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山形浩生の『ケイザイ2.0』

第24回 REIT(不動産投資信託)を考える
──あやしい‘ミドルリスク・ミドルリターン’


 ご無沙汰。NGOに地域通貨とでかいネタを続けたもので、あまりしょぼいネタをするのもアレかな、と思っていたけれど、そうそう大物ネタが出てくるわけもない。強いて言うなら、スティグリッツが本連載第一回の、消費税引き上げによる景気刺激を支持してくれた、というのがあるけれど(かれが提案したのは、税率を3%に引き下げて、「二年後にまた戻すぞ」と脅す、という方法だ。将来の増税をにおわせていまの消費を引き上げるという発想はまったく同じ)、それだけじゃあねえ。

 だから久方ぶりの今回は、ちょっとしょぼいネタをやろう。不動産投資信託。REITというやつだ。REITってなんだ? これはだね、不動産を証券化するための手法だ。これを理解するためには、まず不動産ってものの(投資における)特徴と、証券化の話と、両方がわかっている必要がある。


●1. 不動産投資の特徴。

 不動産投資というのは、ふつうはハイリスクハイリターンの投資だということになっている。うまく行けば、バブル期のデベロッパーみたいに大もうけできるけれど、ヘタをすれば、バブル以後のデベロッパーみたいにひどいことになる。なぜそうなるんだろうか。
 最大の理由は、不動産は作るのも壊すのもえらく時間がかかる、ということだ。いま、急に日本経済が上向いて、東京にオフィスがもっと要る、ということになったとしよう。あるいは住宅がもっと必要だ、ということになったとしよう。さてどうする? 電卓や自動車なら、すぐ増産すればいい。一時品薄でも、来月くらいにはすぐ需要に応えられる。ところが、不動産はそうはいかない。「オフィスが不足してるみたいだから、我が社の空き地にオフィスビルを建てましょう」とだれかが思ったとして、実際にそれができて、収益をあげられるまでには3-4年はかかるだろう。その間、いまある需要はいまあるオフィスで対応するしかない。賃料も高騰するだろう。そしてこのときたまたま新しいビルが完成したら、もう大もうけができる。予定していた賃料の二倍三倍でテナントが入る。ウハウハだ。
 一方、いまの日本みたいに不況だったら、オフィスに空室がたくさんできたりする。さてどうする? キャベツなら、余ったら処分するだけだ。工業製品なら、100円ショップに流したりして在庫整理。でも、空室がたくさんあるのでビルを壊しました、という業者はいない。供給量一定だと、ひたすら価格を下げるか、あるいは空室を我慢するしかない。そしてこれは特におもしろいことだけれど、不動産というのは実はそれ自身が結構オフィスを使う業種なのね。不況で、オフィスビルが不調だと、不動産会社が苦しんで、コスト削減でオフィスを縮小し、それがさらにオフィス需要を引き下げる、なんている悪循環がまじめに起きる。そうなると、もうまったく儲からない時期がいつまでも続いたりする。いまの日本と同じでしょ。
 そして、経済環境はすぐ変わる。「お、賃料上がってるぞ、オフィス不足だぞ、チャンス!」と思ってビル建設を初めてみたけど、それが完成した頃には経済が傾いてて、見通しがまったくはずれる、というリスクは実に大きい(バブルの頃の人たちは、こういうリスクをまったく考えずにヤケドをこいだわけですな)。
 さらにもう一つ、不動産開発はもちろん、えっらく金がかかる。恵比寿のガーデンプレイスはあるビール会社の開発だけれど、かれらはこの開発に総資産額のかなりの部分をつぎこんだ。こいつが失敗すれば会社ごとこける――そんな規模だ。それだけの失敗のリスクを負うからには、よほど儲かる見通しがないと手を出せない(ちなみに前出のあるビール会社の場合、そういう見通しがかなり外れてしまったわけでご愁傷さま)。
 そして最後に、不動産は流動性が低い。つまり、売ろうと思ってもなかなか売れない、ということだ。明日、業者に支払いをするので現金が要る、というとき、不動産が手元にあっても役にたたない。不動産は売りに出しても、買い手がつくまでに1年、さらにその買い手と価格交渉をしたりしているうちにもう1年、という具合に、実際に売れてお金が手元に入ってくるまでにすごい時間がかかる。大規模なデベロッパーが、たくさん土地や不動産資産を持っているのに、あっさり倒産してしまうことがある。これは、土地や不動産がすぐには売れないからだ。これもとってもリスクが高い。不動産に手を出すというのは、こういう流動性の低いものを敢えて手元にもつということだ。それなりの見返りがなければ、そんなものを持ちたがるバカはいない。

