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山形浩生の『ケイザイ2.0』

第6回 ダウ平均と日経平均と景気のからみあい。

text: 山形浩生



 バングラデシュへの(願わくば)最後のミッションから帰ってみたら、なんでぇ、みんなえらく浮かれてるじゃねーかよ。え? 日経平均が16,000円台回復しただぁ?
 それでもって、ニューヨークではダウ平均が1万ドル突破だぁ? へえ、豪気なこって。んでもって、なんかみんな急に景気回復気分でいる。
 とはいうものの、ダウ平均とか日経平均ってなんだかご存じか。日経平均とかみんな平気で言うけれど、実際にはその正体を知らない人って多いよ。今回は、知らない人だけ読んでおくれ。知ってる人は、まああら探しでもするといいだろう。
 株のお値段は日々変わるけれど、まあ市場全体としての動向ってのがある。企業の株があがっても、それはその企業がえらくてあがったのかな、それとも景気がよくて全体的に業績が好調なのかな? 銘柄を見て投資している人は、そういうのをある程度は仕訳したいよね。だから、市場全体としてはどうなんですか、というのがほしいわけ。でもとても全部は見ていられないし、新しいのが上場したりしていろいろ全体のパイも変わるので、いくつか代表的な銘柄を選んで、それを平均して、それで市場全体の動きを代表させよう、というのがこの手の「ナントカ平均」とか「なんとかインデックス」というヤツだと思ってね。
 実際には平均といっても、単純に平均してるわけじゃない。あんまり安い株と高い株をいっしょくたに平均すると、高い株にひきずられるから補正しようとか、あるいはときどき株を小さく分けたり、交換したり、いろいろ小技を使うから、そこらへんを補正するとかはしているので、単純に電卓を叩くだけでは出てこないのだ。が、まあそんな細かいところまでは知らなくてもよいではないの。それは株屋さんになったときに勉強すればいいこと。ぼくだってこれ以上のことは知らないし、知るつもりもない。


◆「代表的な銘柄」って何?

 さていま「代表的な銘柄」と言った。でも代表的というとどのくらい?
 市場全体のことを見るんだから、市場でたくさん取り引きされているのを中心に、あまり特定の分野に偏らないようにしたいよね。すると、東京やニューヨークの証券取引所くらい大きくなってくれば、それなりの数の株を見てやらないとダメだろうな、というようなことはなんとなく想像がつく。
 たとえば日経平均は、225銘柄を見ている。これでも少ないとか、実態にあわないとか言われる。変にマイナーな株が入ってて(どこかの金属会社とかね)、そこをだれかがちょいと多めに売ったり買ったりするだけで日経平均がふらふらして、するとそれをみてみんなが一喜一憂するってわけ。独自の指標をつくろうとするところでは、400銘柄見てますとか、500銘柄見てますとか。外国では、1000銘柄単位で見てると ころだってある。
 では、ダウ平均(というのもいろいろあるんだけれど、ふつうはダウ工業平均のこと)って、いくつくらいの銘柄が入ってると思う?
 30。
 誤植じゃないよ。たった30銘柄しか入ってないんだよ。
 まあもちろん、そこに入ってる銘柄というのはかなり大きな会社の株ばかりで、この30銘柄で、ニューヨーク株式市場に上場している株式総額の1/4くらいにはなるから、でかいといえばでかいんだけれど。でも市場全体の動向よりは、個別会社の動向にひきずられそうだなあ、という気がしない? 入ってる銘柄をごらんよ。これだけをもってニューヨーク株式市場の実態、とまでいうのはちょっとはばかられる感じでしょう。確かに市場全体があがればこの平均もあがるだろうけど、この平均があがったからといって、市場全体があがりましたと言っていいのかな、という疑問は当然出てくるでしょう。


◆景気の予想として株はあてにならない

 じゃあ、いったいダウ平均でなにがわかるのだ、ということになるんだけれど、まあ本当に投資しようという人は、個別株の動きをちゃんと見るし、ダウ平均はあくまでも参考。これがあらわしているのは、うーん、投資家の気分、というのがいちばんあたっているみたいだ。投資家がイケイケ気分なら上がるし、そうでなければ下がる、と。なんかそのくらいの話みたい。ベースとなっている企業の業績、あるいは景気の指標としては、かなり眉ツバな代物なのだ。
 実際、景気の予想として株なんかあてにならないよ、というのは、それをつくってる当のダウジョーンズ社がはっきり言ってる。確かに景気は企業のもうけに影響してくるし、するとみんなが「あ、景気が上向くな」と思ったら、株価があがりはじめる。だから、株価が景気の先行指標になっていることも多い。でも、逆に株価を見て、それにあわせて景気予想をする人たちがかなりいる。いまの日本にもいっぱいいるでしょう。「日経平均があがって景気回復のきざしが見えてきた」とかさ。これはまちがいなの。そういう人たちがいっぱいいると、バブルが起きる。これはダウジョーンズ社の「ダウ平均FAQ」(というのがあるんだよ。えらいねー)の最後のところにだってちゃんと書いてある。「ダウ平均は景気の指標には使えませんよ。株価平均を見て景気予想する人がいるので株価はまちがえやすいんですよ」と。じゃあ日経平均ってのは? 同じことだ。だからちょっと日経平均があがったくらいで、景気が回復するのなんのと言ってはいけない。株価があがったからといってあまり舞い上がるのは考え物なのだ。あくまで参考ね。


◆アメリカはバブルなのか

 じゃあ、いまのアメリカはどうなの? うん、いまのアメリカが好調なのは事実。でもダウ平均から想像されるほどではない。アメリカの現状がバブルだというのは、みんな言ってること。もう数年前から、みんないつはじけるか、どヒヤヒヤして見ているのだ。ただ、株価が急落しても、別にものすごい不況になったりはしない。これまたまちがいのないこと。もう金融政策で、株式市場の不況と実体の経済の不況とを切り離す技は、だいたい完成しているのだもの。ひとことでいえば、いつぞやのブラックマンデーのときにだって、株価が暴落してもアメリカは別に対した不況にはならなかったでしょう。これについては、今月はもう場所がないので『クルーグマン教授の経済入門』でも見ておくれれ。それにいまのアメリカはバブルだろうけれど、あまり心配しなくてもいいバブルなのだ、という話をいずれしよう。じゃあね。



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