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山形浩生の『ケイザイ2.0』

第8回 MBAたちの知らないテクニカル分析

text: 山形浩生



 株のお値段についての「理論」には、大きくわけて二種類ある。ファンダメンタルズ分析というのと、テクニカル分析というもの。経済書の棚にいくと「エリオット波動」とか「ギャン相場理論」とかいうのがあるでしょう。これはぜんぶテクニカル分析の『理論』だ。いわゆる昔ながらの相場師の世界、とでも言おうか。「三日あがりが続くと四日目には転落する」とか、その手の相場師の経験則ってものがあって、そういうふうに値段の動きだけを見て、その先の値段の変動を読もうというのがこのテクニカル分析というやつだ。
 たとえばエリオット波動ってのは、相場がフィボナッチ数列にしたがって変動するというエリオットさんの信念に基づく波動理論ですな。あと移動平均法ってのがあって、半年くらいの株価の平均をとって、それより株価が下がったらデッドクロスで、上がったらゴールデンクロスでそれが買いのしるしだとか売りのしるしだ、とかあるわけね。その他、この業界は「はらみ寄せ線」とか「並び赤」とか、業界ジャーゴン たっぷりで、いかにもいかがわしいヤマ師の世界って感じ。
 さて、MBAとかが習う現代ファイナンスの理論では、このテクニカル分析というのはまったく習わない。いや、まったくというのは言い過ぎ。30秒ほど習う。「まったくのナンセンス。明日に株価があがるとわかれば、みんな今日のうちに買い占めて値をつりあげて、結果として株価は今日あがって明日はあがらなくなるだろう。そんな話があれば苦労はしないよ」というふうに。
 それでも知りたい人は、『はじめてのテクニカル分析』(林康史編著、日本経済新聞社)というとっても楽しい本を読んでみるといい。これがいかに変てこな世界かすぐわかるから。いろんな理論が紹介されているけれど、恐ろしいことにほとんどどれ一つとして「なぜ価格がそういう動きをするのか」という説明がない。どれも「これはわたしの経験則」とかいうのばっか。こんな具合。「わたしの実体験からは3枠転 換をお勧めしたい。古今東西、相場の世界では"3"というのはマジック・フィギュアなのです」
 ……星占いじゃあるまいし、そんな「マジックフィギュア」なんかで投資判断されてたまるかぁぁぁぁっ! と思うでしょう。
 ところが、この人たちは占星術ってのをマジに考えてるふしがある。この本にはワイルダーっていうテクニカル分析のえらい人のインタビューがあって、そのなかで「占星術など、いわゆる神秘主義を参考にしたりすることはあるか」なんてマジできいてるんだ。すげー。
 そしてぼくがいちばん笑ったのがこの一節。(エリオット波動の利用には二種類あって)「1つはすべての相場の動きを理論通りに解釈しようというもの。もう一つは、当たるときだけ使おうというものです。わたしは後者です」
 うぷぷぷぷっ、すばらしい。宝くじでこれをやってくれないかな。「わたしはあたる時だけ宝くじを買うという方針だ。そうすれば儲かる」あたりまえだっつーの。いつあたるかわかんないからみんな苦労するのだ。
 というわけで、なかなかつっこみどころの多い楽しい本ではある。それと著者たちが結構大手の証券屋の部長だのファンドマネージャだったりするんだが、だいじょうぶかよ。それはさておき、テクニカル分析というのはそういうものなのだ。で、役にたつか? うん、たつんじゃないかな。あたるときだけ使えば(笑)。


ランダムウオーク仮説

 テクニカル分析に対してファンダメンタルズ分析が出すのが、ランダムウォーク仮説。株価の上下はその会社の収益性にかかわる出来事によって生じる。で、その企業の業績を左右する事件というのは、特に規則性はないはず。したがって、株価の変動だけを見れば、まったく規則性のないランダムな動きになるはずだ。それだけ見ててもわかるわけはない。ちゃんと、いろんな変化が企業の収益にどんな影響を与えるか を見て、それで考えなきゃ!
 これも実は、根拠があるかといえばない。絶対に規則性はないか? と言われると口ごもるところがある。だから「仮説」になってるのだ。実は、わずかながらテクニカル分析ちっくな規則性は、それなりにあって理論もできつつある。これについては『市場と感情の経済学』(ダイヤモンド社)というおもしろい本を見てね。
 さらにテクニカル分析も完全に無意味とはいえない。短期的には、きちんとした予測よりも上手なカーブフィッティングのほうが高い精度が出ることもあるのは事実だ。そしてかなり高度なテクニカル分析で儲けてる人もいる。たとえば、人工知能やニューラルネットワークを使って、ものすごい数の株価の相関を計算しまくる。するとなんだか知らないけれど、ソニーの株が上がると、3日くらいしてアルゼンチンのな んとかいう会社の株が下がる傾向がある、というようなのが見つかったとする。すると、理由なんか考えず、それにあわせて売買を設定するわけ。
 なぜこれがうまくいくかというと、世の中の現象はすべて、完全に無関係ではないから。それは単に商取引関係だけじゃなくて、風が吹いて桶屋が儲かるよりもっと細い関係で結ばれていることだってあるだろう。たとえばそこの会社の社長さんが、子供時代に頭を紫に塗って尻にソニーの株券をつっこんだ男にいたずらされて、それがトラウマになって、ソニー株があがるとつい経営判断をまちがえる、とかね。それはファンダメンタルズではわからないし、そういうのを使った儲け話も、ないとはいえないだろう。


フラクタル理論と株価?

 あと、『日経サイエンス』1999年5月号に、変な論文が出ていた。あのフラクタル幾何学の祖マンデルブロが、株式市場はランダムウォークではなくフラクタルになっているのだ、と主張している。かれの根拠は明快。「ランダムウォーク仮説でつくったパターンと、フラクタルでつくったパターンと、実際の市場の動きと見た目が似てるのはどっち?」そしてそれは、確かにフラクタルのパターンのほうなんだよ、これが。
 ただしマンデルブロは、テクニカル分析の人たちみたいに、相場の将来を予測できるとはいわない。単に、相場のふれはばや頻度(つまりはリスク)をモデル化するときに、フラクタルのほうがいいんじゃないか、と言ってるだけだ。「なぜ?」と言われるとマンデルブロも説明できていないけれど。うーむ、でもこのパターンの似方はただごとではないなあ。その「なぜ」が出てきたら、ひょっとしたらいまのポートフ ォリオ理論のリスクの考え方がころっと変わって、ヘタすると市場がひっくり返る……ことはないけど、それなりの影響はあるかもしれない。なかなかおもしろい可能性が、いままでのテクニカル分析とはまったくちがった方向から出てきつつあるのだ。



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