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山形浩生の『ケイザイ2.0』
信用って最終的には数字じゃないのよ、銀行さん。

山形浩生




 前回以来、いろいろ話が動いてきた。どうも政治家のみなさんがたは、前回のぼくのコラムを読まなかったらしく(あたりまえか)、消費税を下げる話なんかをしている。やれやれ、下げてもいいけど、それをやるんなら不意打ちですぐにやんなきゃダメなのはわかるよね。来年夏とか言ったら、消費はドドッと冷え込むことになるだろう。宣言する前に、そういう事態があるかもしれないとみんなが思いはじめた時点で、ただでさえ売れてない住宅がもっと売れなくなるよ。
 あとはあの商品券の話か。消費を増やすか、それとも現金より先に商品券を使うだけか(ぼくはこれだと思う)、あるいは偽造商品券が日本を席巻するか、まあ様子見だけれど、福祉なのか景気対策なのかわけわかんなくなっているし、大丈夫かねえ。
 そして前回以来決まったことといえば、金融再生なんとか法ってのがある。銀行をどうやってたてなおすか、というお話だ。

銀行の仕組み:預金が負債で債権が資本
 銀行の話は、ちょっとややこしい。知ってる人には常識でも、ふつうの人はよーく考えてやらないと、頭がごっちゃになってくる。なぜかというと、ふつうの会社といろんなものが逆になっていて、うっかり勘違いしてしまうことがよくあるからだ。
 ふつうの会社は、なにか商売をするための資産を持っている。工場とか、特殊なノウハウとか。で、それを手に入れるためには、ものを買ったり人を育てるのにお金をかけたりしなきゃならないので、お金がいる。そのお金を集める方法としては2種類。利息をつけるからといって借りるか(負債)、共同所有者(株主)になって儲けを山分けしようといって、出資してもらうか(資本)。で、この資本が資産に対してどのくらいの割合か、というのが「自己資本比率」ってやつ。
 では問題。銀行の資産ってなんですか? 「みんなの預金だろう」と答える人は山ほどいる。ちがう。銀行の負債って「あの不良債権じゃないの?」と答えちゃう人ってのもあきれるほどたくさんいる。
 いい、預金というのはつまり、ぼくやあなたが銀行に金を貸してるわけ。だから、ぼくたちの預金というのこそが銀行にとっては負債なの。
 そして銀行の基本的な商売というのは、金貸しなのね。銀行は金を貸して利息をとって儲けるのが商売。だから、銀行の最大の資産ってのは、債権なの。不良になってるものも含めて。

不良債権
 不良債権ってなんだ? 貸したお金が帰ってこない、金利という儲けをうんでくれないということだ。債権は銀行の資産で、メーカーにとっての工場にあたる。手持ちの工場が儲けをうんでくれない――これは痛いには痛い。実入りがないし、経営効率が悪いといってバカにされるし、そんなもの抱えてるって、要するに無能なダメ会社ってことでしょ。閉鎖工場ばっかのメーカーを考えてごらんよ。
 でも、新しくお金が出ていくわけじゃない。紙の数字の上では、それなりの額があることになってる。それがある限り、別に不良債権を抱えていても、実害はないわけ……預金者が騒ぎ出さない限り。
 預金者が騒ぐとすれば、利息がつかないとか、元金が帰ってこないおそれがあるときだ。でもいまの日本では、預金者の預金は保護されてる。おりしも超低金利。多少なりとも返してもらえてるお金で、預金の金利(と銀行員のお給料)は払いきれる。だから預金者が預金を続けてくれる限り(そして金利がずっと低いままでいる限り)、銀行は不良債権なんか処理しなくたっていいんだ。いまの日本はそういう状態。

貸し渋り
 では、貸し渋りってどういうこと? いまの話なら不良債権が多くても、貸し渋る必要ないじゃん。不良債権はおいといて、新規の融資をどんどんすればいいじゃん。そうしないと商売にならないのでは?
 その通り。いままではそれをやってた。不良債権は昔からあったけど、貸し渋りは去年(1997年)くらいからでしょう。要はつまり、BIS規制ってのがあって、自己資本比率が低いところはダメ銀行の烙印を押されるわけ。これが低いと、いずれ政府が動いて無理矢理つぶされるかもしれないから、だから自己資本比率をあげとこう、という銀行の思惑で貸し渋りがはじまったらしい(そしてやっと不良債権処理もはじまってる)。
 貸し渋りをすると、債権が減る。つまり資産がなくなる。相対的に、自己資本比率はあがる。そういう判断で、銀行は金貸しのくせに金を貸さなくなっている。でもでかいところには貸し続けてるので、ちいさいところにしわよせがいってる。そういう状況だ。
 なぜ自己資本比率が大事なのか? もし銀行が倒産したら、株券は紙切れになって、所有者のお金(つまり自己資本)もパァだ。でもそれが少なければ、所有者は「どうでもいいや」と思う。だからぼくたちの貸してやった預金をばくちに使ったり、変なところに貸したり。こわいでしょ。だから自己資本比率の少ない銀行は、信用できないんだ。

金融なんとか法
 というわけで、今回のなんとか法。そのかなめは、資本注入ってやつだった。つまり日本の銀行の信用をあげるためには自己資本比率を上げましょう、というわけで銀行に政府が税金から無理矢理でも出資して(これが資本注入)、信用回復しましょう、ということになってる。比率 8% でオッケー、だそうな。
 ではまた問題。ここにやばい銀行があります。所有者がいつばくちに出るかわかりません。そこで政府がたくさん出資してあげました。さて、信用は戻るでしょうか。所有者はばくちをやめるでしょうか。つまり、所有者が失うものは増えるでしょうか?
 増えないよね。別に持ち主は、何も追加で出してないもの。むしろ政府からの金でもっとバクチを続けるおそれが十分にある。そんなのでは信用はあんまり回復しないのだ。いまの株主を全部蹴り出して国有化するとか、いままでの惨状をたてに経営にどんどん口出しするとか、そういうのがないと、こういうのはあまり意味がないはずなの。
 ところが今回の法律では、責任とか経営改善とかはあとまわしにして、とりあえず自己資本比率をあげることが優先、責任問題はさておき資本注入して金融システムの安定化をはかれ、とかいう議論が続出。8% とかいう数字だけが一人歩きして、それだけ達成すればなにかできると思ってる。信用ってそういうもんじゃないじゃん。

 というわけで、この法律を実行にうつしたとしても、金融システムの安定化に貢献するかどうかはかなり眉唾だという気がする。数字あわせ以外のところをちゃんと決めないと、何の役にもたたずに終わる気がする。この春の資本注入だって、銀行さんたちったら配当にして株主にあげちゃったんだって? そうじゃないだろ。信用ってちがうだろ。
 そしてそもそも、数字があうような形での実行すらできないだろうと指摘したのが、だれあろうまたもポール・クルーグマン。「日本の金融再生ナントカって、だめすぎ」を読んでみて。なぜ銀行が資本注入をいやがっているかよくわかるから。ここまで読み通したあなたは、もうこのくらい楽にわかるはず。そしてたぶんちまたの銀行議論もずっとよくわかるだろう。でも、わかればわかるほど落ち込むのがいまの日本の状況ではあるのだけれどね。うっふっふ。ではまた。



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