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山形浩生の『ケイザイ2.0』

第17 回 日経225平均 vs 東証TOPIX

文/山形浩生


自分でチェックする、という基本的姿勢

 みなさんご存じとはおもうけれど、ぼくは別に経済のスーパー専門家ではない。実務で経済っぽい話は使うけれど、ぼくになにか取り柄があるとすれば、生意気で人のいうことをあまりありがたがらないですぐにあれこれ疑ってみる猜疑心と、あとは気軽にデータにあたって確認をする、ということくらいだろう。それだって、大したことはやっていない。ホンの基本的なことだ。

 基本的なことというと、どんなもんかってことなんだけれど……たとえば、こないだ大蔵省の、大臣官房総合政策課ってところが、省内におふれをまわしたんだって。今後、いろんな経済関係の政策とかレポートとかを行うときには、日経225銘柄平均じゃなくて、東証TOPIXを使いなさい、というもの。
 さて、なぜTOPIXのほうがよいと大蔵省は思うんだろうか。日経225平均だと、銘柄が入れ替えられたりして操作される可能性があり、データの連続性にも問題があり云々、というわけね。この4月24日に30銘柄を入れ替えたら、それがITっぽいのが多くて、IT株の下落で日経はガタガタに下がったそうな。TOPIXは一応、全銘柄の時価総額ベースの数字だから連続性は一応ある。
 しかし。なぜそんなことがいまになって出てくるんだろう。もし連続性が問題であるなら、文句を言うなら日経平均が銘柄を入れ替えた時点で言うべきじゃないか。答えは明かで、もちろん政府としては、株価回復こそ景気回復のしるしだ、というようなことが言いたくてたまらないわけだ。そして、最近の日経平均の下落が気に入らなくて、しかもそれが銘柄入れ替えによる部分が大きいと知って、けしからん、という話になっているわけだ。銘柄を入れ替えなければ、日経平均はそんなに下がらなかったはずだ、という話はたくさんきく。野村証券の金融研究所も、日経平均からTOPIXに各種指標を切り替えたと言うし。

 というわけで、ここまでが新聞なんかでわかる話だ。なるほど。ふつうだと、ここ止まりなんだろう。それで、会社でつくる資料で日経平均の数字なんかを見ると「いや、これからはTOPIXを使いたまえ」なんてことをしたり顔で言ったりするようになるかもしれない。

 でも……なんか腑におちないものがある。そもそも、日経平均とTOPIXとで、動きにどのくらい差があるんだろうか。TOPIXにすると、そんなに話がちがってくるんだろうか。どっちも市場の全体としての動きを見るために作られた指標なんだから、そんなに大きくちがうとはあまり思えないのだ。それに、アメリカのダウ平均だって銘柄入れ替えするけどそんなに問題にならないぞ。というわけで、調べてみよう。手元の『経済統計年鑑』(東洋経済)をもとに、1985年以来のTOPIXと日経平均の動きを四半期ごとにプロットしてみた。データ入力をはじめてからグラフをつくるまで、所要時間15分。世の中便利になったもんだ。手元のやつだと、データが1999年第一四半期までしか載っていないんだけれど、まあしょうがない。あと、日経平均の銘柄入れ替えとかもあるはずだけれど、そんなのもとりあえず無視している。

 さて、これを見てどう思うだろう。明らかなのは、両者は実にそっくりな動き方をしているってことだ。相関係数も何も計算してないけれど、ほとんど同じといっていい。まああたりまえだよね。そのための日経平均なんだもの。つまり、長期的な政策判断をするとき、TOPIXを使おうと、日経平均を使おうと、実質的にはなーんのちがいもなさそうだ、ということだ。そりゃ多少ずれているところはある。でも、経済政策なんて、物理じゃないんだからそもそもそんな厳密な話はできないのだ。かれらの使っているモデルやツールがわからないから、確実なことはいえない。でも、使うデータが日経平均だろうとTOPIXだろうと、最終的な政策決定におそらくほとんど影響は出なかっただろう、ということは簡単にみてとれる。

わかることと、わからんこと、がわかる

 というわけで、最初の結論としては、大蔵省はいったいなにをどうでもいいことで騒いでおるのだ、ということになる。話はどっちでも同じではないか。だいたい、前もこの欄で採りあげたけど、アメリカのニューヨークのダウ平均だって、30銘柄しかなくて、しかもしょっちゅう銘柄を入れ替える。だけど、そんなにみんな神経質にはなってないではないの。日経平均がそんなにおかしいってことは、たぶんないはずなんだ。