 というわけで、不動産はハイリスクハイリターン、と思われている。ただし。

 多くの人は、気軽に「ハイリスクハイリターン」だの「ローリスクローリターン」だのと口走る。でも、高い低いは相対的なものだ。ハイリスクって、何と比べてハイリスクなの? したり顔で「ハイ」だの「ロー」だのと口走るような人たちには、ちゃんと基準を聞きただす必要がある。

 で、ここでの「ハイ」というのは、他の投資と比べて、ということだと思ってほしい。投資対象として他の代表選手は、債券と株だ。もちろん、個別の債券や株は、リスクのでかいのも小さいのも、いろいろある。でも、全体として見てやった場合、債券はあんまりリスクがない。ある債券を買ったら、それには「今後10年、毎年額面の5%払います」と書いてあったりして、そしてそれを発行した会社が倒産したりしない限り、それが手元に入ってくるだけ。収益はまったく変動しない。だからリスクは低い。
 一方、株はリスクが高い。会社があげた利益の中から、債権者への返済をして、もし残った分があったら配当してあげますよ、というのが株だ。大もうけする年もあるだろうし、ぜんぜん儲からない年もあるだろう。債券よりは圧倒的に変動が大きい。ファイナンスの世界では、リスクというのは単に「ヤヴァイ」ということじゃない。予想がつかないことはすべてリスクだ。予想外に大もうけするかも、というのも立派なリスク。その意味で株は、債券よりずっとリスキーだということになる。

 そして、不動産はこのリスクの大きな株に比べても、さらにリスクが大きいのだ、というのが通り相場となっている。

 実はこれが本当か、という声はいろいろあがっている。不動産の状況は、時代によってかなり変わってくる。高値安定、つまりローリスクハイリターンだったりする時期もあるし、底値安定、つまりローリスクローリターンだったりする時期もたくさんある。不動産が絶対にハイリスクハイリターンじゃなきゃいけない理由は、必ずしもない。が、一般にはそう思われているし、まあいろいろリスクをあげる要因はある、というのはまちがいないことだ。


●2. 証券化ってなに?

次に、証券化というやつ。

証券化というと、一部ではえらく難しいことのように思われている。でも原理は簡単だ。要するに、何か長期にわたって現金が入ってくるプロジェクトを見つけて、その収入を受け取る権利を切り売りするだけだ。
 単純な例としては、マンションやアパート。アパートの部屋には人が住んでいて、大家さんに家賃を払う。じゃあ人をたとえば10万人集めて、10億円のアパートを買おうではないの。一人一万円。そして毎月、そのアパートから入ってくる家賃を10万人で山分けしようじゃないか。もちろん、いろんなメンテナンス費用や税金もかかるから、それも均等に負担しよう。
 証券化ってのはそういうことだ。なんだ、じゃあ区分所有と同じか、と思った人、その通り。

 ただ、証券化にはもう一つ先がある。アパートをたとえば一戸だけ買ってこれをやったとしよう。普通に店子が入って家賃が入ってくるときは、問題はない。でも、その店子が急に引っ越したら? あるいは家賃を滞納したら? そしたら、10万人は新しい住人がきてきちんと家賃を払ってくれるまで、手元に一銭も入らなくなるどころか、ひたすら費用ばかりが出ていくことになる。これは困る。それに、連帯責任は無責任。10万人も責任者がいて、実際に修理が必要になったときだれがその作業を引き受ける? だれがとりあえず修理費を負担する? 新しいテナント募集をだれがやる? だれが税金払う? 登記簿にはだれの名前を書く?

