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『NewWords』2007年春号

NewWord連載 03: 北京の宴のあとで:第二次東京オリンピックを実現させるには

(月刊New Type 別冊「『NewWords』2007年春号 pp. 128-9)

山形浩生

要約: 東京がオリンピックに立候補したけれど、北京のあとだということを考えないと勝ち目はないぞ。アジアで二回続けるのはつらいし、どうしてもというならよほどのインパクトある提案でないと。いまのハイテクロボットなんてのは全然だめ。中国だってやる。むしろ高齢者重視とかそんな方向ではないか。




 東京が2016年のオリンピックに立候補するそうで、うーむ、どんなもんだろうねえ。しばらく前の長野オリンピックは結局地元のそろばん勘定としてどうだったのかという問題はあるし、ワールドカップも各地に作られたでかいスタジアムは有効に使われているんだろうか、という疑問はある。名古屋万博も、思ったより人は入ったけれど、その後の落ち込みが結構激しいようだし、イベントに一過性でない効果を持たせるのはなかなか大変らしい。

 が、それはおいておこう。税金をいっぱい使って立候補するんだから、できることなら当選してほしいところだ(一過性であっても)。

 で、どうすれば当選できるんだろうか。

 実はIOCのサイトにいくと、開催地選考の経緯と判断基準をそこそこ細かく書いた資料がたくさん出ている。あと、トトカルチョのサイトがあって、参加者が真剣かつ楽しげに次の開催地についていろいろ議論をしている。なかなかおもしろいよ。

 一つの条件は、そもそも支障無しに開催できそうか、ということ。オリンピックに便乗して施設整備や各種インフラ整備をやろうというのは、どこの国でも考えることだ。でも、それがあまりに大きすぎると、実現可能性は下がる。オリンピックのためにリニア新幹線を整備します、なんていう立候補案を出したら、「それってホントにできるんですか」ということになっちゃう。だれが何をするのか――市、県/州、国の役割分担の合意ができているかも重要だ。二〇一二年の開催地選考で、ニューヨークはそれで落ちた。メインスタジアム建設を負担するはずのNY州が、その支出を否決して実現の見通しが薄くなったからだ。

 次の条件は、オリンピックを開催して地元の人々が喜んでくれること。七〇ー八〇年代あたり、オリンピックはテロの標的になったり、モスクワ五輪みたいに政治の道具にされたり、無駄遣いとして非難を浴びたり、あるいはいきなりライオネル・リッチー独演会と化して商売っけがむきだしになったりして、あまりよいイメージがない。それはいやだ。オリンピックのせいで環境が悪化したとか、二度と使われない施設だらけとか、自治体財政が破綻した、なんていうのはダメ。大阪が落とされた理由の一つは、この財政面への影響があったようだ。オリンピックをやってよかったね、と言って欲しいのだ。だから、五輪をきっかけに荒廃地帯が復興しましたとか、コミュニティが仲良くなりましたとか、そんな話がほしい。ロンドンやパリの提案にはそういうのがちゃんとあるし、北京が二〇〇八年の開催をもぎとったのも、それが大きいようだ。いろんな施設整備が必要だし、不安材料はあったんだけれど、でも共産党のブルドーザーパワーで何とかなるのはまちがいないし、五輪によっていろんな都市整備が進みました、というのがすごく言いやすい。アジア、成長、といったイメージとの連想もいい感じ。

 そしてもう一つ、五輪そのものに対する提案。いま、オリンピックをやる意味って何だろう。施設整備とかのオマケじゃなくて、五輪そのものの意義は何だろう。商業主義はいやだし、政治の道具はいやだという否定形では語れても、肯定形で語る五輪って何だ? それが言えると強い。ロンドンは、子供の成長への貢献をいやらしいくらい出して、ここでポイントを稼いだらしい。

 さて、それを考えたとき、東京は何をすれば勝てるかってことなんだが……

 これはむずかしい。いま都が出している、アジア初の二回目の開催とかいうのではあまりにインパクトが弱すぎると思う。ロボットを使うとかいう都知事の戯れ言も、実効性はないだろう。選考が行われるタイミングを考えなきゃいけない。二〇〇九年、北京が終わった直後だ。アジア、成長、発展、そういったイメージはすでに皆さん食傷気味だろう。どうせハイテクじかけだっていろいろがんばっちゃうだろうと思わない? 施設の豪華さだって、中国は国の威信をかけてくる。ロボットだって挑戦者一号が出てくるだろう。そういうところで勝負かけても、「あ、それこないだ北京でやった」と思われておしまいだろう。

 すると、中国(そしてその他の開催地)とはかなりちがったイメージで攻めないとなかなかつらいんじゃないか。ふつうにやると、順番から見てぼくはアメリカに持って行かれそうな気がするのだ。それに対抗するには、ちょっと奇策がいるんじゃないか。そのネタは……「萌え」だ! と言うと思っただろう。そうじゃない。たぶん中国はそれもやる。ぼくは高齢化で攻めるといいんじゃないかと思う。年寄りと五輪。高齢化社会における五輪。ジジババとスポーツ。そういった問題意識を盛り込めると、日本独自の持ち味を出しつつ、五輪そのものにもまったく新しい提案ができる。今後世界各地で重要になる課題に先鞭をつける形になるから、受けもいいと思うよ。それを具体的にどう実現すべきかはぼくもノーアイデアだけれど、本当に五輪を持ってくる気なら、そういう方面を十分に考えるべきじゃないかな。

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YAMAGATA Hiroo<hiyori13@alum.mit.edu>
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