2種類ある。

  1. 20ヶ月以下の牛が、20ヶ月以上と思われて検査されてしまう。
  2. 20ヶ月以上の牛が、検査されずに通ってしまう。

  最初のやつは何も問題にならん。検査されたところで、どうせ何も検出できない。事態は何も変わらない。問題があるとすれば後者だ。後者の中には病気持ちが混じっているかもしれない。全頭検査をしていれば通らなかったはずの病気牛が、パスしてしまうかもしれない。

  うーむそりゃ大変。で、問題はこれがどのくらいいるか、ということだ。

  まず、さっき述べた通り、20ヶ月というのはかっちりした線じゃない。19.9ヶ月の牛で見つからなかった病気が、20ヶ月になった瞬間にカチッと見つかるようになるなんてシロモノじゃないのは、当然わかりそうなもんだ。だからそんなところでつまらん精度にこだわること自体があほくさいことではある。さらに実際には 30ヶ月くらいが境界らしい。30ヶ月以下は検査しても検出できない。従って、20-30ヶ月の牛はフリーパスになったところで、全頭検査と何も変わらない。どうせ検出できないんだから。

  すると本当に問題になるのは、30ヶ月以上の牛が 20ヶ月以下と思われてフリーパスになってしまう場合なんだが……実は肉牛の多くは 30ヶ月以下で肉になるんだよ。要するに 30ヶ月以上の肉牛なんてほとんど入ってこない。だから、アメリカの月齢管理がいい加減であっても、それは検査の結果には何にも影響しない。実は、検査したってほとんどの牛はどうせ 30ヶ月以下で、BSE はほぼ検出できないんだから。

  でも、馬鹿な2ちゃんねらーは自分に関係ないところでだけは潔癖症だから、ゼロではないかもしれない、といって大騒ぎするだろう。で、ここでもう一つ。牛の月齢がわからない、管理がいい加減だといっても、30 ヶ月以上のやつを 20 ヶ月以下と称して通せる場合は限られている。さすがに見ればわかるよ、特に専門家なら。もちろん、それすらすりぬけてくる例はあるだろう。でも、それはきわめて限られている。っつーか、もともとそんなのはあまりいない。なぜかわかる? きみたちの嫌いな資本主義と利益優先の大企業のおかげだ。同じ牛を長く飼ってたら、その分エサ代も何もかもかかるから、もったいないじゃないか。なるべくさっさと売りにだしたいんだ。うっかり牛を 30ヶ月も生かしておくようなコスト管理のできてないところが、大企業としてやってけると思う? 神某は、大企業は月齢管理がいい加減だと言って騒いでいる。でも、そのいい加減さはむしろ月齢を過大に評価してさっさと売りに出す方に傾くはずなんだ。収益の理論から考えて。

 結局、20ヶ月以上だけの検査で見つからなかったような BSE が、全頭検査のおかげで見つかるようなことは、ほぼあり得ない。全頭検査と比べて事態はほとんどまったく変わらないのだ。リスクはもちろんある。20ヶ月以上を検査すればまったく安全、ということじゃない。でもそれは全頭検査をしたって回避できないリスクだ。

  さて、なんだっけ。アメリカの月齢管理はいい加減だ。ほう、それで? それがどうかしましたか? 全頭検査だとよくて、20ヶ月以下はパスというのはダメ、という議論を正当化できるだけの追加リスクがどれほどあるの? 神某とかは、そもそも全頭検査と 20ヶ月以上のみの検査とのちがいがわかってない。だから全頭検査のほうが安心だとわめいていた。そして 20ヶ月以上のやつを検査するだけだと、補足できない病気牛がいるかもしれない、と騒ぎ立てる。でもその補足できない病気牛は、全頭検査したって補足できないんだ。実はその手の連中は単に何でもいいから反米っぽいことを言いたいだけだ。牛肉のことやそれを食べる人のことなんか、本気で心配してるわけじゃない。だからアメリカの揚げ足をとれれば何でも言い立てる。でも、全頭検査ならよくて 20ヶ月以上だけの検査じゃダメ、という議論をその揚げ足取りが本当に支持してるのか、というのはきちんと考えてほしいな。と言うだけ無駄か。

  だいたいこれだけ大騒ぎして、関心ある人はそれなりに状況がわかってきたはずだ。だったら20ヶ月以上だけの検査で牛肉を入れて、その連中が自分で注意すればいいだけだろう。そしてこれは万人にとってシヤワセな解決となる。まったく無意味な有機栽培だの無農薬野菜だのに、無駄金払いたがるバカはたくさんいる。「全頭検査牛」とかいうのをやって、ふつうの牛肉の倍くらいつけて売り出せばいい。その手の怪しげな商法も栄える。自分で何も考えずに「安心」を金で買いたいやつは買える。そんなことに関心のない健全な人は安い牛肉を買える。で、何が不満なの?

 ついでに、今月のサイゾーの M2 対談の最後に出てきたのは、なんだあれは。ブッシュ政権がもう牛肉問題しか手札がないって、どっからそんな話をきいてきたんだろう。日本については他にメジャーな要求事項がないってだけのこと。世界全体から見れば、そんなのどうでもいいことだ。他の世界政治がらみのまともな雑誌や論文で、ブッシュ政権にとっての牛肉輸出再開問題なんかに触れてすらいる例はほとんど見たことないぞ。


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