tooooniiiight.

© 1996 Jamie Zawinski <jwz@jwz.org>
tooooniiiight.


パーティーにいて、 冷蔵庫によりかかっていた(というのもパーティーってやつの常で、ほとんど全員が台所に集まってきてたからだ)。向こうの部屋の CD プレーヤーではなにやら権力闘争があったようで、それまでかかっていたフランク・シナトラが急に中断されて、デペッシュモードの古典 Black Celebrationアルバムの、アンニュイまみれのスタイルに置き換わった。

let's have a black celebration
black celebration
tonight

 部屋の、ちょうどぼくの対角線上のところに何人かがすわっていて、歌の一行のおしまいまでくるたびに、各人は自分のグラスを持ち上げてグイッと飲んでいた。

to celebrate the fact
that we've seen the back
of another black day

 青い髪の女の子がその一人の上に身をかがめて、ちょっとしたことばのやりとりがあった。女の子は身を起こして、目を丸くすると、かなきりごえを上げて部屋を飛び出していった。耳を手で覆いながら。

 ぼくはゲラゲラ笑ってかぶりを振った。

「いまの何なの?」

 この質問は、いまやぼくの隣に立っていた背の高いやせた野郎からきたものだ。ふわっとした白いシャツに、アイライナーをつけて、わけがわからないという顔をしてる。

「うん、あいつらは、デペッシュモード飲酒ゲームをしてたんだよ」 とぼくは説明した。

「え、何をしてたってぇ?」

「デペッシュモード飲酒ゲーム。Black Celebration をかけて、Black, Tonight, Time, Questionのどれかの単語が出てきたら一杯飲むんだ」ぼくは、そいつがこの意味を考えるのを眺めた。 「酒が弱いやつには向かないゲームだね」とぼくはうなずきながら付け加えた。

「でも、それでなんで彼女はあんなに頭にきてたの?」

「それは……」とぼくは口を開いた。話しちゃっていいのかな? ま、いいか。すごくおかしい話だし。

 数ヶ月ほど前、友人数人を家に呼んだんだけれど、問題の女の子はちょっと飲み過ぎた。というか、 海賊でも溺れるくらいのラムを飲んだんだ。そしてあの地点に到達したわけ。つまり、肉体が実に明白な形で、おまえちょっと行き過ぎだよ、と告げてくれるあの地点ね。彼女は緑色になりだしてた。

「そろそろトイレに出かけたほうがいいよ」とぼくは提案した。

「あたし、吐かない」と彼女は口ごたえ。「あたし吐くの 大っきらいだもん。吐いたりしないわ」

 ぼくは、どうあがいてもこれはいずれ吐くことになるのはまちがいないし、だったら早めに済ませるのがいちばんいいよ、と説明した。すでに飲み過ぎてるし、おなかには、まだ代謝系にまわっていないアルコールがいっぱいたまっているし、それを何とかしないと、どんどんひどくなるよ、と指摘。

 彼女はとってもとってもいやがっていたけれど、でもぼくは彼女を 洗面所に案内した。電気をつけると、彼女はうめいた。はいはい、じゃあ暗いままで。ぼくたちはゆかにすわって、頭をおさえてあげて、大丈夫だよ、大丈夫だよ、と言い続けて自分の義務を果たす。彼女にとっては運のいいことに、まだ酔いすぎていて、それほど苦痛を感じていなかったみたいだ。

 何回か吐いて、ぼくはその髪をなでて、不快な状況から意識をそらすようにお話をしてあげた。まだ完全には済んでなくて、だからしばらく待ち続けた。かなりそこにこもっているうちに、やがて向こうの部屋でだれかがテレビを消して音楽をかけた。デペッシュモード。

I want to take you
in my arms
forgetting all I couldn't do today

 音楽が漂うにつれ、彼女も小声で歌い出した。

black celebration

「……celebraaaaation」 と彼女がささやく。「Blaaack celeb……」

 そのとき彼女の腕が硬直して背中が弓なりになって、彼女は軽く身をもたげ、そして…… オエエェェェェェェッ!! とゲロがきた。これが決めの一発だった。

「...tooooniiiiight」と彼女は歌い終えると、そでで口元をぬぐった。

 というわけでもちろん、その後何週間もぼくたちはときどきこの子に忍びよって、まったく予想外の時に 「tooooniiiiight -- オエエェェェェェェッ!!と言ってやってからかい続けた。これが冗談として定着したんだけれど、でもしばらくするうちに、当人はあまりお気に召さなくなったみたいだ。

 背の高い野郎は笑った。話は別の話題に移って、そのうちなんとなく別れた。しばらくすると、あの青い髪の女の子が目の前にやってきた。眉根にしわがよって、口もへの字に曲がっている。ちっとも嬉しそうじゃない。「会ったこともない人がいまさっきやってきて、『あ、きみのこと、知ってるぞ!』とか言ったわよ! まったく、そんなだれにでもあの話をしなきゃいけないの?]

「えへへへ」ぼくはやばいな、と思いつつ笑った。 まずいじゃん、怒らせちゃったよ、と思って。 「いやだって、連中がやってるのを見ただろ、あのゲームをやってたんだよ! だからあの話も、その……成り行きで出てきた、みたいな」 彼女は首を傾げてタメイキをついた。これじゃ納得しないみたいだね。「いやだから、謝るからさ、ね? それに、あの話をウェブページの載せたりとかしたわけじゃないんだし!」


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