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1993年 ハイゼンベルグ(不)確定性講演#4

―― 1993年10月7日Igノーベル賞授与式にて

ポール・クルーグマン

 MIT 経済学部は、世界経済危機の謎をついに解明いたしました。世界各国の昨年の輸入額と輸出額をそれぞれ合計すると、輸入が輸出を1,000億ドルも上回っているのです! これがどういうことかおわかりでしょう。これはすなわち、われわれが惑星間貿易において、全地球的に巨額の貿易赤字を出しているということにほかなりません。だからロス・ペローはまちがっていたわけです。あの巨大な吸い込む音はメキシコからきているのではないのです――宇宙からやってきているのです。アメリカ人の職を奪っているのは、うちゅーじんたちだったのです


輸入が輸出を上回っている:これホント。

巨大な吸い込む音:Great Sucking Sound。ロス・ペローがNAFTAに反対したときに、「メキシコのほうから大きな吸い込む音がするぞ、メキシコの安い労働力がアメリカ人の仕事を吸い込んで奪ってしまう音だ!」という表現を使ったのを指している。

うちゅーじん:うーみゅ、そうか、やはりうちゅーじんはぼくらを見張っていたのか!


解説

 説明しよう! もはやノーベル賞の時代は終わった。これからは IgNobel 賞の時代だ! これは毎年、世界各地での刮目すべき偉大な余人にはおよそまねのできない独創的な、人類に対する偉大な貢献を行った研究に対し与えられるもので、毎年 10 月の MIT クレスゲ講堂での大授与式は各種のノーベル賞学者たちをふくむ何百名もの学者たちが集結する大イベントとなっている。

 1993年度の栄えある受賞者たちの一部を紹介すると:

心理学賞
 
ハーバード医学校のジョン・マック教授。全米各地で報告されている、UFO による人間誘拐と宇宙人たちのエッチな各種実験を「だって当人たちがそう言ってるんだもん」という科学的に論駁しがたい証拠でもって立証した功績が認められて。我が国でも、『トンデモ本の世界』などで宇宙人による誘拐事件の権威として紹介されているので有名である。
物理学賞
 
フランスのルイ・カーヴラン、卵の殻のカルシウムは常温核融合で生じているというすさまじい結論を讃えて。
医学賞
 
ジェイムズ・ノーラン、トーマス・スティルウェル他。その痛々しくも画期的な研究「ジッパーにはさまったペニスの適切な処置方法に関する研究」を讃えて。
数学賞
 
ロバート・フェイド。ミハイル・ゴルバチョフが反キリストである確率を統計から厳密に算出した偉大な功績で(ちなみに8,606,091,751,882:1の確率だそうな)。
経済学賞
 
ラビ・バトラ。1990年の大恐慌を予言した本をたくさん書き、それをベストセラーにすることで需要を喚起して結果的に恐慌を回避してしまったという偉大な功績を讃えて。
文学賞
 
医学論文An International Randomized Trial Comparing Four Thrombolytic Strategies for Acute Myocardial Infraction (SO: NEW ENGLAND JOURNAL OF MEDICINE 329(10): 673-682 PY: 1993 LA: English) を著した、E・トポルら 972 名の共同執筆者一同に、論文ページ数の100倍におよぶ数の著者によるとんでもなく偉大な共同作業を讃えて。

 また 1995 年にはわが国の気象庁が、ナマズのしっぽと地震の関係を 7 年にわたって研究したという偉大な業績を称えられて名誉の受賞とは相成った。

 さてこの授賞式で毎年行われるのが、ハイゼンベルグ確定性講演(これが確定性なのか不確定性なのかは年によって変わるため不確定である)。各分野の第一線の学者たちが、かのハイゼンベルグの肖像をバックにして 30 秒の時間制限のなかできわめて確定的(ハイゼンベルグ的に)な内容の講演を行うというもの。クルーグマンのこの講演は、経済学の対象を地球から全宇宙にまで広げたという業績の偉大さとともに、宇宙からの経済侵略という新たな脅威の可能性を示唆したものとして、国連方面でも大きな注目を集めた。これからの地球防衛軍には、軍事による防衛だけでなく、通貨防衛や経済防衛といった新たな任務が求められることとなる。

「た、隊長! メトロン星からのタバコ輸入急増で、地球の星際収支が大幅赤字に転落しています! このままでは……」
「そうか、よしっ、やむをえない、ここは地球通貨の切り下げと同時に、ウルトラの星から緊急借款を要請するんだ! それと、メトロンたばこに含まれる成分に幻覚作用があるとでもいって、輸入停止措置を! すでに陸揚げされたものは没収して焼却だ。ダン、すぐにスリランカの宇宙軌道エレベータに飛べ!」
「し、しかしそんなことをしたら GATT が……」(人気でなさそうな番組だなぁ)

 なお、こうした可能性についてはすでに我が国の高橋留美子がその大研究書「うる星やつら」のなかで示唆している点について、ここで明記しておきたい。

















ついしん:ホントの理由が知りたい人はこちらへどうぞ……

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YAMAGATA Hiroo (hiyori13@mailhost.net)

























統計の誤差です、そんなの。ちなみに、なぜそういうことが起こるかわかる? 輸入ではかかるけど輸出ではかからないものってな〜んだ? そう、関税だ。輸入品は関税取るためにみんな目の色変えてチェックするけど、輸出のほうは数えても統計作る意味しかないので、いい加減に処理しがちなのだ。フィリピンなんか、政府歳入の2割が関税だったりするから、輸入通関はシステム組んで必死に細かく補足するけど、輸出はシステムなんか作ってもしょうがない、と言って旧態然の人間チェックのみなんだよ。