 というわけで、証券化のためには、それなりの仕組みが必要になってくる。まず、店子が引っ越したり滞納したりした場合への対応として、アパートを一軒だけじゃなくて、100軒、1000軒とまとめて持とう。そうすれば、一軒くらい引っ越して数ヶ月空き家になっても、他のところからの収入で埋め合わせがつくだろう。すべてのアパートの住人が同時に引っ越すことは、まあ富士山でも噴火しない限りあり得ない。
 さらに、10万人がそれぞれ1000軒のアパートについて把握して管理するなんて不可能だ。だから、それを所有管理運営する会社を作ろう。そして10万人は、そこの株主になることにしよう。ふつうの株だと、その会社が営業利益を内部留保して配当にまわってこないけれど、この会社はとにかく利益が出たら完全に配当で吐き出すようにさせよう。そうすれば、その1000軒のアパートの所有者もはっきりする。管理責任もはっきりする(その会社だ)。そしてアパートからの利益は、その会社を通ってすべて10万人の株主に行く。

 これが証券化の仕組みだと思えばいい。そしてこれは別に、不動産じゃなくてもいい。なんか、定期的にお金が入ってくる仕組みのあるものならなんでもいい。たとえば、住宅ローンの証券化、というのもできる。住宅ローンを受け取る権利、というのを住宅金融公庫や銀行からいっぱい買い取って……あとは同じだ。油田でもできるだろう。有料道路は? もちろんできる。

 が、それは余談。とにかく、証券化というのはそういうことだ。


●3. で、不動産証券化とREIT。

で、REITっつーのは、不動産投資信託の略だけれど、やってることはつまり、上のような話だ。会社作って、不動産をいっぱい持たせて、そこからのあがりを配当させるわけ。アメリカで1994年あたりから大きくたちあがってきて、そしてそれを真似したJ-REITってのが日本でも今年の頭から動き始めて、みんな結構注目したり騒いだりしているのだ。

なぜみんな注目したり騒いだりしてるんだろうか? それは、この方式が不動産の持っている大きな欠点を補ってくれる、という期待があるからだ。

 といっても、もちろんREITのおかげでビルが三日で建ったりはしない。REITだって万能ではないのだ。でも、REITは不動産の流動性リスクをかなり解消してくれる。不動産そのものは売買に時間がかかる、といった。でも、このREITはまあ、いってしまえば株券だ。だから売ろうと思えばすぐに売れるんだ。すると、人々は、低い収益率でも喜んでREITを買おうとするようになるかもしれない。つまり、いまよりも高い価格で物件を買ってくれるのと同じ効果が得られる。いま、地価下落は大きな問題だ(それを担保にしている債券が不良化して、銀行の不良債権がさらに増えるもの)。REITが普及すればそれが解消できるんじゃないか? みんなそう期待した。

 もちろん、単純に新しい商品ができたというのを喜ぶ人たちもいる。これで素人をだまして金をむしり取れるぞ、というわけ。もちろんそんなことをおおっぴらに言うやつはいない。が、内心そう思ってそうなやつは……まあだいたい見当がつくでしょう。

 そしてそれと実質同じことなんだけれど、REITは小口なので(土地を直接買うのに比べれば、だけれど)セコいゴミ投資家でも買える。つまり、いままで不動産投資できなかったような人でも、不動産投資(間接的に)ができるようになる。すると、そういう人たちのお金が不動産部門に流れ込んできて、不動産の需要があがる。すると、地価が上がる。すばらしいじゃないか。

 はい、その通りいけばすばらしい。が……ファイナンスや投資の世界で、何かすばらしそうな話がきたら、必ずきかなきゃいけない質問がある。「そんなにすばらしいんなら、なぜ今までできなかったの?」

 ここでもそうだ。なぜいま急に? 上の説明って、そんなむずかしくもなさそうでしょう。やろうと思えばすぐにできそうじゃない? なんでこれまでできなかったの?


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