 でも、短期的にはちがうのかもしれない。特に銘柄入れ替えの影響が大きいのかもしれない。たとえば最近特に今年の正月からの両者の動きをちょっと見てやろうではないの。というわけで、図書館に20分ほどこもって、年頭から毎週火曜日の日経平均とTOPIXをプロットしてみた。なぜ火曜日かって? これを書いているのが水曜で、新聞に出ているのが火曜の数字だったからよ。で、結果がこれだ。

 うーん、これを見てまず気がつくのは、TOPIXのほうがとってもノイジーだってこと。知らなかった。こんなに派手に変動するのぉ? それにくらべて日経平均ってスムーズなんだね。日経平均を見ると、まあ全体的な傾向がかなりわかる。年頭に市場は上がって、1月半ばから3月半ばまでは横這い、その後急にあがってから、4月以降はずるずる下がってきたんだな、という変動の動きが見て取れる。TOPIXはむちゃくちゃだ。傾向なんかぜんぜん読めない。なんとなく、最近ちょっと下がっているような気がしなくもない。でも、なんかあまり変わっていないようだ、というくらいのことが漠然といえるくらい。でも……いや、ぼくはこのTOPIXのデータを見てなんか言えといわれても、頭をかかえるだろう。さらに、この数字をベースになにか政策っぽいことを考えるのも、すごくためらうだろう。だって、今週下がったって、来週どうなるかなんて全然見当つかないじゃないの。それをいったら日経平均だって見当はつかないけれど、あとからこうしてデータを見れば、なんか意味ありげなことが言えそうではないの。「ここんとこでコレコレの発表をしたので株価がかくかく動きまして」とか。政策の効果を云々するのもやりやすそうだ。TOPIXでは……つらいよ。だれも納得してくれないよ。いいのかな、大蔵省は、こんな数字をベースにして。そして野村証券金融研究所も、大丈夫なのかなあ。月単位くらいだともう少しましになるんだろうけど……

 というわけで、のべ45分ほどデータをエクセルに入れるだけで、長期的に見ると、何の差もなさそうだということ。そして短期的にみると、大蔵省の役人さんたちがかわいそうだな、逆にわけわかんなくなる可能性すらあるな、ということがめでたくわかったわけだ。うーむ。

 それともうちょっと腑に落ちないこと。日経平均の下落って、4/24の銘柄入れ替え以前から起きてるんだねえ。別に銘柄入れ替えたから平均株価が下がったってわけでもなさそうだぞ。そりゃ、これほどは下がらなかった、とかいうのはあるのかもしれない。でも、極端に影響してると言えるんだろうか。わからん。さらに、その前の3月後半に上がっているのは、なんか理由があるのか? わからん。

 さらに、これがあると、知り合いにいろいろ聞けるわけ。なぜTOPIXってこんなにノイジーなの? これはまだわからん。でも日経平均が下がった理由については、別の説を聞いたぞ。なんでも、銘柄入れ替えが2週間くらい前に内々にアナウンスされたんだって。それで日経平均連動ファンドが銘柄入れ替えに会わせて、自分のポートフォリオの株も入れ替えることにしたんだって。で、これを知った証券会社が、それをねらい打ちしてわざと値をつりあげたそうな。そして入れ替えが終わったらもちろんつりあげをやめたのでその銘柄の株が下がって、おかげで日経平均もずるずる下がったんだとさ。やれやれ。うーむ。ただ……上のグラフを見ると、そんな感じでもないんだよね。なぜ3月後半に日経平均は上がったの? なぜ4月頭をピークに、下がり出したの? これは入れ替え前だから、入れ替え銘柄つり上げ説では説明つかないような。さらにTOPIXとの関連で見ると、銘柄入れ替えの影響って1000円くらいみたいだけど、実際はどうなんだろうか。そんなすさまじく効いてるんだろうか。わからん。が、これはまたいずれ調べればいいか。
 ……というわけで、ぼくがやるというのは、せいぜいこのくらい。週に一回くらい気になるネタがあって、それにこうして40分かそこらかけて、ちょっと裏をとる。これだけ。でも、このくらいでもみんながやってくれると、いろんなところでもっともっとわかった、深い話が展開できるようになるんだけどな。


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