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ネット小史

月刊『アスキー 2006/11月?(復刊一号)

山形浩生

要約:ネットはいろんなものを共有しようという発想から生まれた。周辺機器の共有、CPUの共有、データの共有。やがてそれは、個人の嗜好、行動、プロフィール、その他ありとあらゆるものを共有するぷらっとホームとなりつつある。


 コンピュータを連結してみようなんて、考えてみれば変な話ではある。あなたは自分の電卓を同僚の電卓とつなぎたいなんて思ったことはないだろう。それがなぜいまやなんでもかんでもつながっているのか? その基本となる概念は、共有だ。
 コンピュータだって、もともとつなぐような発想はなかった。でもその昔、コンピュータはでかくて高かったのである。数千万、数億円単位の高さだ。でもその一方で、いろんな場所でその計算能力やデータ処理能力が使えれば便利だった。
 だったら、その計算機から四方八方に線をのばし、端末をつなごう。そうすれば一台をみんな使える。銀行のATMは、銀行の電算センターにある大型計算機を使うための端末だ。家の電話も、電話局の交換機(というコンピュータの一種)を使うための端末。そしてその端末では何の情報処理もしない。ネットワークは、バカな端末で賢い大型計算機を共有するためのものだった。


さて時は流れてパソコンが普及しはじめた。わざわざ大型計算機につながなくても手元で各種処理ができる。もう共有の必要はない……はずだが、共有しなきゃいけないものは他にもある。パソコン本体より高いプリンタ。あるいは大量のデータ保管できるディスク。社内や学内のネットワークが、こうしたものを共有するための手段として発達してきた。
 そしてそれ以上に共有して便利なものがあった。みんなの作ったデータやファイルだ。ウェブはもともと、研究者がデータ共有手段として開発したものだ。それが一気に普及した。ビジネスでも、個人でも、共有したいものはたくさんあったのだ。そしてその共有されたものを見る手段としてのブラウザは、ネットスケープ対IEのバトルの舞台となり、共有物の中から目的物を見つけ出すための検索は、かつてのヤフー、いまのグーグルのような一大ビジネスともなった。ネット書店やオークションはなどのネットビジネスは、書籍や商品のデータを極度に多くの人々に共有させることで商機を作り出す。そして近年では日常や考えの一端を共有するためのブログ、写真や動画の公開共有サービス――いかに共有のためのプラットホームを提供するかが、ネットビジネスの中心となりつつある。


そして時は現在。ネット人口は加速的に増加。世界中のコンピュータが繋がり、既存のさまざまなものを浸食している。本屋さんの売上げの数 % はアマゾンだし、各種の書籍は文書は次々にネット化されている。かつては電話線にネットがのっていたのが、いまや IP 電話としてネット上に電話が乗っている。新聞や雑誌はすでにその存在意義の相当部分をネットに奪われているし、CD などは iTunes などネット音楽に押されている。ポッドキャストなどでラジオもネットにとりこまれつつあり、同時にラジオ、雑誌の広告売上げをネットが超えた。ブロードバンドと動画配信の普及で、テレビも徐々にネットにとりこまれつつある。
 人間関係も、次々にネットに乗りつつある。単純なおしゃべりから恋人探し、ネットでのゲームや議論、一部の大規模掲示板などに見られる強力なコミュニティ感覚。人々のやりとりのうち、データ化できるものはいまやほとんどネットにのるし、それを使ってかなりの人間関係は再現できる。一方、ネットによる共有の推進は、ウィルスまでみんなに共有させたりするし、ウィニーなどのP2Pによるファイル共有では外部社会の常識と対立する結果にもなっている。が、勢いはネットのほうにあるようだ。


では、将来はどうなるだろう。データ化→ネット上での共有化を実現できるものはなんだろうか。グーグルの検索は、人がウェブでリンクを張るという行為をデータとして集計し共有することで、驚異的な検索精度を実現し、またアマゾンと同じく検索結果を商品情報と連動させて、実に効率のよい広告ビジネスを確立した。同時にグーグルは、メールやデスクトップ検索のサービスを提供することで、人々の私的な部分すら(集計された形とはいえ)共有しつつある。ミクシィその他のSNSは、ある意味で友人関係や交遊範囲を共有する試みだ。その次は何だろうか。  残るは個人そのものだ。いまや人間の行動はおろか、一挙一動を携帯電話やRFIDタグでデータ化できる。それを使えばネットワークは人間をとりこんでしまえる。一方でユビキタス環境の整備で、都市環境自体が電子ネットワークと完全に重なってくる。共有された行動パターンに基づくイベントや商品案内はすぐそこだ。あるいはそれを使った人材紹介やお見合いまで? 十年後、人は予想もしなかった形でまったく気がつかないうちに、あらゆるものをネットで共有することになる。だがそのとき残された「個人」や「プライバシー」とは……



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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