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山形浩生の『ケイザイ2.0』

第20回 電力の自由化・市場化と市場操作
――カリフォルニアの電力不足を考える


 例によってぼくのネタもとポール・クルーグマンのコラムによると、カリフォルニアが電力不足で困ってるんだって? ふーん、ふーん、おもしろいなー。というわけで電力の話をしよう。

●途上国の電力市場化とセクター改革
 今年(というのは2000年だ)ぼくはずっとモンゴルをうろうろしているのだけれど、去年一昨年はもっぱら東南アジアや南アジアをうろうろして、電力がらみの仕事をやっていたのだった。さて、電力はだいじだ。国の産業面でも生活面でも基本インフラだと言っていい。モンゴルのウランバートルもしょっちゅう停電するし、いなかにいけば夜は10時までしか電気がない、というところはざらだ。毎日だとつらいよ。したがって、これまでは各種の海外援助の中でも優先順位はかなり高かった……んだけれど、ここでちょっと最近の市場経済化とのからみでおもしろい動きが出てくる。


●国営電力会社はグズで官僚的だ。
 昔は、こうした途上国に国営電力会社があって、そこが発電所をつくっていた。そしてそれが足りなくなると、世界銀行やアジア開発銀行にお金を借りて発電所を増設する。
 でも、これがあまりうまくいかない。国営電力会社は独占で、官僚的で、仕事が遅く、発電所建設はどんどん遅れ、電力価格も高く、しかも国営なので料金回収にも熱心じゃないから赤字たれながし状態で国から補助ばかりもらって、コストを下げようとしてメンテナンスもしないから発電所はすぐダウンして、相変わらず電力不足という状態が続く。これではダメだ。いくら援助しても役にたたない。そこで世界銀行なんかが特に90年代に入ってやりだしたのが、セクター改革と市場化・民営化だった。
 つまりもう、個別の発電所プロジェクトにお金を出したりはしません、と世銀とかは宣言したわけだ。電力セクター全体を改革して、電力の仕組みをかえないとだめ。まず、その国営企業一社が全部独占している状況をやめろ。競争と市場原理を導入しろ。


●援助機関のすすめる「電力セクター改革」
 具体的にはこういうこと。電力には、発電と、送電と、配電という三つのパートがある。送電ってのは、発電所から最寄りの変電所・配電所まで電気を引いてくる、でっかい送電線の世界で、配電はそこから各家庭や事業所まで電気を引いてくる部分のことね。で、この送電と配電についてはネットワークの外部性ってやつがあるから、多数の企業が競争するのはむずかしいけど(送電線を同じところに二本も三本も並行してつくるのは無駄でしょ)、発電のところはもっとみんなに競争させろ。既存の発電所は民営化しなさい。それと、民間のIPP(独立発電事業者)を参入させなさい。そういういろんな発電所が、送電会社に電気を競争して売るような、市場の仕組みをつくりなさい。そうすれば、需要に応じて民間会社がどんどん参入してくるから、援助に頼らないでも電力供給ができる。民間会社は自分でコスト管理しながら合理的にメンテナンスもするし、故障して発電所が止まると儲けが減るから、そういうことのないように配慮する。また、競争してコストを下げるから、電力コストも下がる。市場にまかせればいちばん安く、高品質のものを安定供給できるはずだ。さらに、国として、発電所をはやく造ったらボーナスあげるとか、いろいろ細かいてこ入れをすると、柔軟で安価で高品質の安定した電力供給が可能になる!
 というわけで、世界銀行とかは、こういうセクター改革にはお金を出しましょう、そういう努力が見られないと何もしてあげないよ、という方針になった。ただ、民間としては、発電所はでかいのでそうおいそれとは作れない。つくったはいいけど、送電会社(国営)が電気を買ってくれないとか言ったら困る。買い取り保証をしろ、値段も保証しろ、しかも(そういう会社は欧米系が多かったから)料金はドル建てね、それにそのままでは儲けが出ないから優遇措置をしろ、という話が出てくる。で、途上国側は、とにかく電力が足りないから、そういう条件でものむしかない。そしてまた、当時はそれが問題だとは思われていなかった。特に東南アジアの経済はのびる一方。東アジアの奇跡は決して終わるはずではなかった。


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